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8冊目「らいとすたっふさんたち爆発する」(前編)

 

 

 12月24日。

 世間はクリスマス一色。

 外に出ればクリスマスソングとイルミネーション、幸せそうな親子連れやカップルばかり。

 独り者(ぼっち)は冬の寒さと、わが身の切なさを思い知らされる戦場で、許容もなく慈悲もなく(センサ・ペルドゥーノセンサ・ピエタ)とばかりに身を切り刻まれる。

 まさに戦場のメリークリスマス。


「クリスマスなんてないさー! クリスマスなんてうそさー! 寝ぼけた野郎が見間違えたのさー! ……全俺会議臨時決議! リア充爆発すべし!」

「ふはははは、拙者も今年のクリスマスはリア充でゴザル! リアルゴ〇ルド充でゴザルが!」

「この試練を超えれば、悪魔の使徒たちが逆位置の三角錐に集う、三日間の儀式。この半年分の霊気を右手の「憤怒の魔炎(ラースフレイム)」に充填できる……っ」

「……世間様が冷たすぎてMAJIDEもでないぜ」


 そんな中、今日も今日とて〈エルダー・テイル〉にログインしている、日本サーバー最大の戦闘系ギルド、〈D.D.D〉の男性陣。

 英国紳士然とした三つ揃えのスーツ(のように見えるクロースアーマー)を身にまとう長身の青年〈格闘家〉、セバス・チャン。通称「俺会議」。

 黒装束に額当て、腰には小太刀と典型的なニンジャスタイルに身を包む少年〈暗殺者〉、狐猿。通称「ゴザル」。

 金色の刺繍で縁取りした暗色のローブ姿、典型的悪の魔法使いを思わせる細面の青年〈妖術師〉、自称「憤怒の魔炎(ラースフレイム)魔狩人(シュライバー)」、クーゲル。通称「厨二」。

 そして、東南アジアめいたエキゾチックな意匠の皮鎧に身を包む小柄な少女〈盗剣士〉、アラクスミ。通称「MAJIDE」。ちなみに、プレイヤーはしびれる重低音の美声を持つ、正真正銘の男性。

 彼らは一癖二癖抱えたメンバー揃いの〈D.D.D〉の中でも特に個性的なメンバー、通称「ざ・らいとすたっふ」と呼ばれる一団であった。

 言うまでもないが、皆、この聖夜において現実(オフ)のスケジュールを新雪にも似た純白のまま死守してしまった歴戦の猛者たちだ。実にホワイトクリスマスである。

 高レベルフィールドでぎりぎりの戦闘をこなしながら、なおも下らない会話を繰り広げているあたりは、彼らの実力を無駄に表現している状況だといえる。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 一通りの心の叫びをぶちまけたあと、おもむろに黙りこむ一同。

 共有される沈黙。響く攻撃SEとBGM。皆、考えることは同じ。


「「「「ツッコミがいねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」」」


 そう。アキバ最大の戦闘ギルド〈D.D.D〉においても、この日ばかりはログインしている者は通常と比べて著しく少なかった。

 ログインしていても、「ゲーム内彼氏彼女」「ゲーム内嫁夫」とデートにいそしむプレイヤーも多い。

 運営側も心得たもので、この日のプレゼント用に特殊な素材をドロップするエネミーや、限定販売商品などを用意したキャンペーンを展開している。

 現実世界においても、ゲーム世界においても、この日は限りなく独り身には優しくないのであった。

 しかし、悲しいかなゲーマー気質。彼らが戦闘しているのは「期間限定素材」をドロップするエネミーが現れる狩場であり、どう見ても彼らも、このクリスマスキャンペーンに乗せられているのだった。


「女性陣は!? 三羽烏はどうしたーっ!」


 巨人の脛に拳を叩き込みながらの俺会議の嘆きに、ため息交じりで刀を振るいながら、ゴザルが答えを返す。


「三佐さんは職場(ようちえん)のクリスマス会の前日準備。リーゼさんもクリスマスパーティと聞いてるでゴザル。姐御は……」

「世界の理の変転に巻き込まれた。結界の修復にいそしんでいる」

「ああー、システムの仕様が変わってそのフォローってわけか。技術職ってのは大変だなあ」

「超訳チューニの言葉MAJIDE!?」


 二刀流のグルカナイフを一閃させる少女のアバターから放たれるのは、MAJIDEの野太い声。

 世界にはギャップ萌え、という単語が存在するようであるが、そんな単語がハルバードを担いで襲ってきそうな名状しがたき冒涜的な破壊力を誇るシチュエーションである。


「ふははは、脳内会議開催のコツは、自分の中に他人を飼う、つまり人の気持ちになって考えることだぜMAJIDE。この共感力があれば人間たいていの事態はなんとかなる! あと、脳内彼女とかも脳内再生できるし脳内クリスマスデートとかでこの世間の荒波を超えることもできる!」


