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声に出来ない“アイシテル”  作者: 京 みやこ
第13章 再びイギリスへ
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(4)蘇る記憶




 意識さえ戻れば病院にいる必要はない。

 診察を済ませた後、伯父さんたちと一緒に会社に向った。


「もうしばらく休めばいいのに」

 心配そうな顔をしている伯母さんに小さく笑いかける。

「ちょっとした打ち合わせをするだけだよ。終わったらすぐに帰るから」

 そう言って車を降りた。


 空いている会議室に横山を呼び出す。

「専務!お体は?」

 入ってくるなり、横山は俺の頭の先からつま先まで不安そうに見つめる。

「大丈夫だ。俺がいない間に何か問題はあったか?」

「いえ、まったく」

「それならいい」

 俺達は手近なイスに腰を下ろした。



「あの……」

 言いづらそうに横山が口を開く。

「何だ?」

「その……、チカさんにはお会いできたのでしょうか?」

 それが目的でイギリスに行ったのだから、どうなったのか知りたいのは当然だろう。

 しかし、残念ながら横山の期待に応えられない俺は苦々しく笑った。

「会う前にテロに巻き込まれたよ」

 そんな俺に、横山はとたんに申し訳ない顔つきになる。

「余計なことを申しまして、失礼いたしました」

「いや、気にするな」

 頭を下げる彼の肩を軽く叩いた。

「またイギリスに行けばいいだけのことだ。近いうちに出発する」

「ですが、社長と奥様が反対されるのではないですか?前回は知られずに出国できましたが、またとなると……」

 横山は俺の味方ではあるが、桜井グループの社員でもある。社長の動向を心配するのも無理はない。

 俺は背もたれに寄りかかり、大きく伸びをした。

「まぁ、すんなりとは行かせてくれないかもしれないなぁ」

 病院では何も口出ししてこなかったが、それはけして“俺達のことを認めたから”ではない。

「だが、俺が作ったシステムがあれば、仕事に関して文句はないはずだ。

チカの問題点に関しては……、もう少し時間がかかるかもしれないな。具体的な改善策が挙がれば、社長たちもある程度は納得するだろうが」

「その件で、専務にメールが届いてましたよ」

 横山がパソコンを開き、見せてくれる。


 メールの差出人はアメリカの医療研究チームだった。

 ここ数年、俺はある目的のために資金援助を行っている。


 細かい英字がびっちりと並んだその文章を、一文字も見落とすことのないように注意深く読む。

 そして、最後まで目を通した俺の顔が緩んだ。


「どうやら、チカの件は思ったより早く解決できそうだ。そうとなれば、すぐにでもイギリスに行かないと」

「では、飛行機のチケットを手配しておきます」

「頼む。出来れば2、3日中には出発したい」

「かしこまりました」

 横山は俺に頭を下げて、会議室を出て行った。



 家に戻り、再び出発するための準備をする。

「ジャケットはクリーニングに出さないとな」

 帰国の日に来ていたジャケットは、イスの背にかけたままだ。

 それを手にとって、ポケットに余計なものが入っていないか確認する。

 すると、丁寧に何かを包んだハンカチが出てきた。



「何だ、これ」

 覚えはないが、この上着も、このハンカチも俺のもの。

 不思議に思いながら、ゆっくりと包みを開く。

「……これは」

 ハンカチの中から出てきたのは小さな指輪。

 付き合って初めてのチカの誕生日に贈った、あの指輪だ。

 彼女が肌身離さず身につけていたのでリングには多少の傷があるが、四葉のクローバーの刻印と小さなピンクのガラスは綺麗に残っている。


―――どうして、これを俺が持ってるんだ?!


 ガクガクと体が震えだし、頭の中心がガンガンと激しく鳴り響いた。

 割れるように頭が痛い。


「う、ああ……」

 立っていることができず、ガクンと膝を着く。

 頭を抱えてその場にうずくまる俺に、記憶の断片が渦を巻いて襲いかかってきた。


 イギリス。


 バス。


 爆発。


 病院。



 そして……、チカ。



 目の前に火花が散り、イギリスでのことをすべて思い出した。



「俺、チカに会ったんだ……」


 3日間でいろいろな話をした。

 俺の冗談に、楽しそうに笑っていたチカ。

 自分の勉強の成果を、ちょっとだけ誇らしげに教えてくれたチカ。


 すぐ目の前にチカがいたのに、掴まえなかった。

 抱きしめなかった。


「俺、何やってんだよ……」


 記憶喪失というアクシデントとはいえ、悔しくてたまらない。

 グッと指輪を握り締める。

 彼女がこれを俺に渡したということは、『もう、俺の傍にはいられない』と伝えたかったのだろう。


 だが、それは絶対にチカの本心ではないはず。


 桜井グループや従業員。

 伯父さんと伯母さん。

 そして俺の将来のことを考えて、身を引いた。


 だからこそ、あんなにも寂しそうな笑顔で俺を見送ったのだ。





 この指輪を俺が受け取ったことで、チカは俺との関係を終わらせたと思っているのだろう。

 だが、あの時の俺は“俺”じゃない。

 桜井 晃として、チカとのことは何一つ終わってない。


―――早くチカを迎えに行こう。今度こそ、チカを抱きしめよう。


「俺は欲張りで、ワガママで、諦めが悪いんだ。チカ、覚悟してろよ」


 俺の口元がほんの少し意地悪く微笑む。


 

 さっきの頭痛の最中。

 記憶が戻る前に、チカと友達になってもらおうとしていたことも思い出した。


 しかし、俺が望むのは友達などではない。


 彼女であり、恋人であり。

 そして、一生を共にするパートナーとしてのチカが欲しいのだ。


 そのためには、どこまででも追いかけてみせる。

 そして必ず掴まえてみせる。


 手の平の指輪にそっと微笑みかけた。

「これはチカに返さないとな」


 この指輪はチカの指にはまっていてこそ、意味があるのだ。


「絶対に見つけ出すからな」 

 

 力強く、指輪を握り締めた。


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