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26冊目「西風のシマさん、絶叫する」

 シマのプレイヤーは勝負事が昔から好きだった。

 小学生の頃は空手。中学に入ってからは剣道を始めた。

 努力を苦にしない気質と集中力で、並以上の実力を身に着けたと自負している。

 けれど、いつの頃からか、「女であること」が、対等な勝負を邪魔してきた。

 たぶん、第二次性徴とかいう面倒なイベントの前後からだ。少なくとも、彼女はそう感じていた。

 男と女じゃあ体格の差があるからしょうがない、と友人たちは彼女に言った。それはそうかもしれない。けれど、男同士、女同士だって、個人差はあるはずだ。

 肉体の差。そして、もう一つ、彼女の求める「まっとうな勝負」を邪魔したのは、恋愛感情という奴だった。対等のライバルだと思っていた相手が自分に特別な好意を寄せていると気づくと、それまでの勝負や関係までが不純なものに汚されたような気がした。相手が男であれ女であれ、そういった相手をシマはことごとく切り離していった。

 自分は、力量を評価してほしかったのだ。

 見てくれや、声、身体のパーツを取り立てて見てほしかったわけではない。

 高校になって、彼女は怪我で部活動を続けることが難しくなった。オーバーワークだ、と医者は告げた。のめりこむのも悪くないが、もう少し身体をいたわってやれ、と。

 ぽっかりと空いた時間。そこで暇つぶしに始めたのが〈エルダー・テイル〉だった。

 そこは、もう一つの現実。シマの知らない、一つの理想郷だった。

 現実世界の見てくれや性別と切り離されたアバターを介したやりとり。

 純粋に腕とレベルで評価される、「まっとうな勝負」が支配する世界。

 そこでシマは特に、「ロールプレイヤー」という人種と意気投合した。


 屈強な禿頭男の〈盗剣士〉を操る友人は口にした。

「この姿なら、オフのファン……知り合いの人たちにもばれませんし」

 長身痩躯の〈暗殺者〉青年を操る戦友は文字チャットに書きこんだ。

「ここでは誰も見てくれで侮らないからな。大人の物腰であれば正しくそう評価される。素晴らしいと思わないか?」

 筋骨隆々とした〈武闘家〉マッチョをぬるぬると躍らせながら、その人物はシマに戦闘での立ち回りを教えてくれた。

「うむ、お嬢さん。それでもここセルデシアはもう一つの現実である。俗世のしがらみはここでも濃かれ淡かれ存在する。ゆめ忘れぬように。あと、暇だったら婆子焼庵とかググってみると吉かもしれんな。ではっ」


 彼女らこそ、現実とゲームを切り離し、純粋にこの仮想現実の中での勝負を楽しんでいるように、シマには感じられたのだ。

 シマは〈エルダー・テイル〉で解放された。自分と同じような悩みを持つロールプレイヤーがいたことも、彼女には救いだった。

 もっとも、謎マッチョが言ったように、このゲームの中でも、男女関係が面倒を引き起こすことはあった。若い女(と思われる声の)プレイヤーだからという理由でつきまとわれたこともある。今でもシマが男性プレイヤー全般に線を引くのはそれが原因だ。

 だが、〈エルダー・テイル〉の世界では、それを解決しようとする人間もいた。

 シマが敬意を払うプレイヤー、紫陽花もまた、そんな人間の一人だった。

 だからこそ、シマは彼女からの誘いに応じて〈西風の旅団〉に加わったのだ。


「シマさん、どうしたぼんやりして」


 女性プレイヤーばかりのこのギルドの居心地はよかった。

 ただ、ソウジロウに惹かれ、アピールを続けるメンバーの気持ちは、今一つシマにはぴんとこないものでもあった。ソウジロウは強く、気配りができる青年だ。仲間として、ゲーマーとして好感は持てる。だが、あくまでここはゲームの世界だ。そこに、恋愛感情めいたものを持ち込むのは、シマにとって、自分に付きまとってきた男性プレイヤーと似たものを感じてしまうのだ。

