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声に出来ない“アイシテル”  作者: 京 みやこ
第9章 愛すること 愛されること
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(3)心の痛み



 水族館でデートして以来、お互いの時間の都合が合わずなかなか一緒にいられることがなかったが、ようやくチカと休みが合った。

 今日は俺の誕生日で、チカとデートの最中。


 胸の痛みの原因はまだ分からないが、チカのことはやっぱり好きで、気持ちは変わらない。


―――仕事で疲れているから、余計なことを考えてしまうのかもしれない。


 その時の俺はそう思っていた。






 食事の後に夜景を見て、少しのんびりしてから彼女を家へと送る。


“今日はアキ君の誕生日なのに、私のほうが楽しんでいたかも”


「いいんだよ。チカの笑顔が最高のプレゼントだから」


“もう。ホテルで働くようになってから、口がうまくなったよねぇ”


「そんなことないって」


 チカの家の玄関先に車を停め、降りたところでいつものように少し立ち話。

 そこに隣の家から人が出てきた。


「あれ、チカちゃん?」

 俺より5歳は年上だろうか。落ち着いた雰囲気の男の人が彼女を呼んだ。

 チカはその人をじっと見つめて、首をかしげている。


―――やけに親しげに名前を呼ぶんだな。


 俺は少しだけ警戒して、そっとチカの横に立った。


 その人は少し困ったように笑って、頭をかく。

「もしかして忘れられちゃった?俺、徹だよ。山下 徹。留学先から帰ってきたんだ」


 その人が名前を告げると、チカの顔がパッと明るくなった。


“ほんとにトオルお兄ちゃんなの!?うわぁ、久しぶりすぎて、誰だか分からなかったよ”


 チカが唇の動きと手話で話しかける。

「ははっ、8年ぶりだしな。それにしてもチカちゃん、ずいぶん大人っぽくなったなぁ」

 徹と名乗った男性は、嬉しそうにしげしげとチカを眺めている。


“私、そんなに変わった?”


「うん、綺麗になった。えと……」

 徹さんが俺に視線を向けた。

「桜井 晃と申します」

 俺は名前を告げ、軽く頭を下げた。


「彼氏かな?」

 徹さんがチカに問いかけると、彼女は真っ赤になりながらも頷く。

「そっかぁ。チカちゃんもこんな素敵な人とお付き合いするようになったのか。昔は俺の後を離れないチビッ子だったのになぁ」


 しみじみ話す徹さんにチカは苦笑い。


“そうだったっけ?”


「何だ、忘れたのか?チカちゃん、そういえばこんなことも言ってたぞ。“トオルお兄ちゃん大好き。大きくなったら、お兄ちゃんと結婚する”ってね」

 ニヤニヤとからかうように笑う徹さん。

 でも、瞳はぜんぜん意地悪ではない。優しく温かい瞳。

 純粋に昔を懐かしんでいるだけなのだろう。

 だが、彼の言葉に俺の心がザワリと波立つ。



“エー!ぜんぜん覚えてないよぉ”


 チカは一生懸命思い出そうとしているけど、無理なようだ。


“それ、嘘じゃないの?”


「確かに言ったんだよ。ま、チカちゃんが小学校低学年の時だけどね」


“なんだ。そんな昔のことかぁ。よく覚えてるねぇ”


 チカと徹さんが盛り上がっている中、俺はその様子を少し離れたところで見ていた。


―――小学校ってことは、まだチカが話せていた頃だよな。


 チカはどんな声で『大好き』と言ったんだろう。

 俺はチカの彼氏なのに、彼女の声で『大好き』と言われたことがない。

 そんなことを今さら言ったところでどうしようもないって、頭では理解していた。

 だけど……。


 チカが俺以外の男に、声を出して『好き』と言ったことがショックだった。


 俺が聞いたことのない、チカの声。

 なのに、目の前で昔話に花を咲かせているこの男は、聞いているのだ。

 しかも、『大好き』と言うセリフまで。 



 忘れていた胸の痛みが、ズクンと強く疼きはじめた。




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