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声に出来ない“アイシテル”  作者: 京 みやこ
第1章 出逢い
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(1)言葉なんか…

過去に某携帯小説サイトに掲載していた作品の改訂版となります。


「かったりぃなぁ」


 家庭の事情で伯父夫婦に引き取られた俺、桜井さくらい あきら

 高3の9月という半端な時期に転校して2日目の放課後。

 教室を出るなり口を付いたのは、このセリフだ。



 親がいない俺はこれまで祖母と暮らしていた。

 その祖母が先日亡くなって色々な事に無気力になり、高校も中退するつもりだった。

 ところが、引き取ってくれた伯父さんが、『人生経験として、高校はきちんと3年間通いなさい』と言ってきたため、 中退の話はなくなってしまった。

 今すぐ何かしたいことがあるわけでもないので、言われたとおり―――だいぶ渋々といった感じだったが―――高校は通う事に。


 いくつものホテルを経営していてそこそこ金のある伯父夫婦は、家から少し遠いがカリキュラムや設備が整っている私立の高校を進めた。


 だが、朝起きる事が苦手な俺としては少しでも長く寝ていられるようにと、一番近くの学校を選んだのだ。

 そして、通いやすい距離にあるこの公立高校に転入。



 転校初日に小山という気の合う友達もできたし、通学に便利だし。

 しかも、先生は口うるさくなくって自由な校風。


 本当なら学校生活を満喫できるはずなのだが、とにかくかったるくてしかたがない。



 それというのも、俺の姿を見てひそひそと何か言っている女子達の存在が、とてつもなくうるさくてたまらなかった。


 いや、声のボリュームは囁くほどなのだが、気になるのはその内容。

 気になるというか、気に入らない。


 耳に入ってくるのは、


『かっこいい』

『素敵』

『彼氏にしたい』

『こっち向いて』


 という、こっちからすれば下らなすぎる囁きの数々。



―――こんな俺のどこがいいんだ?


 苦いため息をついた。



 外見のせいで面倒に巻き込まれているためか、俺はいまいち自分のことが好きになれないでいる。

 父親の長身が遺伝した事と、子供の頃から体を動かすのが大好きだったことが幸いしてか、バランスよく成長した。

 顔はまぁ、悪くないほうだろう。子供の頃から、モデル事務所とか芸能事務所からスカウトの声がかかっていたくらいだし。興味がないので、その話はすべて断っていたが。


 中学に入った頃から、俺の外見でしか“俺”を判断しない女が頻繁に群がってきて、それが鬱陶しく感じた。


 俺の顔にしか興味が無いくせに、『あなたの事が、心の底から好きなの』なんて言われても、誰が信じるものか。





『あなたが一番大切よ』


『愛してる』


『ずっとそばにいるから』



 そんな言葉、上辺だけだ。

 どうせ、いつかは俺の前からいなくなるに決まってる。


 俺の両親みたいに。




 小学6年生だった5年前。ちょうど今と同じ季節。

 俺を残して自殺してしまった父親と母親。


 その日の朝までは、これまでと何一つ変わらなかった。


 学校生活をなにかと気にかけてくれていた父親。 

 笑顔で送り出してくれた母親。


 それが。


 学校から帰ってくると、何もかもが一変していた……。



 いつものように玄関を開けると、仕事に行っているはずの父親の靴が玄関にある。

 忘れ物でも取りに来たのかと思って、大して気にも留めず家に上がった。


「ただいま」

 声をかけても返事がない。

「お母さん?」

 専業主婦の母親は、俺が帰ってくる時間にはいつもリビングにいるはず。

 それなのに、この日はリビングどころか、キッチンにも洗面所にもいない。


 玄関の戸に鍵はかかっていたから外出したのかとも思ったけれど、あの母親がメモを残さず出かけるはずはない。



 とにかく、家の中の様子がおかしかった。

 異常なほど静まりかえった家。 

 父親の靴があるのに、人の気配がしないのは何故か。

母親はどこにいるのか。


「どうしたんだろう?」

 変に思いながらも、荷物を置くために自分に部屋に向かった。




 両親の寝室の前を通ると、違和感が。


「あれ?」


 几帳面な両親は扉を開けたままにはしない。なのに、寝室のドアが細く開いている。


「ドアノブの調子が悪いのかな?」

 閉めようと手を伸ばした時、ベッドに横たわる誰かの姿が目に入った。

 具合の悪い父親が寝ているのだろうか?

 それにしても様子がおかしい。どうして、朝着て出たスーツのままなのだろうか。

 そして、父親の隣りにもう1人寝ている。

 服装で、父親の横にいるのが誰だか分かった。その人も、俺が学校に行く時に見送ってくれたままの服装だったから。


―――何でお母さんまで寝てるの!?


 なんだかものすごく嫌な予感がするが、思い切って室内に入った。



「ねぇ」

 2人に向かって声をかけるけれど、反応はない。


 一歩、また一歩とベッドに歩み寄る。

「お父さん。お母さ……」


 ベッドの脇まで来た時、俺は言葉を飲み込んだ。


 そこにいたのは、首にロープが食い込んで顔が紫に変色した母親。

 胸に包丁が突き立てられ、青白い顔をした父親。


 そして枕元には


『晃、ごめんな』

『許してね』


 父親、母親それぞれの字で書かれた短いメッセージ。



―――どういう事……!?


 子供の俺に理解できる範疇を大きくはみ出した目前の光景に、俺は気を失い、その場に倒れこんだ。






 ふと気がついた時には、両親の葬儀が終わっていた。


 どうして2人が命を絶たなければならなかったのか?


 親戚は誰一人として、両親の死の理由を教えてくれなかった。

 まだ子供の俺には受け止められないほど、衝撃的な理由なのだろうか。


 初めのうちはしつこく聞いて回っていたけれど、結局分からずじまい。

 もしかしたら、誰も真相を知らないのかも知れない。

 

それに、理由が分かったところで両親が生き返るわけではないのだ。



 ほどなく、俺は両親の死の真相を突き止める事を諦めた。




『晃は俺の宝物だ。何があっても、守ってやるからな』


『晃に彼女が出来るまで、いつも一緒よ』


 飽きもせず、毎日繰り返されていた両親の言葉。

 あの日が来るまでは、本気で両親の言葉を信じていたのだ。


 それなのに、何も告げず、俺を残して彼等は突然死んでしまった。

 彼等は自らの言葉を自分から裏切った。


 自分にとって絶対の存在だった両親を納得の行かない形で失った俺は、この先、一体何を信じて生きていけばいいのだろう。


 





 俺は近くに住んでいる母方の祖母の家に引き取られた。

 そこなら、今通っている学校を変えなくても済むから。


 両親の葬儀から二週間ほど経った日から、俺は親の事を一切口にしなくなった。


 滅多な事では笑わなくなった。



 自分に向けられる言葉を信用する事もやめた……。



言葉はなくとも想いは伝わるのか。そんな切なさが表現できたらいいなぁ、と思ってます。

でも、ハッピーエンドはお約束します。

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