 シマは自身を、頭のよくない女であると評価していた。男女の機微というものはきっと高度な能力を要求される特殊技能で、自分にはとても手の届かない活動なのだと。だから、脳や体のつくりから違う異性を求める気持ちは理解できず、気味が悪いと思うのは仕方がないことで、少なくとも自分には望めないことなのだと。――イサミ=シマゼキは、そう割り切っていた。

 

「聴こえてるかー、もしもーし」


 自分には、男性の気持ちはわからない。自分自身の気持ちですら、直情で視野の狭いこの頭では理解できないのだから。それが、彼女の認識の限界。

 だから、シマは、目の前の男性プレイヤーと、彼と自分を引き合わせた紫陽花とが何を考えているのか、想像すらしなかったし、そもそもしようとも思わなかったのだった。


「おいシマちゃん、お買い物だぞそうですぞ。 デュフフコポォ オウフドプフォ フォカヌポウ」

「誰がシマちゃんかっ。あと五七五が雑っ。季語もなければ後半のは日本語ですらないではないかっ」

「なにをいう。二首目は某有名川柳大賞で入賞した超有名な名句だぞ」

「どうせお前の脳内川柳大会でだろう」

「一刀両断のツッコミがいっそ清々しくて全俺が泣いたッ!」



 ◇  ◇  ◇



「ふむ、フィールドでのクエストの次はお買い物デートでゴザルか」

「くっ……なんたる王道(ワンパターン)……。だが、お約束こそ勝利への特攻剣。特技はエクスカリバーですかそうですか。セイバーこれで何人目だ。俺にも一人マスターと呼んでくれるおにゃのこがほしい」

「……結局街の中までついてきちまったよ」

「お、入るのは防具屋……ちょっと待つでゴザルよ。たしかナインテイル海岸沿い防具屋にはたしか、水辺でボーナスのつく例のアレが売っているはずではなかったでゴザルか同志レッドファーザー!?」

「おおおおなんたる慧眼じゃよ同志ゴザルスキー! この街で売られるは夏を司るチューブの加護あらたかなりしMIZUGIという奴じゃななんたるレガシーオブハレンチノ! 下着じゃなくて水着だからレートもクリアできるという現代の錬金術! 期間限定イベント産じゃないから露出は少な目デザイン大人しめだけどそれがそれがむしろいいというか玄人向けというメニアック! あとレッドファーザーとかすげえ大物感ただようネーミングでモテモテ間違いなしじゃな!」

「仲いいなおまえらっ! 勝手に帝国でも建立して人の迷惑のかからないところでモテモテを探求してくれできれば俺の目の届かないところで!!」

「ふ、少年よ。こんな言葉を知っているか。友は近くにおけ。敵はもっと近くにおけ」

「OK敵認定でいいんだなレッド先輩。あと、その紅茶カップはどこから取り出したっていうかそんな動作初めて見たよ!」

「ふふ、英国サーバー産の動作セット、通称「どこでもティータイム」だ。真の紳士はどんな戦闘の最中でも紅茶(ダージリン)の一滴たりとてこぼしませんことよ」



 ◇  ◇  ◇



「で、装備とアイテムだが、今のところ出ている情報で、シマさんはどうすりゃいいと思う?」


 防具屋に入って早々、俺会議が問いかけてくる。

 シマは、紫陽花から聞いた、次の作戦の内容を思い出した。

 エッゾ西部に一定周期で流れ着く流氷に封じられた特殊な〈妖精の輪〉から突入できるレイドゾーン、〈彷徨える氷帝廟〉。その踏破が、新実装クエスト〈武天帝の帰還〉の第二段階だ。

 〈エルダー・テイル〉のレイドクエストは、多くが2から4程度の複数のレイドゾーン攻略からなる。前段のゾーンをクリアすることで、次のエリアに突入することができるのである。

 第一ゾーンを最速クリアしたのは〈黒剣騎士団〉。銀剣こと〈シルバーソード〉との先陣争いを、層の厚さで黒剣が押し切った形だった。日本サーバーでは、第一第二ゾーンの一番槍をつとめるのが、この2つのギルドというのが定番になりつつあった。

