(5)報われない想い
圭ちゃんと桜井先輩は仲良しらしい。学校で圭ちゃんを見かけると、いつも隣には先輩がいる。
いとこの圭ちゃんは小さい時から一緒で、兄妹みたいに育ってきた。
いつも気にかけてくれていて、私の姿を見かけると近くにやってくる。
そうなると、そばにいる桜井先輩もやってくるわけで。
みんなは先輩のことを『不機嫌で怖そう』っていうけれど、私は初めて会ったあの日以外、そんな顔を見たことが無い。
たまに冗談を言ったりするし、荷物を運ぶのを手伝ってくれたり、面白くて優しいところがある。
圭ちゃんとふざけあう楽しげな先輩が見られて嬉しい。
だけど、最近は先輩の顔を見ていると悲しくなる。
体育祭で一生懸命な先輩を見て、なんだか私の心が落ち着かないことに気がついて。
それが“恋”だということに気がついて、胸の奥が苦しくなった。
だって、私は先輩にとって恋愛対象には見てもらえないから。
背も小さいし、大して美人でもないし、学校の成績は真ん中くらいだし、取り立てて長所が無い。
おまけに声が出ない。
ただでさえ不利なのに、決定的なマイナスポイントを持つ私だから……。
そんな私に先輩は言う。
「どうして?女の子ってそういう作品が好きだよね?」
本を図書室に運んでくれた先輩は、棚に戻す作業を手伝ってくれながら何気なく言った。
もちろん悪気があってのことではないと分かっている。
けれど、今の私にとってその話題はつらすぎる。
私は深く俯いてペンを動かした。
“そういうお話を読むと、恋愛は自分の手が届かないところにある物だって思い知らされるんです。それが嫌で、恋愛小説は読みません”
中学生の時、クラスの男子に笑われた事が脳裏に浮かび、目頭が熱くなる。
“話も出来ない私を好きになってくれる人なんて、どこを探してもいませんから”
いつもより少し乱暴に書きつけたメモを押し付けるように渡して、私は司書室へと逃げ込んだ。
司書の先生はまだ来ていなくて、薄暗い部屋に私一人。
自分には恋愛が出来ないとあきらめていたのに。
とっくにあきらめていたのに。
―――分かっていたけど、つらいなぁ。
奥の壁にコツンとおでこをつけて、苦笑い。
先輩は悪くないから、怒る事もできない。
ジワッと涙が浮かぶ。
―――泣くのは今だけだから……。この次先輩と会った時は、これまでどおり接することができるように頑張るから……。
私はその場にうずくまって、静かに涙を流した。