能力進化
「では、皆様には魔術の訓練をして頂きます」
アリスフィーネのその一言から地獄は始まった。まず、体力がないと何もできないのだと言われ、ひたすら筋トレとランニング。まぁ理に適っているとは思うのだが、じゃあ戦闘系スキル持ちと訓練を分けたのはなんでだと思ってしまう。
結局、初日は魔術の魔の字にも触れる事はなく、ひたすら体力作りを行うことになった。魔術を習い始めたのは、訓練が始まってから一週間後のことだった。
だが、勿論いきなり実践というわけではなく、ひたすら坐禅(のような何か)。魔力の流れを探るとか散々意味わからんことを言われたが、魔力なんていう存在が非現実的だった世界から来た者としては、そんなもん知るかと声を大にして言いたい気分だ。
そもそも俺のスキルは戦闘系でないだけで魔法系でもない。魔法系スキルを持っている者からしたら簡単なことなのかもしれないが…
とまあ吐きそうになりながら、訓練をこなしているうちに日々は過ぎていくもので、いつの間にか異世界に来てから、一ヶ月程が経過していた。
その間、本当に語るべき事はほとんどなかった。魔法属性についての講義やら何やらがあったことなどなかなか興味深いこともあった。だが、何か大きなハプニングが起ったわけでもなく、全体的に何というか平和な感じだったので特に語るべきことがないように思えるのだ。
俺は、そんな無駄な思考を展開することができるほどこの世界に慣れ始めていた。だが、同時に俺は忘れていた。転換の瞬間と言うのはいつも突然やってくる。予告などあるはずもなく、日常の隙間から急に現れるものなのだ。
次の日、俺達魔法組は戦闘系スキル持ち達と合流し、初の野外実習に挑もうとしていた。アリスフィーネから辛くも許可を勝ち取り、皇族に申請を出した結果、近くの実習用の森なら良しと許可をもらったのだ。まぁ、護衛付きではあるのだが。
とにかく、なんとなく隊列を組み魔法組は後ろになって森へと歩いて行った。ちなみに俺は最前列だ。そりゃ役割から考えたら絶対にそうなんだが、なんだか釈然としないものがある。
ピクニック気分で騒いでるような奴もいて俺は少し不安になったが、委員長など流石なもので全く隊列を崩さずに周囲への警戒をしながら歩いている。その姿を見て俺は安心し、同時に自分に喝を入れた。
海や滝は少し緊張しているようで話しかけづらかったので、俺も静かにしておくことにする。城下町から歩いて森に行くのだが、思ったよりも道が悪く何度かこけそうになったのでそれで正解だったと思う。
委員長が俺たちに喝を入れてくれたので、特に何かハプニングが起こるわけでもなく無事に森へとたどり着くことができた。森は、一見俺たちの世界の普通の森と変わらなかったが、よく見ると見たことがない木があったり、食人植物みたいなものが混じっていたりして、俺はここが異世界なんだと改めて実感した。
「みんな、気を」
森の入り口で委員長が振り返り、何か言いかけたところで、それを遮るように滝が大きな声を上げた。
「危ない!」
滝の視線の先、草影に隠れていたのは紛れもない異形であり、人だった。小鬼。その呼び方がその敵には最適だと感じた。
俺達と比べて、明らかに薄緑の肌。頭には一本痛々しいほど鋭い角が生えており、手には短刀のような武器を持っている。身長は一メートルほどで明らかに俺たちの方が体格的には大きいが、その小ささには不自然さなどどこにもなく、狩られる側ではなく、狩る側の目つきをしていた。
いくら訓練をしていたとは言え、所詮は命の奪い合いなどしたことない事の無い高校生。恐怖で足がすくんでしまい動けない者が多い。
正直終わったと思ったが、護衛の人たちが剣を抜いて戦い始めた。あまりにもスムーズな戦闘移行に、俺はなんとなく挿してしまった。きっと、今日の外出は自分達の伸びた出鼻を挫くためのものなのだろうと。
金属同士がぶつかり合う音が森の中に響く。俺はそれで冷静になり、動けるクラスメイトと共に動けない者を守ったり、戦闘に参加したりし始めた。
滝は『鑑定』で敵の居場所を割り出して指示を出していたし、委員長は、傷を負った人をスキルで『治癒』していた。何とかクラスメイト達が戦闘に参加し始め、戦況は明らかに優勢へと転じ始めていた。
俺は囮の役目を一旦止め、滝に詳細な敵の位置を聞くために彼のもとへ歩いて行った。その時、俺は気付いた。戦況離脱している彼らの背後に、数体の小鬼が迫っていることに。
慌てて俺はスキルを発動させるべく、動き始めた。
「『ヘイティング』!」
囮として誰も巻き込まれない位置に移動し、スキルを発動する。なのに、何故か能力は発動しなかった。ゴブリンは俺の方に見向きもせず、怪我をしたクラスメイトを癒していた委員長を真っ先に切り付けた。
毒でも仕込んであったのか、彼女は強烈に苦しみ始め、戦況を支えていた彼女の離脱により、俺達は撤退をすることになった。
護衛の人達にゴブリンを牽制してもらいながら、必死に返ってきた俺達は身体的にも精神的にもかなり追い詰められていた。
委員長は一命を取り留めたものの、まだ危険な状況の様で、俺達は接触を禁じられていた。
そんな中俺達は自然と一部屋に集まり、話し合いのようなことをしていた。いつもクラスをまとめてくれていた委員長がいない今、会話はどうしてもネガティブな方向に進んでいた。その中で、一人の女子が放った一言が俺の運命を大きく狂わせた。
「ていうか、東。お前何でスキル使わなかったんだ?あのスキルさえ使っていれば委員長が怪我することもなかったのに」
その言葉は波紋のように広がっていき、ものの数十秒でクラスは俺を攻める雰囲気になっていた。
「東のせいじゃん。委員長怪我したの」
俺に投げかけられる言葉は、俺を責めるというよりも行き場のない感情を何かにぶつけたがっているように感じた。痛々しい感情が俺に投げつけられ、場の雰囲はどんどんと悪くなっていった。
そして、殆どのクラスメイトが俺に責めの視線を向けるようになった時、俺の頭の中に声が響いた。
「条件が満たされたことを感知。『悪役』の『ヘイティング』が『悪役覇気』へと変化。常時発動へと切り替わります」
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