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声に出来ない“アイシテル”  作者: 京 みやこ
第13章 再びイギリスへ
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(3)目覚め

 ゆっくりと目を開ける。

 まず視界に入ってきたのは飾り気のない、無機質な白い天井。


―――なんだ、ここは?


 体を起こそうとするが、色々な機械やチューブにつながれていて身動きが取れない。


―――ここは……病院?!チカを迎えにイギリスに行った俺が、どうしてこんな所にいるんだ?


 視線だけで室内を見回していると、静かに扉が開いて誰かが入ってきた。

「ああ、気がついたんですね」

 看護士の男性が声をかけてくる。

「あの……、どうして俺はここにいるんですか?」

 起き上がることが出来ない俺は首を少し動かして、問いかける。

 すると、その看護士は俺のことを気の毒そうな目で見た。

「桜井さんはイギリスでテロに巻き込まれて、記憶喪失になったんですよ。なので、日本のこの病院で手術をしたんです」

「テロ?記憶喪失?」

 確かに、バスに乗った後の記憶がない。

 それから何があったのか。どうやって日本に帰ってきたのか。

 まったく覚えていない。


「目が覚めたばかりで、まだ混乱していることと思います。どうぞ焦らないでください。今、ご家族の方をお呼びしますね」

 言葉を失ってしまった俺にそっと微笑みかけて、看護士は出て行った。


 しばらくして、看護士に連れられた伯父さんと伯母さんが病室に入ってくる。

「おお、やっと目が覚めたか」

「ねぇ、私たちのことが分かる?」

 2人がベッドに駆け寄ってきた。

 心配そうに俺のことを覗き込む2人に、微笑みかける。

「分かるよ。順次伯父さんと、理沙子伯母さんだろ」

 それを聞いて、伯父さんたちは胸をなでおろした。

 伯父さんは近くにあったイスに腰を下ろし、話しかけてくる。

「お前が急にイギリスに行ったと知って驚いたんだぞ。気晴らしの小旅行か?」

 わざとらしく話をはぐらかそうとするのが分かった。

 だけど、俺は正直に話す。

 これ以上、2人に邪魔されないようにという宣言の意味も込めて。


「チカに会いに行った」


 伯父さんと伯母さんがハッと息を飲んだ。

「……あの子のこと、あきらめたんじゃなかったの?!」

 伯母さんが独り言のように漏らす。

 伯父さんの瞳には戸惑いの色が強く浮かぶ。

 

 この2年間、チカのことを口に出さずに黙々と仕事をしてきた俺を見て、伯父さん達は俺がチカのことを『過去の存在』にしてしまったのだと思ったようだ。


 あいにく、チカに対する俺の気持ちは2年ごときじゃ消えやしない。

 むしろ、よけいに逢いたい想いが募った2年間だった。



「それより、新しいシステムはきちんと作動してる?」


 あのシステムには自信があり、横山のことは信頼しているけれど、実際どうなっているのかはずっと気になっていた。

 システムがうまくいってくれないと、この先の俺の長期休暇にも関わってくる。

 体調が回復したら、またイギリスに行くのだから。


 尋ねると、伯父さんは大きく頷いた。 

「ああ。信じられないくらい業務が順調だよ」

 伯父さんはなんとも言えない表情を見せる。

「自分がいなくなってもいいように、あれだけの手はずを整えていたとは……。晃、チカさんのこと、本当に本気なんだな」

 まっすぐに俺を見る伯父さんの目は、最後の確認と言った感じだ。

 それに対して、俺は満面の笑みを浮かべる。

「当たり前だろ、俺にはチカしかいないんだから」


 何があっても、どんなに邪魔をされても。

 俺は絶対にチカを手放したりはしない。


 そんな想いを込めて、2人に向ってはっきり言った。

 伯父さんも伯母さんも、そんな俺の態度に困ったように目を見合わせている。


「何度反対しても、俺の気持ちは変わらないよ」


 穏やかに。

 そして力強く、自分の想いを口にする。


「だが、あの子は口が利けないじゃないか。晃の気持ちも分からなくもないが、会社のためには……」


 今までに何度となく聞いてきたこのセリフ。

 会社を守るためには仕方がないのだと、2人も自分たちに言い聞かせてきたのだろう。


 現実的に考えると、『俺の養父と養母』と言う前に、『社長と社長夫人』でいなければならなかった。

 だけど、今は2年前とは状況が少し違っている。


「俺にとって、もちろんチカが一番大事だけど、それと同じくらい会社のことも大切に思ってる。まだはっきりとは言えないけど、すべてが丸く収まる方法が見つかるかもしれないんだ。

 だから、もう少し時間が欲しい」


 強い意思を込めて言い切った俺に、2人は何も言い返さなかった。


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