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声に出来ない“アイシテル”  作者: 京 みやこ
第14章 すれ違いの果てに待ち受けるもの
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(2)お兄ちゃんの告白 SIDE:チカ

 昨日から風邪を引いてしまった私の体は重だるく、熱のせいで頭が少しボンヤリする。

 うつらうつら夢と現実を行き来していたところに、ヒンヤリとした何かを感じた。 

「チカちゃん、大丈夫?」

 冷たいタオルをおでこに載せてくれるお兄ちゃんが、心配そうに私の顔を覗き込む。


“朝よりは楽になったよ。病院の薬が効いてきたんだね”


 口角を上げ、目元を微笑ませる私。

 その様子を見て、お兄ちゃんがほっと息を吐く。

「それなら良かった。何か欲しいものはある?水は?果物は?」

 こうやって、私が熱を出して寝込んだ時から、お兄ちゃんはあれこれ世話を焼いてくれる。ちょっと甘やかしすぎではないだろうかと思うくらいに。

 今日だってわざわざ仕事を休んで、病院に連れて行ってくれたのだ。


“ごめんね、迷惑かけて”


 自分は小さな子供ではないのだし、一人で病院に行くことも出来るのだが、お兄ちゃんが『心配だから』といって、ついてきてくれた。まぁ、それは心強いからありがたいけれど。

 お兄ちゃん自身が体調悪くて休むならまだしも、単なる同居人の私が病気したせいで仕事を休ませてしまったことが本当に申し訳ない。


“ただでさえ住まわせてもらって普段からあれこれ迷惑かけているのに、本当にごめんね”


 シュンと落ち込む私の頭を、お兄ちゃんがそっとなでる。

「迷惑だなんて思ってないから、気にすることないよ。俺にとって、仕事よりチカちゃんのほうが大事なんだから」

 やんわりとお兄ちゃんが微笑む。


―――あ、まただ。


 お兄ちゃんは時々こういう目をする。まっすぐに、真剣に、私をじっと見つめる。

 その視線には『幼馴染に対する優しさ』以上のものを感じるのだ。

 どうしてそんな表情をするのか訊いてみたいけれど、なんとなく訊くことができない。


 だから私は違う話題を選ぶ。


“お兄ちゃん、お医者さんなのに私のことは診察できないの?ここじゃ道具がないから?”


「んー、出来ないこともないけど。内科は専門じゃないから」

 苦笑するお兄ちゃん。


“じゃあ、何が専門なの?”


 いい機会だからと、ずっと気になっていたことを尋ねる。

 学科でスピーチしたり、研究したり。私が知っている“お医者さん”はそんなことはしていない。

 そう尋ねる私に、お兄ちゃんは鼻の頭を指でかく。

「俺の専門はちょっと変わっているんだ。チカちゃん、形成外科って知ってる?」

 お兄ちゃんは聞いたことのない言葉を告げた。


“知らない。それって、整形外科とは違うの?”


 耳慣れない言葉に首をかしげる。


「詳しく言うと違うんだよ。整形は表面的にケガを治すものだけど、形成は失った器官を元通りにするんだ」

 なんだか分からないような、分かったような説明だ。。

 改めて首をかしげると、お兄ちゃんはまた苦笑い。

「この分野は、日本ではまだ馴染みがないからね。ここ数年で研究、発達した医療なんだ」


“へぇ、そんなんだ。じゃぁ、どうしてそんな特別なお医者さんになろうと思ったの?”


 単なる好奇心で尋ねてみた。

 その問いかけに返ってきたのは、私が聞いてきた中で一番真剣な声音。 

「チカちゃんのためだよ」


“……え?”


 強いまなざしを向けられ、私は一瞬きを忘れる。


―――今、なんて言ったの?


“お兄ちゃん?”


 私の呼びかけに、お兄ちゃんがこれまでよりもずっと強い視線で私を見る。

「チカちゃんの声を取り戻すために、俺は形成外科医になったんだ」

 強く、熱い視線。

 その視線と聞かされた話にびっくりして、私は固まってしまった。


 医者になるにはすごく、すごく大変だっていう話だ。

 勉強も、お金も。

 まして、アメリカに留学してまで……。


“私のため?なんで?どうして?”


 近くにあったお兄ちゃんの右腕をつかむ。

 すると、お兄ちゃんは私の手に自分の左手をそっと重ねた。


「チカちゃんが好きだから」


 はっきりと告げられた一言に、私は目を大きくする。


―――お兄ちゃんが……、私を……好き!?



 アメリカで同居するようになって、私に接する態度がこれまでのお兄ちゃんとはどこか違う感じがしていた。

 一緒に遊んでくれた幼馴染の“お兄ちゃん”とは違った、“大人の男性”としての言動。

 そこに『私に対する恋愛感情』があったなんて。


―――まさか、そんな……。


 唖然とする私の頭を、ポンと軽く叩くお兄ちゃん。

「ごめん、具合が悪い時にする話じゃないね。今はゆっくり休んで」

 私は何も言い返せず、ただ小さく頷く。

「隣の部屋にいるから。じゃ、おやすみ」

 そう言ってお兄ちゃんは出て行った。





 私は口元まで布団を引き上げ、目を閉じた。

 薬が効いてきたはずなのに、さっきよりもっと熱が上がってきた気がする。


―――お兄ちゃんが私のことをそんな風に思っていたなんて……。


 ぜんぜん気付いてなかった。

 ずっと『仲のいいお隣のお兄ちゃん』だったのに。

 急に好きだと言われても、どうしたらいいのか分からない。


 頭の中で聞かされた言葉がグルグルと回り、それでも考えようとするのに、薬のせいでだんだん眠くなってくる。


―――私は……、どうしたら……いい……の?


 とても大事なことだから、きちんと考えなくてはいけないのに。


 まぶたが重くなってきて、私の思考は止まってしまった。

 



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