表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
声に出来ない“アイシテル”  作者: 京 みやこ
第8章 伝わる想い
35/103

(5)足し算:SIDE チカ

 アキ君がおしょう油を持ってくれて、空いた手を私とつなぐ。

 二人並んで歩き出した。


「さっきは本当に驚いたよ。公衆電話からなんて、初めてかかってきたし。何でメールにしなかったんだ?」


“あ、あの、充電が切れてたのを忘れてて……”


 私はしょんぼりうつむく。

「俺もよくやるよ、ソレ」

 だから気にするな、と笑いかけてくれる。

「で、なんでわざわざ離れたところにある公園の電話ボックスに?公衆電話なら他にもあるだろ」


“野良犬に追いかけられて、逃げてるうちにいつの間にか公園に来てて。逃げる場所がなくって、それであの中に入ってたの”  


「へぇ。犬、苦手?」


 私は大きくうなずく。

 追いかけられた時のことを思い出して、ブルッと震えた。

 するとアキ君が、つないでいた手にキュッと力を入れる。

「俺がいるんだから、もう怖くないだろ?」

 彼の手のぬくもりと、優しい笑顔に、大きく、大きくうなずいた。



“それにしても、よく私からの電話だって分かったね?おまけにいる場所まで”


「チカのことで俺が分からないはずないよ」

 ちょっと得意気にアキ君は言う。


“なんで?お母さんでも分かってくれなかったんだよ?”


「なんでって言われても……。そうだなぁ、チカのことを誰よりも分かろうとして、一生懸命だからかなぁ」


“そうなの?でも、それってアキ君の負担になってない?”


 私は彼に負い目がある―――障害者だから。

 たかが野良犬1匹追い払うことが出来ない。まともに電話をかけることも出来ない。

 誰もが当たり前に出来ることを、私には出来ない。


 私といて、彼は疲れたりしないのだろうか。『イヤだ』と思うことはないのだろうか。


 私の口からため息がこぼれる。

 そんな私に、アキ君はニコッと笑った。

「負担だなんて、感じたことないよ」


“本当に……?”


「うん。自分の意思でやってることだし。むしろチカのことが分かっていくたびに、達成感があって楽しい」

 優しい笑顔を向けてくれるけど、私は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


“私がこんなだから、これから先もアキ君にたくさん迷惑をかけることになっちゃうよ……”


 せっかく彼が拭いてくれたのに、涙でほっぺがまた濡れる。

 思わず立ち止まってしまった。



「チカ?」

 急に動かなくなった私にびっくりして、アキ君が名前を呼ぶ。


“ごめんね。ごめんね。アキ君の彼女が私じゃなくて、何の障害もない人だったら苦労や心配をかけないですむのに”


 ポロポロと涙がこぼれる。


 するとアキ君が私の正面に立った。

「あのさ、世の中には完璧な人っていないと思う。誰だって足りない何かを持ってるんだよ」

 私はしゃくりあげながら、黙って彼の話に耳を傾ける。

「恋人とか夫婦って、足して2になればいいんじゃないかな。1足す1は2だけど、0.5足す1.5も2だよ。

 お互いが相手の足りない部分を補えばいいと思う。俺が言ってること、分かる?」


 私は泣きながらうなずく。


「俺はチカにない声を持っているけど、チカは俺にない優しさや強さを持ってる。

 俺が1.5の時もあるけど、0.5の時もあるよ。それはチカにも言えることだから」

 つないでいた手をグッと引かれ、私はアキ君の胸にコツンとおでこをつけた。

「2人で頑張ろ」

 彼の声が頭の上から降ってくる。

 顔を上げると、そこには真剣な瞳のアキ君がいた。

「チカだけが頑張ってもダメだし、俺だけが頑張ってもダメなんだ。2人で一緒に頑張らないとさ」


 彼は私の前を歩くのでもなく。

 私の後ろからついてくるのでもなく。

 横に並んで進んでいこうと言ってくれている。


―――こんなに頼もしい彼氏、他にいないよ。



 私は空いている手で涙をグイッとふく。


“うん、頑張るね”


 泣いて真っ赤になった目で、精一杯笑った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=508014265&s●応援クリック、よろしくお願いします♪
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