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声に出来ない“アイシテル”  作者: 京 みやこ
第3章 初秋  
8/103

(2)体育祭10日前

 学校内のムードが何となく落ち着かない。


 特に女子。



 この学校の体育祭は1学年8クラスを2クラスずつの4つに分けて戦う。 

 1・2組は赤。

 3・4組は白。

 5・6組は青。

 7・8組は黄。


 と、分団カラーが決まっている。

 1組の俺は赤だ。


 そして、はちまきは各自で用意するのだが。



「桜井君」

 昼飯を食べ終え、友達としゃべっていると後ろから声をかけられた。

 振り返ると同じクラスの女子だった。

 確か“今井”と言っただろうか。女子バスケ部のキャプテンとか聞いたような気がするが、自分の記憶に自信はない。


 オマケに、かろうじて名字は記憶にあったが、下の名前は全く知らない。

 いや、聞かされたけれど覚えてないのが正直なところだ。


 女子は鬱陶しい存在としか認識してないため、進んで覚えようとは思わない。

 だからクラスメイトだというのに、顔と名字がかろうじて一致する程度の認識しか持ち合わせていなかった。



「なに?」

 だいぶ不機嫌に返事をした。

 楽しくしゃべっていた所に割り込んでくるといった、デリカシーのないところが女子の嫌いなところだ。


 そんな俺の様子に一瞬怯んだが、

「あ、あの……。桜井君のはちまき、私が用意してもいいかな?」

 顔を赤らめながら、恥ずかしそうに今井さんが申し出る。


―――ふぅ、またか。


 俺は心の中でため息。

 体育祭を間近に控え、俺にはちまきを用意するという女子が後を絶たない。

 小山いわく、それは『俺へのアプローチ』らしい。

 これがここ最近、女子達が落ち着かない理由。


 事あるごとに声をかけられ、いちいち呼び止められる。クラスメイト以外の女子からもだ。

 俺からすると、迷惑以外の何物でもない。


「俺の分はもう用意してあるから」

 素っ気なく告げて、話は済んだとばかりに切り上げようとすると、

「えと、じゃぁ。私のはちまきと交換してくれる?」

 更に顔を赤くして今井さんが言った。


―――なんでわざわざ交換しなくちゃならないんだ?



 好きな人のはちまきを締めて頑張りたい、という乙女心は俺には理解不能だ。

 はちまきとか関係なく、自分なりに頑張ればいい。


 みんながいる前で冷たく言い返すのも気が引けるが、ヘタなことを言ってつけあがられてもイヤだから。

「そういう申し出は全部断わってる」

 感情もなく言った。

 すると今井さんはキュッと眉を寄せて、

「そっか。話の途中に邪魔してごめんね」

 早口に言って、彼女は教室を出ていった。




「相変わらず、桜井のモテっぷりはすげえな」

 近くに立っていた滝沢が感心している。

「嬉しくないんだけど?」

 嫌そうに言う俺。

「そんなセリフ、一度言ってみたいよな」

「モテる男はつらいねぇ」

 周りの友達が口々に言ってくる。


―――本気で嬉しくないんだけどな。


 心の中で、深いため息を洩らした。



「俺、ジュース買って来るよ」

 はやし立てる友達を残し、購買へと向かう。

 途中、何度となく女子からはちまきの件で話しかけられたが、『必要ないから』と、一言で全部切り捨てた。


 イライラしながら自販機のボタンを押してコーラを買う。

 たったそれだけのことなのに。



「桜井君がコーラ買ってるぅ」


「ホントだ。コーラが好きなのかな?」


「私も先輩と一緒のコーラ、買っちゃおっと」



 同学年も後輩もひそひそ話している。


―――どいつもこいつもうるさい。


 買ったジュースを手に早く教室に戻ろうとして急いでいると、友達と一緒に歩いてくる黒髪のあの子の姿が目に入った。

 ジャージ姿という事は、次は体育らしい。

 俺に気がついた彼女は軽く頭を下げて立ち去ろうとするのに、友達のほうは止まってじっくり俺を見ていた。

 そして、

「やっぱりかっこいいね。はちまき、交換してくれないかな?」

 と、コソコソと話している。


―――またか……。


 俺は周りには分からないよう密かにムッとしたのに、どうやらあの子は気が付いたらしく、友達の袖口を引っ張って“早く行こう”と急かす。

 それでもその友達は動こうとしないで、じっと俺を見つめている。


 俺はその視線から逃げるように、その場を後にした。




 教室へと戻りながら、心の中で呟く。


―――あの子に『かっこいい』って言われてもイライラしなかったのになぁ。


 何でだろうと首を傾げていると、午後の授業開始10分前の予鈴が鳴った。



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