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声に出来ない“アイシテル”  作者: 京 みやこ
第6章 重なる想い
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(4)人を好きになる権利


 俺は体育祭の時以上に一生懸命走った。


―――早く行かないと!早く!早くっ!!



 校舎の角を曲がって目に入ったのは、ケラケラと笑い続ける3年の女子の背中。

 それと、スカートをぎゅっと握り締めて、必死に涙をこらえている大野さんだった。



「お前ら、何やってんだっ!!」

 5人を大声で怒鳴りつけた。

 ギクリ、と体をこわばらせ、5人がゆっくりと振り向く。

 俺の姿を視界に捉えて、更に全身を硬くした。

「さ、桜井君っ!どうして、ここに!?」

 松本の顔が真っ青になる。

 問いかけを無視して、俺は肩を震わせている大野さんに近づいた。

 そして、小さな彼女を自分の後ろに隠す。

「先に俺の質問に答えろ!人目のつかない所で、お前等は何をしてたんだ!?」

 低く冷たい声で問いかけ、5人をじっくりと睨みつける。


 しかし彼女たちはオロオロと視線を泳がせるだけで、口を開こうとしない。


 俺は一歩前に出た。

「さっさと答えろっ!!」

 怒鳴り声に驚いて、5人は肩を竦める。

 やや間があって、松本が怖々と話し始めた。

「あ、あの……。その子が桜井君に付きまとっているから……。それで、ちょっと忠告をしていただけ。べ、別に虐めていた訳じゃないのよっ」

 松本が取って付けたような言い訳をすると、残りの4人も一斉に自己弁護を始める。

「そ、そうよ。桜井君は周りに女子がいると不機嫌になるじゃない」

「だから、私たちは桜井君のために……」


 自分たちの行動に反省の色が見えないこいつらに対して、本気で腹が立った。


「俺がいつ、そんなことを頼んだっ!?」

 あまりの怒声に、5人がビクッと震える。

「この子は俺に付きまとったりしてない。俺から彼女に近づいていたんだ!」

 松本は泣きたいような、怒りたいような、複雑な顔をする。

「それ……、本気で言ってるの?」

「そうだ!」

 俺がはっきり言うと、松本は突然叫びだす。

「私のことは鬱陶しがるのに!!その子は話もできない欠陥人間なのよっ?!どうしてそんな子を選ぶの?!」

 ヒステリックな松本よりも更に大きな声を上げる俺。

「ふざけたこと、言ってんじゃねぇよ!!」

 俺の勢いに、5人が後ずさった。

「人の心の痛みが分からないお前らのほうが、よっぽど欠陥だらけだっ!下級生1人によってたかって言いがかりをつけるなんて、最低な人間だな!!」

「そんな、ひどいっ。私は、ただ桜井君のためを思って。あなたが好きだから……」

 松本が俺にすがるような視線を送る。



 俺は一つ息をついて、静かに言った。

「もちろん松本にも、そこの女子たちにも、人を好きになる権利はあるさ」


 好きになるだけなら、何の問題もない。

 彼氏がいる女の子を好きになることも、彼女がいる男の子を好きになることも、好きでいるだけなら許されると、俺は思う。

 報われないことを承知で、影ながらそっと想いを寄せることは悪いことではない。


 だが、こいつらは許されないことをした。



 もう一度、全員を睨みつける。

「でもな。その権利は“好きな相手を手に入れるために、人を傷つけていい”ってことじゃないんだっ!」

 愕然とする5人。

「二度と余計なことはするな。分かったなっ!!」



 俺の怒りにおびえながら、彼女たちは足早に逃げ去っていった。


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