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(3)妹のような存在

 気持ちがいい秋晴れの昼休み。

 校庭で小山とキャッチボールをしていた時、少し離れた所にある生徒用昇降口に向かって妙な物体が動いているのが目に入った。


―――あれは……花束?


 花束というには結構な量。まるで花で出来た小さな山のようだ。 

 色々な種類がちりばめられた花たちがゆっくりと進んでいる。


 俺の視線に気がついた小山も、その物体に目を向ける。

「あ、チカちゃんだ」

 小山が走り出した。

 一人でここにいても仕方がないので、俺も小山についていく。

 近付いてみると、たしかに大野さんだった。

 花束が大きいのと、彼女が小さいのとで、姿が埋もれて俺からは見えなかったのだが。


―――足しか見えていないのに、よくあの子だと分かったなぁ。


 感心していると、小山が彼女に向かって手を伸ばす。

「持ってあげるね」

 そう声をかけて、彼女の腕から花束を受け取った。

 花の影から現れたのは、額に少し汗をかいたあの子。

 一息ついた後メモを取り出して、何やら書き付けている。


“お花ってこんなに重いとは思わなかった。腕が痛くて困ってたんだ。ありがとう、圭ちゃん”


「チカちゃん、小さいからなぁ」

 男の小山は軽々と花束を抱え、クスクスと笑う。


“もう!!小さいじゃなくて、か弱いって言ってよね”


 ぷぅっと頬を大きく膨らませてすねる彼女。

 その様子が微笑ましくて、俺もクスリと笑ってしまった。


 頬をパンパンに膨らませた彼女が、少し離れて立っていた俺に気付いてギョッとする。


 慌てて顔を戻し、ペコリと頭を下げた。

 そして、小山の腕をバンバン叩き始める。

「な、何!?」

 自分がどうして叩かれているのか分からない小山は、目を白黒。


 大野さんは勢いよくペンを走らせ、メモを突き出した。


“桜井先輩がいるなら早く言ってよ!変な顔見せちゃったでしょ!”


「へ?大丈夫だよぉ。桜井はそんなこと気にしないし」


“それ、あんまりフォローになってない!”


 真っ赤になって、また小山の腕を叩く大野さん。



 何度も叩かれている小山がほんの少しだけ気の毒になって、俺は2人に割って入る。

「大野さん、平気だよ。君が思ってるほど、変な顔じゃなかったし」

 とたんに小山が眉をしかめた。

「……桜井。そのフォローも微妙だぜ?」

「えっ!うそ、マジで?」

 俺たちのやり取りを見て、これまで膨れていた彼女が笑顔になった。





 こんなふうに、小山は俺といても彼女の所へ行ってしまうから、俺もついていく事になる。


 別に、小山と一緒になって彼女の傍に行く事もないのだが、一人で立っていると遠慮なくジロジロと見られるからイヤだ。


 そんな訳で、必然的に彼女と顔を合わせる機会が多くなってゆく。


 俺が進んで彼女の傍に行っているのではない。小山との付き合い上、仕方なく。

 そう、仕方なくだ。


 とは言え、少しでも不快に感じれば、例え仕方なくても傍には行かないだろう。

 不快に感じないのは、大野さんが俺に余計な視線を向けたりしないから、ということが理由の一つ。

 俺を見る目はいつも『イトコの友人』といった様子。

 熱っぽい視線はこれまでにない。


 それに、あの子は女子という感じがしないのだ。

 失礼な言い方だけど、見た目の印象から『幼い女の子』だと認識している。

 “女”というのをほとんど意識させられないから、接しやすかった。


 言ってみれば“妹”という表現がぴったりかもしれない。


 一人っ子だった俺は、ずっと弟か妹が欲しかった。

 だから、妹みたいな大野さんに対しては、他の女子とは違って、優しくできるのかもしれない。


 うん、きっとそうなのだ。




 ある日、職員室から教室へ向かう途中、重そうな本を何冊も抱えた彼女に会った。

 いつもなら小山がすぐに駆け寄るのだが、あいにく奴はここにいない。


 俺はよろけそうになりながら歩いている彼女に近付いた。

「大野さん、手伝うよ」

 突然現れた俺にびっくりして立ち止まる彼女。


 その隙に荷物を奪う。

 俺は彼女の返事も聞かず、スタスタと歩き出した。

 ハッと我に返った彼女は慌てて俺の手から本を取り戻そうとする。

 が、俺はそれを歩きながらかわす。

「図書室でいい?」


 彼女は急いで俺の前に回って、行く手を遮った。そしてメモを差し出す。


“一人で運べます。私の仕事ですから”


「誰が運んだっていいと思うけど?それに、君が重そうに運んでいるのを見て手伝わなかったら、小山に蹴飛ばされそうだしさ」

 クスッと笑って彼女の横をすり抜け、再び歩き出す。

 そんな俺の後を追って、彼女は申し訳ない顔つきをして小走りでついてきた。


 何て事のない日常の一コマ。


 それを睨みつけるように鋭い目で見ていた人物がいた事に、俺は全然気が付かなかった。


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