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声に出来ない“アイシテル”  作者: 京 みやこ
第8章 伝わる想い
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(7)俺の本気<2>



「それは、どういうことかしら?」

 俺の表情の変化に、お母さんが少し戸惑った声を出す。


 そんなお母さんの目を見て、俺は話を始めた。

「小学生の時につらい事があって……。それ以来、人の言葉を、特に自分に向けられる好意を信じることが出来なくなってしまったんです」


 この世の不幸をすべて背負ったあの日。

 今思い出しても、まだ心の奥が冷たくなる。


 

 言葉なんて信じない。

 それを心に強く思い、誰にも心を許さなかった。


 無気力に、そして人としての温かい心を無くして生きていたそんな俺の前に、チカが現れた。


 顔を上げて、まっすぐとお母さんを見る。

「だけど、そんな俺をチカさんが変えてくれました。

 彼女のしぐさには言葉以上の力があります。それとチカさんの素直で優しい心が、俺に人を信じる気持ちを取り戻させてくれたんです」

 俺は再び穏やかに微笑んだ。

「俺はチカさんに救われたんです。こんなに素直で優しくて、かわいい女の子は他にいません」


 前もって考えていた事でもないのに、スラスラと口から出てくる。

 それは、俺の正直な気持ちだから。





「そうだったの」

 お母さんは半信半疑ながらも、俺の話に納得してくれたみたいだ。

 なんでも話を聞いてくれそうなお母さんの雰囲気に、俺はつい本音を漏らしてしまった。

「実は、かえって俺のほうが心配してるんです。チカさんに捨てられやしないかって。いい所といえば顔しかないので……」


 ここでリビングの扉が大きな音を立て、勢いよく開いた。

 着替えを済ませたチカが仁王立ちしていたのだ。


「チカ?!」

 驚いたお母さんが声をかけるが、彼女はなぜか俺を睨みつけている。

「どうかしたのか?」

 今度は俺が声をかける。

 するとツカツカと歩み寄って、座っている俺の肩にしがみついてきた。


“なんでそんなこと言うの!”


 彼女は怒りに唇を震わせている。


“アキ君の顔は確かにかっこいいけど、でも、顔だけじゃないことを知ってるもん!

 面白くて、優しくて。ホントにホントに、自慢の彼氏なんだよ!

 私がアキ君から離れるはずないもん!アキ君を捨てるはずないもん!”


 一気にまくし立てると、チカはボロボロと泣き始めた。


「チ、チカ!?落ち着いてっ」

 俺は彼女をなだめようと、とにかく優しく頭をなでた。

「ごめん、変なこと言って。そうだよな、チカは俺の顔だけを見ていたわけじゃないんだよな」


 チカはひっく、ひっくと泣きながら言う。


“そうだよっ!アキ君が一生懸命なところも知ってるし、私を大事にしてくれてるところも知ってるんだからっ。

 ずっと、ずっと、そばで見てきたんだからっ!”


―――そうだね。ずっと、そばにいたよね。 


 付き合ってから今日まで、お互いが少しでも分かり合えるようにそばにいた。

 俺がチカを見てきたように、チカも俺を見てくれていたんだ。

 『桜井 晃』という人間を見てくれていたんだ。



“バカ、バカ。アキ君のバカァ。

 今度アキ君が自分のことを悪く言ったら、絶対許してあげないからね!

 絶対、絶対、許してあげないんだから!いい?分かった?”


 泣きながら怒る彼女の顔はすごく真剣で、俺のことが大好きだと伝わってくる。


 チカの気持ちが嬉しくって、思わず笑顔になった。

「うん、分かったって。もうこんなこと言わないから、泣き止んで」

 彼女は泣いて真っ赤になった瞳でジッと俺を見上げてくる。


“本当?”


「本当だよ。俺の自慢の彼女は素直なところが取り得だよ。だから、素直に信じて」


 チカの頭を軽くポンポンと叩くと、ようやく笑ってくれた。






―――ふぅ、驚いたぁ。


 前を向けば、俺以上に驚いた顔のお母さん。


「桜井君……」

「なんでしょう?」


―――あ、人前で大騒ぎした俺たちにあきれてるのかな?


 と思ったら、どうやら違うようだ。

「チカが何を言ったのか、分かったの?」


―――は?そんなことが聞きたかったのか?


 てっきり怒られると思った。


 普段は俺を気遣ってゆっくり短く唇を動かすのに、さっきのチカは感情が爆発して、まるで俺と同じようなスピードで話していた。

 しかも、いつもの何倍も長いセリフを。


 それでも、俺には分かっていた。

 だから大きくうなずく。

「……全部?」

 確かめるように訊いてくるお母さん。

「はい、全部分かりました」

 それを聞いて、お母さんがまた驚く。目を開いて俺を見た。


 俺もチカも、どうしてお母さんがこんなことを訊いてくるのか、どうして会話をすべて読み取った俺に驚いているのか理解できない。

 2人で首をかしげる。


 いつまで経っても何も言わないお母さん。

 俺は心配になって口を開いた。

「あの……。何か悪い事したんでしょうか?」

 はっと我に返ったお母さんが、慌てて返事をする。

「あっ、ううん、違うのよ。あなたには全部伝わっていたことに驚いたの。親の私でも、チカが何を言ったのか分からないところがあったのに……」

 フフッとお母さんが笑う。チカとよく似た笑顔だ。

「それだけこの子に対して本気なのね?」

 じっと俺の目を見てくる。

「はい」

 俺はしっかりと見つめ返し、はっきりと返事をする。

「そう」

 ようやく落ち着いた表情に戻ったお母さんは、穏やかに目を細めてチカを見る。 


「あなたの彼氏は、見た目も中身も最高の人ね」


“もちろん!”



 チカの言葉は照れくさかったけど、すごく嬉しかった。


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