 エリート主義の黒剣と、やる気があれば来るもの拒まずの銀剣だが、両ギルドは奇しくも、「まずは突撃、そして負けながら攻略を考える」という前のめりな気風が共通している。この「二剣」の瞬発力が、前半のゾーンでは有効なのだ。

 では、〈D.D.D〉はというと、「二剣」が挑戦を繰り返すその間に前半ゾーンを時間をかけて分析してクエスト全体の傾向を予測し、装備やアイテムを整えてから攻略に臨む。このため、後半ゾーンの攻略に強いのだ。結果として、最終レイドゾーン一番乗りは、追い上げの加速で〈D.D.D〉がかっさらうことも珍しくない。

 〈西風の旅団〉は、速攻型の黒剣や銀剣と、追い上げ型の〈D.D.D〉の中間といったところ。中小規模である分〈D.D.D〉よりフットワークは軽いが、準備できるリソースには限りがあるため、いかにタイミングよく他ギルド攻略の隙をかいくぐるかがポイントなのだと、シマは紫陽花から聞いていた。

 ともあれ、この第二ゾーンは発見されてから「二剣」がそれぞれ一回ずつ突入して攻略に失敗。〈D.D.D〉の第一部隊が威力偵察を試みるも、道半ばで攻略を断念したという。

 ロックが解除されてから他ギルドも準備を整えて挑戦をしたが、ピーキーなギミックに手を焼いて未だレイドボスまで辿りついていない。


「とりあえず、第一ゾーンと第二ゾーンでは、自然系、魚型のエネミーが多い。あと、水辺地形が多いから移動にペナルティを受けるって話だな。敵の攻撃属性は凍気と雷撃がメイン。ダメージよりも細かなバッドステータスが嫌らしいモブが多い」

「いいね。情報の確認から入るのは大事だ。で、じゃあ、〈武士〉のシマさんは何対策を重視して装備を選ぼうか」

「奥へ進むためのトリガーが4つに分散していて、侵入から一定時間でパーティランクの強力なエネミーが沸きだすとの報告がある。4パーティがそれぞれのトリガーに向かってばらばらに動くのが前提になるから、メインタンクと同様に、防御を重視すべきだろうな。属性防御重点。……どうだろうか?」

「うん。王道さね。パーティ個別に動くなら、タンクが倒れないのは大事だ。属性防御を重視すべきなのは正しいと思うよ。ただ、もし可能なら、水辺地形の対策も抑えておいた方がいいとも思う。場合によっては、属性防御を犠牲にしてでも選ぶ手もあるかもだ」

