プロローグ
最後に見たのは沢山の亡骸と紅い液体
そして....
「僕を忘れちゃいけないよ、いつか君を僕の――――」
そう言って微笑んだ
恐ろしく綺麗な青年だった
血に染まった青年の服
意識が朦朧とする中、そんな青年の姿は私に大きな鎌を振りかざす死神のように見えた
神様なんていない
なんて理不尽な世界だろうか
こんな世界なら....壊れてしまえ
こんな世界を私は望まなかった
こんな世界を私は見たくなかった
左目が燃える様に熱い
痛いという感覚は無く、ただ熱かった
それはきっと、さっきこの青年から受けた呪いのせいだろうか
既に私の前に青年はいない
一言残し消え去った青年
嗚呼、私は青年を忘れないだろう
私をこの状態でも生かす原動力は、そんな彼に対する復讐心
最後の気力を振り絞って
私の口から空気のような音が漏れる
だけど、だけど私が発した言葉は憎しみでも怒りでもなかった
「―――――どうして」
疑問だった
どうしてなの、どうして
その後の言葉は私の意識と共に深く暗い世界に誘われていった
――――――――――――――――
―――――――
人々はその内容に震撼する
たった一夜にして、一つの街が跡形もなく消え去った
消え去ったという言い方には多少の語弊があるかもしれない
しかしその言葉がいまだ適当だと言えよう
その街は他の街より少しばかり小さかったが、活気ある賑やかな街だった
その街の名は≪リベール≫
別名、才能の街
その名の通りその街で生まれた人間は皆、多彩な能力を持っていた
そんな各々の能力を存分に生かした多くの商業製品が軒を連ねるそんな街
強い魔法使いになりたい人間が、よく訪れる街
勿論、魔物が現れても誰も臆することは無かった
だってその街は≪リベール≫
才能のある人間が集う街だから
だが、そんな賑やかな街が一夜にして消えた
一夜にしてその街は血に染まった
その街を消し去ったのは誰なのか
人々の疑問は、疑問で終わってしまう
――――――誰一人としてその街の人間は生きていなかったのだから
国家は一大事件とするも
何の真相も掴めぬまま、その事件は闇へと葬り去られた
≪リベール≫
それは血染めの街
死神に魅入られた暗黒の街
いつしか真実を知らない人々はそう言うようになった
誰もがそう言った
だって、真実を知る者はいないのだから
そう.....たった一人の少女を除いては
少女をあえて生かした青年
しかし青年はただ生かしたわけではない
その少女に消えない呪いを残した
その呪いは少女の気が付かぬ間にどんどん少女を侵食する
そして、少女が気づいた時には
呪いは期を満たし効力を発動させた
呪いの効力が発動するまで6年の月日が流れた
呪いの名は
―――――魔力封じ
一定の魔力を押さえつける呪い
少女は日々失われゆく魔力に恐怖した
その恐怖心の中で、尚も少女を生かす復讐心
少女の瞳に映る恐怖と復讐の狭間で揺れる感情は魔物を引き付けた
あの男に復讐するまで、私は死なない
決して命を無駄にしない
死より恐ろしい恐怖を私の手であの男に...
氷上を歩くような生活で、少女の純粋だった感情は穢れていった
遂に少女は呪いの発動により初歩中の初歩、初級の魔法しか使えなくなってしまった
この場合、魔法が使えることは奇跡だった
魔力封じは名の通り魔力を封じるもの
だが少女の生まれは≪リベール≫
今は無き才能の街、血染めの街と呼ばれる消えた街
しかもこの少女
ただの≪リベール≫の人間ではなかった
王家と国家政府、そして≪リベール≫の人間だけが知る秘密
その秘密を身に宿した人間だった
秘密の名を≪キャンベラ≫
古代語で、創世の石
キャンベラを印す証は自身の名前に刻むこと
少女の名は、ミシェル=ハワアーズ=キャンベラ
創世の石を継承した人間だった
だからこそ、少女は封じられて尚魔法を使うことができた
落ちこぼれ、と二つ名を付けられても.....
6年の月日を経て
少女は国家最高峰のラタン魔法学園に入学をする
呪いを解く方法を知る
キャンベラの能力の内容を知る
あの青年があんなにも恐ろしい事を起こしたのかを...知るために
「忘れちゃいけないよ、君を僕の――――」
その後の言葉を彼から聞くために
少女はその冷たく光のない紫水晶の瞳を、鋭く前に向ける
「絶対に、許さない」
少女から出た言葉を誰一人として聞いているものはいなかった
その言葉には、いつかの疑問や悲しみは無く憎しみと怒りしかなかった
大きな門を潜る
この時より、少女の運命はまた一つ大きな変化を迎える
そのことを少女は知らない
そして少女にこれから関わるであろう人間も知らない
この物語はそんな普通じゃない落ちこぼれと、最強と謳われる普通じゃない人間とその周辺の人たちの学園物語...
別サイト掲載よりもファンタスティックに仕上げてみました。
読んでくださってありがとうございました。