2.
結局、幸子の死は事故として処理された。
一体何をどうすれば、あれが事故になるのだろう。あんな、あんなにひどかったのに。幸子の死に様は私の眼裏にべったりと焼き付いて、生涯消えてくれそうもない。
色々と聞き取りも調査もされたけれど、私は無関係の第一発見者として扱われた。つまりは無罪放免だった。
幸子が危惧した通り、墜落する夢の話など誰も信じてはくれなかった。彼女は夢に殺されたのだという私の必死の主張は、幸子が心を病んでいたのだと、そう強く印象づけるばかりになるようだった。
私は鬱々として日々を送った。
私が居眠りさえしなければと、幸子の死は自分の所為だと、強く思っていた。
それからしばらくして。
私も、夢を見るようになった。
夢の舞台はどことも知れないビル街だ。私がいるのはそのうちひとつの屋上で、それが13階建てなのだと何故だか分かった。
周囲を見回せば、聞いていた通り縁に柵はない。歩み寄って下を覗くと、遠く小さく路面が見えた。そしてそうする私の背中を、とん、と誰かが突いた。
視界がくるりと反転し、私は夢の中で青空を見上げる。屋上には落下する私を見下ろす、誰かの影があった。
私の体が、重力に引かれて風を切り始める。
落ちる。落ちていく──。
そこで、目が覚めた。
激しい動悸が、あれはただの夢ではないと告げていた。同じだ。幸子の言っていたのと同じ夢だ。
でも、これは誰にも言わずにおこうと思った。
だって私の背中を押した手に。
その手の感触に覚えがあった。
──幸子。
あの子が、私を突いて落とすのだ。