「その心は?」

「時限式で懲罰モンスが沸くなら、できるだけ早くトリガーを起動したいというのが一つ。あと、タンクの性能って、俺脳内だと、「HP×防御力×機動力」なんよ」

「……そ、その心は?」

「はい、シマさん。エルテのタンクの理想の位置取りは? なお、敵の攻撃手段には、ブレス攻撃が警戒されるとする」

「それは、敵を引き付けて味方に背中を向けさせて、タンク、敵、味方白兵アタッカー、味方後衛の順にすることだろう。ブレスを吐かれてもタンク以外巻き込まれずにすむ」

「んじゃ、尻尾振り回しで後方180度を薙ぎ払うような敵なら」

「それに白兵アタッカーが巻き込まれない位置取りだな」

「んじゃ、相手の手のうちが全くわからないときには」

「……攻撃を一度受けてからその場で判断する」

「判断したあとには位置取りをするよね。そのとき、水辺で移動速度が低下していたら……敵の範囲攻撃のリキャストが先に終わっちまうかもしれない」

「逆に、移動力いかんでは、敵の攻撃の予兆を見てから移動で、敵の攻撃範囲から外れることもできるかもしれない」

「そゆこと。花まるあげよう。俺が三佐さんかリーゼお嬢だったらがんばりましたカードあげちゃいたいとこだなっ」

「子ども扱いするなっ。ええと、なら……お、この防具が冷気属性耐性と水辺無効化のボーナスがついてるぞ。防御力は若干低いが……うん、値段も安いし買ってみよう」

「……ん? あれ、シマさん。それってもしかして」

「購入完了。すぐ装備……っと」


 ちゃりん、と小気味よい効果音に合わせ、シマの体を包む服装が変化する。

 だんだら羽織の下の袴姿が、身体の線をぴったりと出した、水着へと。


「…………」

「…………」


 沈黙が二人の間を行き過ぎる。


「あー、シマさん? そのだね。俺ブティックのハウスマヌカンがお勧めしたかったのはその、ちょっと趣味が高度なお兄さん垂涎のノスタルジック水着ではなく、水辺耐性の高いこのビーチサンダルだったわけなんだが……」

「むがaa#$%&*+!?!?!?!?」

「はいしどうどう落ち着こうシマさん! ってかアバターだから恥ずかしくないもん系な話じゃないの?!」

「別に水着が恥ずかしいとかじゃない! こう……こんなうかつを見せるとかよりによってこの装備かとか名前見ればわかるだろとかこう……わかれっ!!」

「わかったよくわかった気まずいのもよーくわかるし正直こんなベタなボケをかましてくれるとは思わなかったけど! このことは誰にも言わないし、今ここでは何も起きなかった! だんだら羽織の行水水着新撰組ガールはいなかった。いいね!」

「……うん。他言無用だぞ。絶対だぞ。いいな」

「お、俺議会の全会一致で誓うからっ」



 ◇  ◇  ◇



「なんか、ラブがコメった予感がするでゴザルよレッドファザー!? ToがHeartもしくはLOVEったじゃあくな気配っ!」

「同志ゴザルスキーよ、さながら宇宙に適応した新人類めいた常人の三倍の赤い角つきさながらのニンジャラブコメ野伏力が何かを感じ取ったのじゃよ!?」

「……そのテンションをここまで続けられるのはある意味尊敬するよ」

「だ、だが、ここは〈エルダー・テイル〉でゴザルよ。俺会議が無理強いをしたとしても、あの〈西風〉のサムライガールが断ればあの地味目なところがかえってなんかこうぐっとくるものがあったりする野暮ったい水着を着ることなぞありえないわけでそもそもハラスメントもの間違いなしであるからして、そうそうラブでコメるようなラッキースケベ展開など起きるはずがない……っ」



 ◇  ◇  ◇



「ま、まあ。ともあれ、今日はお疲れさまだ。ご教授、感謝する」


 唐突に、シマが頭を下げ、俺会議は思わず口ごもった。


「……あー、きょ、今日はどうしたシマさん。なんだか改まって?」

「クエスト中、あえてレイドと関係ない雑談をしたのは、私の肩の力を抜くためだな?」


 図星だった。視界が今くなりがちな彼女の傾向は、極端な緊張によるものというのが、俺会議の見立てだったからだ。昔、俺会議自身が、当時の教導役、リチョウから指摘されたことだった。

 意図が相手にばれていたとすれば、それは自分の教え方の不備。手品師が途中でネタバレをするようなものだ。やはり、リチョウのようにうまくはいかないらしい、と俺会議のプレイヤーはディスプレイの前で頭を抱えた。


「うへぇ浅知恵丸見え之助だった! 超恥ずかしい!」

「いや、少なくとも私には特効薬だったらしいよ。今日はよく敵が見えた」


 俺会議の照れ隠しの叫びに、シマは穏やかに答える。その口調にどこかしてやったりという感情が見え隠れしたような気がするのは、俺会議の錯覚か。

 思わぬ反撃が悔しく、俺会議はおどけた口調で切り返す。


「まあ、あんまり熱くなり過ぎないのオヌヌメな。シマさんの集中力と冷静さがあわさったら割と最強にみえる的な。特にレイドは思う通りに物事進むとかまずないし、むしろ負けてナンボだし。それにいちいち揺れないようにするみたいな。俺の場合は頭の中にもう一人の自分を作ってツッコミ役にすんの。自分にとって一番冷静な誰かを思い浮かべて脳内に飼うのな」

