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SIDE:チカ

 話すこともできない。

 歌うこともできない。

 自分の気持ちを言葉で伝えることも出来ない。 


 こんな私を好きになってくれる人なんて、この世界にいるはずない。


 そう思っていた高校1年の時、私は恋に落ちた。

 それはどうあがいても報われる望みのない、決定的な片想い。


 ……のはずだったのに。


 恋した人が大好きな人になり、愛する人になった。

 そして、私を愛してくれる人になった。




 私が桜井 チカになる日。永遠の愛を誓う日。

 大きな鏡に映る純白のドレス姿の自分を見て、これは夢なんじゃないかって思った。

 あまりに幸せすぎて、実感が湧かないのだ。


 支度を終え、一人残された控え室でまじまじと自分の姿を眺め、そして自分の頬をつねる。

 ちょうどその時、アキ君が入って来た。

 突然の来訪者にびっくりした私は、ピタリとそのまま動きが止まる。

「チカ?」

 真面目な顔で頬をつねっている私を見て、彼は大笑い。


 私と同じく真っ白なタキシードに身を包んだアキ君が近づいてきて、ドレスがシワにならないように私をソッと抱きしめる。

「何してたんだよ?」

 クスクスと笑いながら、アキ君は私の顔を覗き込む。

「あの、えっと、なんか、信じられなくって。それで、もしかして、夢でも見てるのかなって思えてきて」

 私は変な所を見られた恥ずかしさから、真っ赤になって答える。

 するとアキ君は、キュッと抱き寄せて、

「夢じゃなくて、本当に結婚するんだ。俺達はずっと一緒だよ」

 そう言って、私が大好きなはにかんだ笑顔をくれた。





 あれから数年が経ち、私は5歳の女の子と、3歳の男の子のママになった。

 アキ君と結婚したことで社長婦人にはなったけれど、グループの経営には関わらなかった。

 アキ君が絵本作家を続けるようにって言ってくれたから。


 今は半年後に出版する本の製作を進めながら、自分の子供達にプレゼントする絵本を書いている。

 本のタイトルは“こころ とどけ”。

 気持ちを伝えるのは大切なこと。

 どんなにお互いが想いあっていても、すべてを読み取ることは出来ないから。

 自分の想いを相手に分かって欲しいのなら、はっきりと言わなければならない。


 だけど、言葉にしなくても伝わる想いもある。


 声を失って。

 アキ君に出逢って。


 それがよく分かった。


 子供達にもそれに気付いて欲しくて、絵や文字に私の気持ちを精一杯込める。




 夕食の準備を済ませ、リビングで絵本の下書きをしている私。

 そこに玄関のチャイムの音が響いた。

 同時に子供達がバタバタと走ってくる。

「ママー。パパが帰ってきたよー」

「パパ、きたよぉ」

「じゃぁ、みんなで“おかえり”って言いに行こうね」

 私は子供達の手を引き、3人で玄関に向う。

 扉が開くと、子供達が我先にとアキ君に飛びついた。

「パパ、お帰り!」

「おかえりぃ」

 頼もしいパパは子供達をガッチリと受け止め、ビクともしない。

 ギュウッと抱きしめた後、2人をそっと下ろす。

「ただいま。ユカ、晃太、今日もいい子にしてたか?」

 嬉しそうに子供達の頭をなでるアキ君。

 仕事が忙しくて疲れているのに、いつも子供達には“いいパパ”でいてくれるアキ君。

 もちろん、私にとっても“いい旦那さん”であるけどね。


 子供たちと挨拶を済ませたアキ君は私に目を向ける。

「ただいま、チカ」

「おかえりなさい、アキ君」

 視線を合わせる私たち。

 瞳には大きくて深い愛情が溢れている。



 その視線や笑顔でアキ君の気持ちは伝わってくるけれど、アキ君にも私の気持ちが伝わっているだろけれど。

 せっかく声があるのだからと、私は言葉を欠かさない。

「今日もご苦労様。アキ君、愛してるからね」

 目一杯の笑顔とともに、言葉を届けた。


 私はこの先、あとどのくらい彼に『愛してる』と告げるのだろうか。

 言葉にした『愛してる』も。

 仕草に込めた“アイシテル”も。

 全部アキ君に伝わる事を、強く、強く願う。


 アキ君は腕を伸ばし、私の頬に優しく触れながら囁く。

「俺も愛してるよ、チカ」



『愛してる』


“アイシテル”



―――あなたを  一生  愛し続けます




    ~END~


後書き】


ここまで読んでくださった読者様、ありがとうございます。

温かい励ましのおかげで、ラストまでたどり着くことができました。

 


当初の予定よりページ数が増えてしまい、このまま終わらなかったりして!?」と、一人で焦っていたヘナチョコ作者のみやこでございます(苦笑)


この作品と同時期に書いていた『年下のカノジョ』(別サイトにて掲載)は、「気持ちは言葉にしないと相手に伝わらない」といったコンセプトの元に執筆をしていました。

書いている途中で、「気持ちは言葉にしないと、本当に伝わらないのだろうか?」という疑問が湧いてきまして。

そこで生まれたのが、この『声に出来ない“アイシテル”』です。

内容的には『カノジョ』真逆の作品になりましたね。


人間は目に見えるもの、耳に届くものに真実を見出そうとします。

具体的なものにしか真実は宿らないのだ、と思いがちです。

ですが、見えなくても、聞えなくても、真実は存在します。

作品を通してその事を感じていただけたら、作者冥利に尽きます。



これだけ長い作品になると、好きなシーンはたくさんあるのですが。 

特に好きなのは、9章『恋愛のバランス』で今井さんが言った


「恋愛ってバランスが大事なんですよ!

 自分が全力で愛せていないのに、全力の愛をもらおうだなんて。

そんなの勝手すぎます!!」


と言うセリフです。


みやこにとって、ものすごく耳の痛い言葉(爆)

わがまま暴君フルパワーな自分が、まさかこんなセリフを書くとは…(笑)


皆様。

人は愛して、愛されて心が豊かになってゆきます。

みやこのように、

「私を好きでいてくれなきゃ、あなたなんか嫌いになるから!」

と言う一方的な人間にはならないでください(笑)


他に好きなのは、チカちゃんがアキ君との別れを決め、泣き明かした翌日に心の中で『アキ君、愛してたよ』と呟いたシーンです。

ベッタベタに甘いシーンも好きですが、印象に残るのはこういった切ないシーンですね。

恋愛小説を書いていると、つい恋愛観をちりばめて書いてしまうのです。

このシーン以外にも、人を好きになることの素晴らしさを詰め込んでいます。

皆様が好きなシーンはどれでしょうか?



別サイトではここで完結となっておりますが、『徹さんにも幸せになって欲しい』というお声を頂きましたので、急遽番外編を書くことにしました。

現在、少しずつですが下書きを進めております。

作品公開まで暫くお時間を頂きますが、これからもこの作品にお付き合いくださると嬉しくい思います。



さて、今後は…。

書きたいことが山盛りありすぎて、体が足りません(泣)。

忙しい毎日ですが、脳内で生み出された妄想たちを書ききらないうちは、小説を書き続けることになるでしょう(笑)。




みやこ  京一  拝





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