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声に出来ない“アイシテル”  作者: 京 みやこ
第10章 交差する想い
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(2)出張



 それからも、伯父さんと伯母さんは色々な女性との見合い話を持ってくる。

 そして顔を合わせれば『チカと別れろ』と口にする日々。


 俺は別れるつもりなんて、まったくない。誰に何を言われても、俺はチカから離れる気はないのだ。

 チカ以外の女性と結婚するつもりなんて、これっぽっちもありはしない。


 俺に会社を継がせたいという気持ちはありがたいし、これまで俺を育ててくれたこともありがたいと思う。

 だけど、俺はチカがいないと生きていけないのだ。


 俺が社長じゃなくても会社は成り立つ。なにも血縁者が社長になる必要はない。

 優秀な社員は他にもいるのだから、その中から社長を選べばいい。


 何度そう言っても、2人は納得してくれなかった。


 それでも俺は面と向って怒鳴るなんてことはしない。まして、“つかみかかって伯父さんとケンカ”なんてこともしない。

 ただ、ただ、自分の想いを懸命に話す。

 2人が早くチカのことを認めてくれたらいいなと、真剣に思いながら。



 伯父さんのことも、伯母さんのことも、嫌いになった訳ではない。

 意見が合わないから、俺達の関係が今はうまくいっていないだけ。

 前のように仲のいい家族として過ごせるように、俺は自分の想いを一生懸命に伝えてゆく。

 このまま辛抱強く自分の意志を通せば、いずれ2人も俺達の結婚を許してくれると思っているから。


 だが、俺の気持ちと伯父さんたちの考えが完全に逆方向を示していて、最近は気の重い日々が続いていた。





“アキ君。このところ特に疲れた顔してるよね。お仕事、大変?”


 休みの日。

 例のごとくチカの部屋に来た俺に、彼女が心配そうに言う。


「んー。大変と言えばそうかもな。でも、一時的なものだから」

 チカに余計な心配をかけたくないので、本当のことは言わない。


“そっか。早く落ち着くといいね”


 ソファに座っている俺にコーヒーを出しながら、チカが微笑みかけてくれる。

「そうだな」

 マグカップを受け取って、俺はいつもより弱い微笑みを返した。


「……ね、チカ」


“何?”


 俺の左に腰を下ろしたチカが、首を傾げてこっちを見てくる。

「もし金も仕事もなくなったら、俺のこと嫌いになるか?」


 このままずっと伯父さんたちとの関係が平行線ならば、俺はあの家を出ることになるかもしれない。

 そんなことになったら仕事も、家も、財産も、何もかもが一度になくなってしまうだろう。

 それでも、俺にはチカしかいないから……。


“いきなりどうしたの?”


 チカが変な顔をして訊き返す。


「ま、例えばの話だよ。どう?」


 チカは数回瞬きをすると、ニコッと笑う。


“嫌いになんてならないよ。そんなの決まってるじゃない。何があっても、アキ君はアキ君だもん”


 即答してくれる彼女が嬉しかった。


―――チカさえいてくれれば、俺はきっと大丈夫。


「……ありがと」

 俺は彼女を抱き寄せた。






 チカと肩を寄せ合いながら、テレビを見ている。

 ふと画面から視線をはずすと、壁にかけられたカレンダーが目に入った。

「そうだ。俺、あさってから出張なんだ」

 見合いのことでバタバタしていて、チカに話すことを忘れていた。


“どこに行くの?”


「ロサンゼルス。系列ホテルの視察って感じかな」


“アメリカかぁ。チョコレートが美味しいんだよね。値段は安いのに、けっこう味がいいんだよ”


 嬉しそうに話してくる。

 甘いものが好きなチカは、特にチョコレートには目がないのだ。


「よし、お土産はチョコに決定。一週間で帰ってくるから」


“気をつけて行ってきてね”


「日本に戻ってきたら、すぐお土産渡しに来るよ」


“え?いいよ。疲れてるだろうし、自分の部屋でゆっくりしたら?”


「なんだよ。俺に会いたくないのか?」

 チカの気遣いは分かっているが、わざとらしくすねてみる。


“会いたいに決まってるでしょ!でも、無理して欲しくないの” 


 チカはやたらにワガママを言わない。それが彼氏としては少し寂しい。

 代わりに俺がワガママだったりするけれど。

「バカ、無理してるんじゃないって。チカに会いたいんだよ」

 ギュッと彼女を抱き寄せる

「あ~、一週間もチカに会えないなんてなぁ。寂しくて気が狂ったらどうしよう」


 俺のプチ浮気の一件以来、出来る限りチカに会うようになった。

 休みの日はもちろん、仕事帰りに待ち合わせしたり、今では2日と空けずに会っている。

 それなのに、1週間丸まる会えなくなるのだ。


 オマケにチカの携帯電話は海外対応機種じゃないから、俺からのメールが受信できない。

 チカがメールを送ることも出来ない。

 完全にチカと切り離された1週間になる。


“アキ君、それは大げさだよ”


 結構本気で言った俺に、チカはおかしそうに笑っている。


「大げさじゃないって。俺、チカがいないとダメなんだ」


“もう、そんなこと言って。お仕事はきちんとしてきてよね?”


 俺の目を覗き込みながら、チカが言う。


「分かってますって。じゃ、仕事を頑張ったご褒美として、会いに来ていい?」


“……しょうがないなぁ。アキ君の好きなロールキャベツを作って待ってるよ”


 苦笑するチカ。


「絶対だぞ。10月5日は何があってもこの部屋にいろよ?」

 俺はきっちり念を押す。


“私はどこにも行かないって。ちょうど話したいことがあるから、私も会いたいと思ってたし”


「話?今すれば?」


“今はダメ、まだ自分の中で迷ってるから……。今度会ったら話すね”

  

 チカが真剣な目をしたので、俺はそれ以上訊くのをやめた。





 2日後、ロスに向けて出発した。

 伯父さんや伯母さんと多少もめていても、仕事はきっちりこなさないと。

 こんな時期にだらけていたら、ますますチカとの結婚に納得してもらえない。


 一週間後のチカの話とロールキャベツ、もちろんチカ本人に会えることを楽しみに飛行機へと乗り込んだ。

 



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