 だが、このメンツにおいてそんなMAJIDEの言動は日常茶飯事であり、俺会議はさらりとそれを上回るダメ台詞で返す。

 見かけはナイスミドルの英国紳士であるが、俺会議の言動はどう見ても変態という名の紳士の類であった。


「ここまで共感の大事さをダメさ全開で主張できる男を拙者は他に知らないでゴザルよ」

「はっはっはっ、褒めるな照れるじゃないか」

「愚者の黄金。無知の幸福だな。……ギルドマスターはどうした?」

「会社絡みではずせないパーティで、面倒だって愚痴ってたでゴザル。妹連れて行って弾除け(デコイ)にするとか何とか」


 ギルドマスターであるクラスティが、若くして何らかの会社組織の経営者的な立場にいることは、スタッフメンバーにとって半ば公然の秘密である。

 声質から20代くらいと推定される彼であるが、クラスティの組織管理手腕を見れば、事実であってもおかしくないだろうというのが、大方の意見だ。


「あー……。金持ち、頭いい、声もいいで、会社経営者だろ。勘違いした肉食系(笑)女子とかほいほい突貫してくるよなあ。これで美形とかだったらマジ数え役満だろ」

「……リア充も極まると一回転してむしろ哀れでゴザルな」

「これが青い血故の責務というヤツか。了解した。地獄に落ちろギルドマスター」

「赤い人MAJIDE!?」

「で、リチョウの旦那はどうしたよヤマザキ」

「……そ、それは世俗の名だ! この世界では〈憤怒の魔炎(ラースフレイム)〉か、クーゲルかもしくは厨二と呼べ!」


 黒いローブを翻し、紫色の炎のエフェクトを放ちながら、厨二が叫ぶ。

 彼の得意技〈デモンズ・ペイン〉。現在のHPが低いほどダメージ補正が跳ね上がる、〈妖術師〉の特殊な攻撃特技である。移動系の魔法を駆使して敵の攻撃を回避しながら、残りHPを故意に下げてこの特技を連発するのが、彼のピーキーなバトルスタイルだった。


「……厨二はいいのでゴザルね」

「おっとすまねえザキヤマ」

「ふおおおおおーっ! 〈憤怒の魔炎(ラースフレイム)〉っていってるでしょうがーっ!」

「……ヤマザキ?」

「いや、コイツ、間違えてこの前のオフで本名の名刺出してヤマザキって……」

「クゥゥゥゥゥゥゥゥゲル! シュライバァァァァァァァですからぁぁぁぁぁぁ!!」

「あ、ちなみにリチョウの旦那は彼女さんとお出かけだそうでゴザル」

「ぐあーっ! あの物腰はモテルもの故の余裕か! あのタイガーマスクめ! 虎の人め!」

「SYAGYAAAAAAAAAA!!」

「スルーMAJIDE!?」 


 エネミーを蹂躙しながら、とめどなく話題が脱線し混沌状態となっていく。

 故意の茶化し役である俺会議、冷静ではあるがどこか感性がズレているゴザル、お察しくださいな厨二に、何考えているんだかよくわからないMAJIDE。

 基本的に全員がボケ属性であり、ボケでボケを洗う惨状しか繰り広げられようがないのであった。


「ええい、このメンツだと俺が脳内会議を開いてる暇がねぇ! ツッコミのユタはどうしたザキヤマ!」

「ZAKIYAMA、TIGEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」

「そんな走り屋漫画的な愛称がアヤツについているとは初めて知ったでゴザルが、アレはクラスのクリスマスパーティでゴザルよ」

「クラスっ!? あいつ幾つだよ!?」

「僕の話を聞けーっ! 5秒だけでもいいからぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「リアル高校生でゴザルが」

「なん……だと……ッ!?」

「しかも、リーゼさんの中の人と同じクラスでゴザルな」

「クラスメートMAJIDE!?」

「……〈憤怒の魔炎(ラースフレイム)〉が……疼き始めた。リア充滅と……っ」

「あ、また厨二モードに戻りやがった。つまらん。だがリア充滅は激しく同意! ただでさえリーゼさんをオンオフに渡り独り占めモードにしておいてさらにほかのクラスメートときゃっきゃうふふとはSNGG(ソレナンテギャルゲー)主人公?! ……俺弾劾裁判を開催するまでもなく有罪! ギルティ!」