「……だから、俺会議、なのか?」

「……ま、そういうこと」

「うん。そうか。参考になる。……ただ、それだとその。自分の気持ちが、ぼやけたりしないのか?」


 何気ない言葉。特に何か深い意味があったものではないのだろう。

 けれど。だからこそ、その一言は、俺会議の脆い部分に、突き刺さった。


「すまん。不躾なことを言った。今日は本当に助かった。もしも迷惑でなければ、またご教授願いたい」

「お、おうさー。お役に立てたなら大悦至極」

「……私にそちらの気はないぞ?」

「うへえさすがだんだら羽織の隊士スキー。こんな小ネタまで通じるとは思わなかったぜい月代の方のかみやん!」

「もしかして、そっちも語れるクチか?」

「まあ、そんなエキスパートに詳しいわけじゃないけどな」

「そうか! 〈西風〉でも、そっちを話せるメンバーは多くなくてな!」


 話題をうまく逸らすことができた安心感で、俺会議は一瞬だけ、あることに気づくことが遅れてしまった。

 シマは同好の士を見つけた勢いのままに、そのまま店の外へと踏み出して……



 ◇  ◇  ◇



「……あああああああ!? まさかのすくすく水着インだんだら羽織だとお!? カルマ高ェでゴザルな?! メニアックにメニアックをかけてインフレーションが天元突破!?」

「ちょ、ちょっとお兄さんそれは倫理的にどうかと思うな! というか、さっきのゴザル理論だと同意!? 合意!? 人の善意の結晶を垣間見たよララァ! 人はわかりあえるんだ!」

「おい!? っていうかここだと向こうの視界内だろう帰るぞほら! 〈帰還呪文〉ッ!」

「ええいもったいない気がするでゴザルが今日はここまで! 失礼しました俺会議は変だがいい奴なんでシクヨロ頼むでゴザルよアデュー!!」

「はっ、最後にいいキャラムーブをして好感度を稼いでいくとはやるな同志ゴザルスキー! ええと、俺も何か好感度のあがりそうなことを……はははすぐ思いつくようなら今頃俺もナオンにモテモテなのじゃった! サラダバー!!」

 


 ◇  ◇  ◇



「…………」

「…………」

「その……すまん。あいつらはいい奴なんだがいかんせんバカだ」

「あああああああああばかばか私のばか! なんで装備直して店でなかったかなもうあああああ」

「お、おう」

「あ。……ご、御免。今宵はここまで。教練、改めて感謝を」

「うん。無理してロールしなくても、つらいなら泣いていいんやで」

「ああああ生暖かい目で私を見るなー! でもまた明日もよろしく! あと今日のことは忘れるように! それじゃあ!」


 ログアウトしてシマが姿を消した後を眺めて、俺会議は大きく息をついた。


「……ぼやけたりしないのか、か」


 アバターは直立不動。操作しない限り揺らぐことのない姿勢。

 執事めいた黒のスーツ。小ぎれいな恰好の、大人の姿。

 こうありたいと思って選んだ、理想の姿。

 おちゃらけて、空気を混ぜ返す、掴みどころのない実力者。

 そんなロールプレイが、一言で剥がされかけた。


「うええええ、こんなときだけ黙るなよ俺レギオンさあ。……何考えてんだろうなあ、俺」



 ◇  ◇  ◇



『セバスにクーゲル、狐猿くん。東西南のお堀は埋めて、順風満帆万事好調。さて、あと押さえるべきは、北の彼か』

『あの人は今、という奴だ。因縁奇縁、再会をお膳立てしてあげよう』

『喜べ青年。君が守れなかった彼女は、いつ戻ってきてもいいように身代わり(デコイ)を張り続けている彼女は、この世界に帰ってきていたよ。改頭換面、〈盗剣士〉たろうとも、君は今でも戦士職だ。君がその姿で注目(ヘイト)を集めていることは無駄じゃなかった。そのことを知る権利くらいはあるだろうさ』


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