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声に出来ない“アイシテル”  作者: 京 みやこ
第10章 交差する想い
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(3)予期せぬ再会 SIDE:チカ



―――アキ君はもうアメリカに着いたかな?

 

 アシスタントの仕事を終えて家へと歩いている私は、夕暮れにさしかかった空を見上げながら彼を思う。


 そこでお腹がグゥ、と鳴った。


―――私って色気ないなぁ。


 クスッと笑う。

 夕飯は何を作ろうかと考えていたら、不意に声をかけられた。


「……チカちゃん」


 ためらいがちに私の名前を呼ぶ声。

 振り返ると、アキ君の伯母様が立っていた。



“あ、ごぶさたしていますっ”


 手話で語りかけてから、慌てて頭を下げる。


「本当に久しぶりね。すっかり大人っぽくなって、見違えたわ」


“いえ、そんなっ”  


 小さく首を横に振った。

 数年ぶりに会った伯母様は私の記憶にある通りで、変わらずお元気そう。

 でも、私を見る瞳がこれまでに知っているものとは少し違う気がする。


―――具合でも悪いのかな?


 しかし、直感が“違う”と告げている。


 伯母様の表情からすると、何か他の理由がありそうだ。

 気のせいかもしれないけれど、待ち伏せをされていた感じもするし。


 あれこれ考えていると、伯母様が口を開いた。

「少し時間あるかしら?話があるの」

 口調は優しいのに、有無を言わせぬ強さがある。


 私は頷くしかなかった。




 近くの喫茶店で向かい合わせに座る。


―――いったい、何だろう。


 一人暮らしを始めてから、アキ君の家には遊びに行かなくなった。

 それ以来の対面。

 私の前にいる伯母様は、いつもと同じく柔らかい表情をしている。

 なのにどこか思いつめた感じで、瞳の奥に暗い影が見えた。


―――いいお話じゃなさそうだな。


 どんな話をされるのか不安に思い、ドキドキしながら待っている私。

 ところが、伯母様は前に置かれたコーヒーカップを凝視したまま。


 ただ、沈黙が流れる。



 私は伯母様の視線の先に手を伸ばした。


“アキ君に何かあったんですか?”


 なかなか話し出さない伯母様に尋ねてみた。

 私の手話に気付いた伯母様は、ハッと我に返る。

「あっ、ごめんなさいね。誘っておきながら黙ってしまって」


“いいえ”


 ニコッと笑って、首を小さく横に振った。

「晃君は元気よ。無事に着いたってさっき会社の方に連絡があったもの」

 静かに微笑む伯母様のその表情がぎこちない。

 

 私はなんとなく悟った。


―――アキ君のことで、私に話があるんだ。


 これまでに私と会おうと思えば、いくらでも都合を付けて会えたはず。

 なのに、彼の出張を見計らって声をかけてくるなんて、そうとしか考えられない。


―――アキ君がいないうちに、私と話がしたかったんだ。


 ものすごく嫌な予感に襲われ、何とか落ち着こうとした私は紅茶の入ったカップに手を伸ばした。

 指先は小刻みに震えている。

 その手でどうにかカップを掴んでゆっくりと紅茶を一口含み、そしてゆっくりと飲み下した。

 震えの収まらない手に必死に力を込め、カップを落とさないように、そっとソーサーに戻す。。


 そのタイミングで、伯母様が口を開いた。


「晃君と別れてほしいの」




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