 予想外な方向の羨ましいシチュエーションにゴザルを除く3人のボルテージがマッハでハウリングを引き起こす。どんなに不景気だって嫉妬の類はインフレーションなのである。

 しかし、そんな野郎連中を見て、最年少のゴザルは、らしからぬ大人びたため息をついた。


「……まあ、ユタは勘弁してやってくれでゴザルよ。アレは基本的に女がダメなのでゴザル。少しはクラスのパーティでもなんでもして耐性をつけないとアレというか、リア充どころかリアル魔法使いにクラスチェンジしかねないでゴザルよ」


 意外な言葉に全員の嫉妬モードが解除される。

 ユタと言えば、どんな相手にも物怖じせずにツッコミを入れる、遠慮とか人見知りとかそんな単語とは対極に位置する青年である。

 そもそもが、ギルドのアイドルの1人である女性プレイヤー、リーゼとバディを組んで周囲から羨望と嫉妬の視線を向けられているラッキーポジションだ。

 どう考えても、女嫌いなんて繊細な感性を持ち合わせているようなキャラクターとは思い難い。


「リーゼさん……ってーか、三羽烏には普通に話してるじゃねえか」

「あの3人は良くも悪くも女の子オーラが低いというか、漢女心(おとめごころ)あふれる女性陣だからいいでゴザルが、普通の女性プレイヤー相手だとアレは目に見えて「敬して遠ざけ」めいたモードになるでゴザルよ。実際将来とか心配でゴザルな」


 そんなゴザルの様子に、納得したようにMAJIDEが手をぽんと叩く。


「……ゴザルとユタは、アキバク出身」


 呟かれる言葉。彼が「MAJIDE」以外の発言を行うことは、ひどく稀だった。

 だからこそ、その意味を他のメンバーは理解する。

 アキバクこと、〈アキバ幕府〉。 

 数年前に〈剣豪将軍〉ヨシテルというコアなプレイヤーの元で急成長を遂げた、中規模戦闘系ギルドの名であった。

 〈アキバ幕府〉自体はさして大きなギルドではなかったが、当時は大規模戦闘での活躍を始めた新進気鋭であり、また中規模ギルドとしても特に後進育成がきめ細やかであったことから、多くの戦闘系ギルドが動向に注目をしていた。

 時間さえかければ、アキバ5つ目の大規模戦闘系ギルドになる可能性もある。

 そんな噂がまことしやかに囁かれるほどに、当時の〈アキバ幕府〉は勢いのあるギルドだった。

 しかし、間もなくそのギルドは、華々しい戦績を上げることなく唐突に解散する。

 解散の原因は、性質の悪い「姫ちゃんプレイヤー(ワガママキャラクター)」によって引き起こされた対人関係の軋轢。

 シンプルに言えば、ギルドマスター以外の幹部が色仕掛け(ハニートラップ)に落とされて潰れてしまったのである。


「……普段は表に出さないでゴザルけどね。ギルドが姫ちゃん系女性プレイヤーにぐっちゃんぐっちゃんにされて解散しちゃったせいで、アイツの若い心には女の人へのトラウマが刻まれちゃったでゴザルよ。ああみえて結構繊細なのでゴザル、アレは」

「あー……」

「……ゴザル。君は、大丈夫なのか? 心に刻まれた古痕は、寒さに疼くことはないのか?」

「はっはっはっ。姫ちゃんプレイヤーだけが女でなし、拙者はユタほど純粋ではないでゴザルよ。ってーか、おにゃのこ萌えを語る余裕がなくなったら、拙者、お終いでゴザルし!」

「しかし、そうかあ。まさか、ゴザルやユタがあの〈西風〉のギルマスと兄弟弟子にあたるとは思わなかったなあ」


 俺会議の言葉に、ゴザルのアバターがぴたりと静止する。


「……なんで……ゴザルと?」

「あれ、知らないのか? 〈剣豪将軍〉のセカンドキャラって、昔、〈西風〉のギルドマスターの相棒……っていうか、師匠役をやってたらしいぞ。なんでも〈D.D.D(うち)〉が〈天塔〉を攻略したときにヘルプで呼んだこともあるらしいぜ」


 継続するゴザルの一時停止状態。

 〈西風の旅団〉といえば、アキバ5つめの巨大戦闘系ギルド。

 本来ならば、〈アキバ幕府〉が立つかもしれなかったポジションに居座るギルドである。

 否、そこまでならばまだいい。


「……それで、そのセカンドキャラは、〈西風〉にいるんでゴザルか?」

「いんや、なんだか一時期〈ティンダロス〉ってギルドで一緒に冒険したあとは、フリーになったとかなんとか。だからそのセカンドキャラ……名前は忘れちまったけど、そいつは〈西風〉のソウジロウとは違って〈放蕩者の茶会〉には参加してなかったみたいだぜ」


