消しゴム
ここは誰も居ない教室。
何やら、物音が聞こえてくる。
小さな彼らの小さな悩み。
そっと耳を傾けてみよう……。
「オレ、この仕事辞めようと思う」
真っ白な身体の彼は呟いた。
「何を言っているんだい、消しゴムくん」
酷くやせ細ったとんがり頭が言った。
「どうも最近、仕事がつまらなく思えるんだよ、鉛筆くん」
「何がつまらないんだい。とても素晴らしい仕事じゃないか」
「間違った箇所を消すだけの仕事だぞ。何が素晴らしいと言うんだい。僕は君のようにクリエイティブな仕事がしたいのだよ」
彼の顔が紅く染まっているのは、午前中に消した赤鉛筆のせいだけではないようだ。
「まあ、落ち着きなよ消しゴムくん。いいかい、汚れたノートを綺麗に出来るのは君くらいだよ。僕が出来ることは汚れたノートをさらに汚すことくらいさ。自分に自信を持ちなよ」
なんとも、饒舌な鉛筆である。
「なんだか、自信が湧いてきたよ。ちょっと一消ししてくる」
……数分後、暗い顔をした彼の姿があった。
「……やっぱり、辞める」
近くには、もう一人細長いやつがいた。
その身体には、堂々と文字が書かれていた。
『油性』