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声に出来ない“アイシテル”  作者: 京 みやこ
第6章 重なる想い
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(3)校舎裏 SIDE:チカ


 帰ろうとして校門に向かって歩いていたら、聞き覚えのない声で名前を呼ばれた。

 戸惑いながら振り返ると、何人かの先輩たちが怖い顔をして立っていた。


―――この人たちは誰?3年生ってことは分かるけど。


 呼び止められた理由が分からずにボンヤリしていると、一人の先輩がイライラと口を開いた。

「話があるの。一緒に来て」

 髪の長い先輩がそう言うと、いつの間にか私の横にいた人がグイッと右腕を引っ張る。


―――いたっ。


 私が痛みに顔をしかめても、掴む力は緩まない。

 放してほしくても言葉にはならないし、腕をつかまれているから、メモに字を書くことも出来ない。


―――いったい何?私、どうなるの?


 無言で歩く先輩たちが怖くて、怖くて。

 掴まれた腕が痛かったけれど、私はおとなしくついていった。








 誰もいない校舎裏に着いたとたんに乱暴に腕を解かれて、私は転んでしまった。


「あらぁ、ごめんなさいね」

 クスクス、クスクス。


 私の腕を掴んでいた先輩が笑いながら謝る。

 ちっとも気持ちがこもっていない“ごめんなさい”だった。


 よろよろと立ち上がってスカートのほこりを払っていると、髪が長くて背の高い先輩が私の前に立つ。

「あなた、自分が目障りな存在だっていう自覚はないの?」

 体の前で腕を組んでいる先輩。私を見下ろす視線はすごく冷たい。


―――目障り?どういうこと?


 どうしてこの人たちがこんなにも怒っているのかが、私にはまったく分からない。

 3年の教室がある階には、圭ちゃんに用事がある時しか行かないし、用が済んだらすぐに自分の教室に戻るようにしている。

 目障りと思われるほど、ウロウロしてないはず。


 首をかしげて考えていると、苛立ちを募らせた先輩たちが一斉に口を開いた。

「本当に分からないの!?思った以上に鈍感なのね」

「見た目もぜんぜんオシャレじゃないし、すべての感覚が鈍いのかしら?」

「そうなんじゃないの。さっきもちょっと力を入れただけで、あんなに派手に転んだわ」

「そっかぁ、運動神経も鈍いんだ」

「かわいそう~」

 私のことを悪く言って、面白そうに笑っている先輩たち。


―――どうして?なんで、こんなことを言われなくちゃならないの?


 遠慮なく向けられる悪意に混乱し、私は訳も分からずただ立ち尽くす。



「まだ分かっていないみたいだから、教えてあげるわ」

 私のことを“目障りだ”と言った先輩が一歩前に出る。

「私は桜井君のファンクラブ会長よ。桜井君に迷惑がかからないように、抜け駆けする子を取り締まってるの」


―――抜け駆けを取り締まる……。私に何の関係が?


 再び首を傾げると、すごく憎しみのこもった声でこう告げてきた。


「あなた、彼にずいぶんと馴れ馴れしいわよね」


―――えっ?


 私はこの会長さんが言っている意味が飲み込めなかった。


 圭ちゃんとは仲がいいのは認める。

 だけど、桜井先輩とは挨拶をしたりする程度で、人から言われるほど仲良しではないと思う。


 時々、私のことを手伝ってくれるけれど、それは私から頼んだことではなくて、先輩が進んで手を貸してくれているのに。


 自分から馴れ馴れしくした記憶はないのに。



「ここにいる人たちが見てるのよ。桜井君に荷物を運ばせたり、あれこれ雑用させているのを」


―――違います!私はそんなこと、先輩にさせていません!!


 そう言いたいのに、声のない私には反論できない。


「あなたみたいな人が桜井君の近くにいるのは許せない。話もできない欠陥人間のくせに、この身の程知らず!!」

 完全に私を見下した口調。

 私は目の奥がジンと熱くなるのを必死で耐える。


「エリカ~。それはちょっと言い過ぎなんじゃないのぉ?」

 会長さんの後ろにいる4人が、笑いながら言う。

「言い過ぎ?そんなことないでしょ。だってこの子、泣いてないもの」

「あ、本当だぁ」

「っていうか、欠陥人間だから泣き方を知らないんじゃない?」

「あははっ。ありえる~」

 手を叩いて笑い転げる先輩たち。

 仕草も口調も視線も、すべて私に対する悪意がこもっていた。



 容赦のない悪意を浴びせられて、私は唇が切れるほど噛み締める。

 ここで涙を見せたら、この人たちは面白がってもっと容赦のない言葉を浴びせてくるかもしれない。



―――大丈夫だもん。泣かないもん。


 必死になって自分に言い聞かせる。

 先輩たちはそんな私の顔を見て、更に声を上げて笑い続ける。


―――泣かないもん……。




 だけど、何度強く言い聞かせても、私の心はもう限界。


―――泣きたくなんかない。でも、もう無理……。


 瞳にジワリと涙が浮かぶ。






 その時、この一角に誰かが飛び込んできた。



 桜井先輩だった。




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