 さらに継続するゴザルの一時停止状態。

 〈西風の旅団〉といえば、アキバ最大のハーレムギルド。

 男性7、女性3とも言われるプレイヤー比率のこのゲームにおいて、9割が女性プレイヤー、かつ、そのほぼ全員がギルドマスターであるソウジロウのファンであるという、恋愛シミュレーションゲームにしてもやりすぎな非現実的集団。


「ふふ……ふふふふふふ……」


 ゴザルにとって〈アキバ幕府〉の〈剣豪将軍〉は、ゲームのいろはを叩き込んでくれた、尊敬すべき兄貴分的存在である。

 なぜ、女にひどい目にあって居場所を失ったあの人に師事を受けた弟弟子が開いたのが、よりにもよって女だらけのハーレムギルドなのか。

 どうせギルドを作るなら、あの人の居場所にならなかったのか。

 ふつふつとした怒りが、ゴザル少年の胸を満たしていく。


「むぐおおおおお! ソウジロウ滅! リア充死すべしでゴザル!」

「ど、どうしたゴザル!? そういうのは俺の台詞だろっ! いつもの萌え以外には小憎たらしいまでに飄々としたキャラクターはどうしたー?!」

「〈西風の旅団〉はたった今から拙者の宿敵認定でゴザル! ハーレム滅! ソウジロウ滅!」


 叫び声がフィールドに響く。

 その瞬間。

 同一フィールドの逆端を移動していたプレイヤーキャラクターの一団が、こちらを振り向いた。


「……ぇ?」

「……最悪の邂逅……っ」

「……MAJIDE?」


 女性ばかりの6人パーティ。

 否。その中心にいるのは、ポニーテールめいて髪を髷よろしく束ねた、中性的な顔立ちの少年。

 今まさに話題となっていた、〈西風の旅団〉のギルドマスター、ソウジロウ御一行であった。


「い、いやいやゴメンナサイなんでもないです失礼しました〈西風〉のみなさん空耳ですよ空耳!」

「むごー! 千載一遇! ハーレム死すべし!」

「……厨二、足止め」

「心得た、〈アラクニッド・ネスト〉!!」


 今にも跳びかからんばかりのゴザルの足を、一瞬早く厨二の無差別移動阻害魔法が縫いとめる。

 俺会議の弁解が効果があったのか、〈西風の旅団〉一行は隣のフィールドへと移動していった。


「と、止めるなでゴザルよ厨二!」

「抑えろゴザル。何があったか知らないけど、殿中でゴザルだぞ。忠臣蔵には一週間くらい早ぇだろ」


 俺会議がゴザルをなだめにかかる。

 普段の言動はアレであるが、仮にもこのメンバーの中では最年長である。

 ゴザルの事情がわからない以上、動機に遡って説得することを早々に放棄し、客観的な事態を理由に彼の突撃を思いとどまらせようとする。


「戦力的にも4対6でこっちには回復役はなし。おまけにあの狐耳網タイツは〈茶会〉のナズナだ。俺らが採算無視で戦っても、勝率4割ってところだろ。確かに俺だってハーレムは妬ましい。けど、下手すりゃ、〈D.D.D〉と〈西風〉の全面戦争だぜ? やめとけやめと……」

「うおおおお、なんだあのハーレム状態!? しかも、でっぱいちっぱいふつうぱい、百花繚乱よりどりみどりとか! おっぱい独り占めとか許せん! 殺す!」

「そう、おっぱい独り占めとかマジ許せないと俺会議で有ざ……え?」


 聞きなれない声が会話に混じる。

 全員が振り返ると、そこにいたのは、まるで西部劇から抜け出てきたようなウェスタンブーツにテンガロンハット、破けたマントにレザーの上下といういでたちのキャラクターだった。


