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声に出来ない“アイシテル”  作者: 京 みやこ
第7章 変わってゆく俺
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(3)EVERLASTING


 チカの誕生日をあさってに控えた日曜日、俺は1人で買い物に来ていた。

 小山が勧めてくれたアクセサリーショップは店長が趣味の延長で始めた店で、よくあるジュエリーショップのように威圧感はない。 

 そして“高校生の小遣いでも楽に手が出せる商品が多い”という。ありがたいことだ。



 指輪のコーナーでしばらく眺めていると、30歳くらいの男の人が店の奥から出てきた。

 感じからして、おそらく店長かもしれない。

「いらっしゃい。プレゼントを探しているのかな?」

 プロレスラーみたいに大柄な人だったが、声がすごく優しかったので思い切って話しかけてみた。

「あ、あの……、彼女の誕生日プレゼントなんですけど、どんなデザインがいいのか迷ってしまって。女の子にあげたことなんて無いから、その……、よく分からないんです。お勧めはありますか?」

 緊張して上手く話せなかったが、その人は俺のことを笑うことも無く、すぐ傍まで来てくれた。

 指輪が並ぶケースに目を落としながら、俺にいくつか質問をしてくる。

「彼女は何歳?」

「今度16になります」

「いつから付き合ってるの?」

「一ヶ月くらい前から」

「初めての誕生日プレゼントかぁ。そりゃ、気合も入るよなぁ。それで、可愛い?それとも綺麗なタイプ?」

「可愛いです、すごくっ」

 俺が即答すると、その人がクスッと笑う。

「君はよほどその彼女が好きなんだな」

「あ、いや。まぁ……」

 照れくさくなって頭をかいた。



「そんな初々しい君達にはこれがいいかも」


 陳列ケースから出されたのは、リングの中央に四葉のクローバーが刻印されたシルバーリング。

 クローバーの両脇には、小さくて丸いピンクのガラスが1つずつはめられている。

 シンプルだけど可愛らしくて、チカに似合いそうだ。


「このリングの裏には“EVERLASTING”って彫ってあってね。2人の関係がいつまでも続きますようにという願いを込めて作ったんだ」

「へぇ」

 渡されたリングを見ると、小さな文字で彫ってある。

「まだ高校生の君にとっては少し重い意味合いかもしれないけど、人を好きになるのはいつだってそのぐらいの想いが必要だと思うんだよ。

 生きていると色々あるから、別れを選ぶことになる時があるかもしれない。でも、付き合っている間は“ずっと一緒にいよう”って思ってほしいんだ」


 その話がすごく胸に響いて、俺はこの指輪を買うことに決めた。



 



 チカの誕生日当日は、12月というのに珍しく穏やかで暖かい。


 学校帰り、途中にある公園に寄った。

 少しだけ陽が傾いて、薄いオレンジ色の光が辺りを照らしている。

 チカと並んでベンチに腰を下ろした。

 遠くで子供たちの楽しそうな声がしているが、俺たちの近くには人がいない。



 俺は早速、通学バッグの中から包みを取り出す。

「誕生日、おめでとう」


 チカが驚いてパチパチと瞬きした後、慌てた様子でメモに書き出した。


“どうして知ってるの?私、今日だって教えてないのに”


「小山が教えてくれたよ。“付き合い始めて最初の彼女の誕生日は特に重要なんだぞ”って、すっげぇエラそうに言いながらさ」 


“もう。圭ちゃんたら”


 クスクスと笑いながら、チカはペンを動かす。


“アキ君、ありがとう。ね、開けてもいい?”


「どうぞ」


 チカは嬉しそうにラッピングを解く。

 中から出てきたのはチカが好きそうな色のペンと、やたら分厚いメモ帳。その厚みに目を丸くしている。


「だって、チカはおしゃべりだから。このぐらいじゃないと、すぐになくなっちゃうだろ」


 するとチカがぷぅっと膨れる。


“私はそんなにおしゃべりじゃないもん。アキ君に合わせて話してるだけだもん”


「なんだよ。俺のせいにするのか?」


 苦笑いを浮かべて軽く睨むと、チカはペロッと舌を出し、


“お互い様かな”


 と書いた。




 チカはメモとペンを大事そうに撫でながら、ポツリと呟く。


“2人ともおしゃべりだから、こんなに厚いメモでもすぐになくなったりして”


「その時はまた買うよ。この先ずっと、俺がメモを買ってあげる。……ずっと」


 俺の真剣な声に、チカは少し眉をひそめる。


“ずっと?それ、本気?” 


 幼い自分たちが口にする『ずっと』は危うくて、もろくて、いつ崩れ落ちるか分からない。

 それでも、俺はずっと、ずっと、チカと一緒にいたい。

 この想いは遊びなどではない。


「本気だよ」

 チカは少し首をかしげて、小さく笑う。

「その顔は信用してないな?じゃ、もう1つプレゼント」

 キョトンとしたチカの右手に、淡いピンクの布が張られた小箱を載せる。

「中、見て」

 うなずいたチカが恐る恐る蓋を開けて、息を飲んだ。

 その驚いた顔は俺の予想以上だ。


 太陽の光がちょうどリングに当たって、キラキラと輝いている。

 固まってしまったチカの左手を取って、その薬指にリングをはめてあげた。

「このリングには“いつまでも一緒にいられますように”って言葉が彫ってあるんだ」

 そのまま彼女の手を握りこむ。

「俺はまだまだ子供だけど、ずっとチカと一緒にいたいって気持ちは本当だよ」


 チカはただじっと俺を見つめる。

 その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいて、泣きたいのと笑いたいのがごちゃごちゃになった顔で、何度も何度もうなずいていた。




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