「なあ、お前たちもそう思うだろう! 我が愛すべき後輩諸君!」


 サムズアップの行動をアバターに取らせ、まるで歯がきらりと光そうな無駄に爽やかな口調でその男は言い切った。


「……誰でゴザルか?」

「俺かい? 俺は……世界のリア充に嫉妬という名のプレゼントを配るダンディ・サンタクロース……」

「……レッド・ジンガー、〈盗剣士〉、レベル90」

「ああもうそこステータス画面見て冷静に突っ込むとかイクナイと思うなお兄さんは!」

「って、レッド・ジンガー?!」

「……〈おっぱい二挺拳杖(トゥーハンド)〉MAJIDE?!」

「へへ、俺もまだ忘れられてなかったってか。こいつぁこそばゆいねえ」

「……誰?」

「〈D.D.D(うち)〉の初期メンバーだよ。すっげぇピーキーな戦い方をするハイエンドプレイヤーだけど、その……色々アレなことがあって、うちを抜けた人だ」


 俺会議の言葉に、レッド・ジンガーは深々と頷いた。


「うむ。だが、そんな俺の事情はどうでもいい。要はテメェらがどうしたいかだぞ、後輩諸君。不景気な顔しやがって。いや、皆まで言うな! わかる、わかるぞっ、こんな日、こんな時間に野郎だけで冒険してるような連中だ! あのハーレムパーティを見て何も感じずにいられようか! 否! 寒さに人肌恋しく冬におっぱいを求めるのが男の摂理! ギルドがどうした?! もっと熱くなれよ! 本気になれば世界が変わる! 無理を通せば道理がバシルーラ! 特技はイオナズンですが何か! あと戦力とか言ってたが、俺が加勢してやるので問題なし! ……ということで」


 まるで拳銃のような形をした杖を左右に構え、レッドは銃口で帽子のつばを上げた。


「やっちまおう!」

「すまない。レッドさん。さっぱりわけがわからない」

「者ども! ボケッとしてないでさっさとヤツらを追うでゴザルよ!」

「寝返りMAJIDE!?」

「この方はギルドの初期メンバー、つまりリチョウの旦那やギルドマスターのご友人であらせられるのでゴザルよ! その方の提案を飲まずにおれようかでゴザル!」

「……どうするよ。厨二、MAJIDE」

「……このままゴザルを一人見捨てるワケにもいくまい。〈アキバ幕府〉ネタからの豹変から察するに、そこそこやむを得ない理由もあると見た。何より」


 一旦言葉を止めて、厨二が喉の奥を鳴らした。機嫌が良いときの彼の癖だ。


「……この謎の男に唆されたのであれば、リア充爆破にも、それなりの大義名分は立とう」

「……奇遇だな。臨時俺会議でも、賛成6、反対4でこの話、乗ると出た」

「おいこらー、テメェら何ぶつぶつ言ってンだ! 景気よく行くぞ! だって今日は、クリスマスなんだぜ……っ!」


 無駄に堂々と胸を張り、同じくらいに無駄に説得力に満ちた声で畳みかけるレッド。

 理屈も通らず、はっきり言って何を語っているのかもよくわからない。

 だが、そこには有無を言わせぬ無駄な勢いがあった。

 通常の状態であれば、4人もこの言動をただの戯言として聞き流していただろう。

 しかし、世界はクリスマス。独り身たちの被害妄想はピークに達しており、かついつもならばブレーキ役であるはずのユタや三佐さんは不在、ゴザルも何やら珍しくヒートアップ。

 立場上他のメンツは抑えに回っているが、6人パーティ中5人が女性という、露骨なまでのハーレム時空を見せられて、嫉妬心頭なのは皆同じ。

 まるで表面張力ぎりぎりまで水が注がれたコップに十円玉を放り込むように、レッドの言葉は最後の背中を押すトドメだったのである。


「そうですよねークリスマスでゴザルからな!」

「おーし、行くぞ者ども、ほら、MAJIDEもぼーっとせずに来い!」

「オラッ、サンタクロースのお出ましだぁ!」

「てめーらファッキンリア充どもにプレゼントでゴザルーっ!」

「独占禁止おっぱい! 1つくらいよこしやがれーっ!」


 明らかに深夜の時間帯特有の悪酔い気味のわけのわからぬテンションに犯された4人のバカ。

 その様子を見て、ただ1人少女姿のアバターであるMAJIDEは、あきれたように肩をすくめた。


「……クリスマス バカが5人で インガオホー」


 MAJIDEが覚悟(ハイク)決め(よん)だところで、全く益も何もない(バカ)達の戦いが始まった。

 

 

 

◇ キャラクター紹介 ◇

 

セバス・チャン(格闘家LV90)

 ざ・らいとすたっふの前衛を支える〈格闘家〉。通称「俺会議」。

 「変態にして紳士」を自認しており、脳内に複数の俺人格を並立させて一人共和制をしいている単体独立国家生命体(全て自称)。

 紳士然としたスーツに身を包み、エネミーに殴る蹴るの暴行を加える様はシュールの一言。

 実害がない範囲で事態を引っ掻き回すのが趣味。

 〈格闘家〉としては珍しく、単独戦闘よりもパーティ戦における連携を重視する。

 

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