能力開花
「我はアノルフィア皇国 第一皇女にして次期皇帝
マーガレット・アインツェ・アノルフィアである。
お主らには、特別にマーガレットと呼ぶことを許す。
よく来たな、異界の勇者達よ。歓迎しよう」
エメラルドのような輝く青緑の瞳と華やかな金髪を持つ女性は尊大な態度で名乗りを上げた。一応歓迎されているのだろうが、第一印象の力と言うのは恐ろしいもので、態度が大きすぎてあまり歓迎されているという感覚にならない。
まぁ、マーガレットの言葉を信じるなら、今まで生きてきた中で自分より上位のものというのは非常に少なかっただろうから、本人は精一杯歓迎しているつもりなのかもしれんが。
クラスメイト達が戸惑いを隠せず沈黙する中、一人の声が響いた。
「あ、あの、マーガレット様。お伺したいことがございます。よろしいでしょうか?」
不思議と不安を和らげるような声。委員長だ。なかなか、こういう時に現実をすぐに受け入れて相手とコミュニケーションを取る事は難しい。
相手が本当に皇族かどうかなどこの際どうでもいいが、俺らには到底想像もつかない技術を持っていることは確かだ。だったら、委員長のように低姿勢で接するのが1番良い。
「うむ、いいだろう。発言を許す」
委員長はほっとしたように口元を緩め、その後、気合を入れるように茶色みを帯びた黒目をはっきりとマーガレットに向けた。
「まず、勇者とはどういうことでしょうか。私たちはただの学生です。それに、異界というのもよくわかりません」
委員長は俺たち全員の疑問を代弁するかのようにマーガレットに問いを投げかけた。俺たちは彼女に目を向けて、固唾を飲んで答えを待つ。
その際、マーガレットに同行していた騎士の一人が何やら彼女に耳打ちをした。
「あぁ、忘れておった。勇者たちよ、先程の問いには我が母上が答える。ここでは話しにくかろうし、謁見の間に案内しよう」
マーガレットは言うだけ言って部屋の外へとさっさと歩き始めた。その後を五人いた騎士の内の四人が歩き始める。慌てて委員長を先頭にして俺たちも続き、最後に騎士の一人が扉を閉め、俺たちの後に続く。
ちなみに、扉が閉まる時にも白い光は現れ、先ほどまでどう見ても出入り口だったところは、どこから見てもただの壁にしか見えないようになった。
そうして俺が観察している間にも列は進んでいく。高そうな装飾品が並び、やたらと入り組んでいる廊下を通って、十分ほどかけて俺たちは目的地にたどり着いた。
その部屋の扉はやたらと装飾に凝っており、宝石なども埋め込まれていて、なんだか皇族の威光を示すためだか知らないけど、やたらと金がかかっていそうだなと思った。
マーガレットが扉の中心にある琥珀のような宝石に手をかざすと、また例の白い光が扉の装飾に沿うように広がり、自然と扉が開いていった。
謁見の間の中はやたらと広かった。床はやはり大理石でできており、その上に金の糸で複雑な刺繍が施された赤く質の良さそうな絨毯が広がっている。
壁には、金で装飾が施されており、高そうな絵が飾ってあったりもする。さらに、龍と二本の剣をモチーフにしているであろう紋章が赤い布に描かれ、何枚も壁にかけられていた。
天井には、シャンデリアがいくつも設置されており、さらに、細かい装飾が施されていた。
そして、赤い絨毯に沿って奥に進んでいくと、複雑な装飾が施された豪華な椅子に座る一組の男女と、まるで漫画のように両脇に整列する騎士たちの姿があった。
先頭を進んでいたマーガレットが足を止め、椅子に座る男女跪く。お前達もやれという無言の圧のようなものを感じたので、俺たちも彼女の真似をすることにする。一人だけ立っていたら、無礼だとか言われて騎士に切り捨てられそうだしな。そういう雰囲気だ。
「皇帝陛下、皇配殿下 私、マーガレット・アインツェ・アノルフィア 勅命に従い、異界の勇者たちを連れて参りました」
マーガレットの言葉は、広い謁見の間によく響いた。優雅さを感じさせる声であり、今まで脳内にあった、こいつ本当に皇女なのか?という疑問は、一瞬で消え失せた。
「ご苦労、マーガレット。さて、異界の勇者たちよ。
我が名は フロルティーネ・リンツ・アノルフィア。
この国の皇帝、いわゆる女帝だ。フロルティーネがと呼ぶが良い。お主らの問いに答えてやろう」
歳は三十五くらいであろうか。青緑の目と、やや色が薄めの金髪を持っている。マーガレットとよく似た風貌に、彼女とフロルティーネが母娘であることを実感した。
「フロルティーネ様。先ほどマーガレット様お聞きしましたが、異界の勇者というのはどのような意味でしょうか。我々はただの学生です」
クラスメイトたちは、自分で話すつもりはないようで、先ほどから委員長が一人でずっと皇族とやりとりをしている。
「それを理解するためには、まずこの世界の状況を知ってもらわねばならない。我が夫が説明しよう」
フロルティーネは、そのエメラルドの目を隣に座っている彼女より四、五歳ほど年上に見える男性に向けた。その男性は真紅の瞳をこちらに向け、ブロンズの髪を一度かき上げて口を開いた。
「我は皇帝陛下の配偶者であり、お主らの責任者だ。
名は シュヴァルト・アインツェ・ディルターク・フィル・ウェルト・アノルフィア シュヴァルトでよい。
では、今から説明に入る」
シュヴァルトが軽く手を振ると、両脇に控えていた騎士の中から文官のような格好をした男たちが現れ、机を俺たちの前に並べ、その上に地図を置き始めた。文官の作業が終わるとシュヴァルトが再び口を開く。
「まず最初に、ここはお主らが生きてきた世界ではないということを伝えておく。我々がお主らを転移魔法陣で呼び出した。故にこの世界はお主らにとっては異世界というわけだ」
まあ見当はついていたが、やはりそういうことか。だが、理解はできてもどうにも本能が拒絶しそうになる。今までおとなしくしてた滝と海も驚きの表情で固まっているしな。
だが、そんな訳ないなどと否定を口にする者はいなかった。それを否定すると、じゃあここはどこだという話になる。それに何より白い光による不思議現象は魔法とでも言われないと逆に納得できない。
「そして、この世界には七つの大陸がある。我々が今いるのは最北端のウェルガリア大陸だ。この他にも、あと三つの大陸は人族に分類される種族が住んでいる。だが、もともとは七大陸の内、六大陸には人族が住んでいたのだ。しかし、魔大陸に住む魔族の手によって奪われてしまった」
まぁつまり俺たちに魔族を倒して欲しい、ということだろうな。
「今、魔族の力は増し続けている。このままでは、世界が魔族に支配される日も遠くはない。お主らには勇者として魔族、そして魔王を倒してもらいたいのだ」
あまりにもテンプレートな展開。きっと元の世界に帰るには魔王を倒さなければいけないのだろう。
「私たちは、ただの高校生です。そんなことできるわけありません。それに、元の世界に家族や友達だっているんです。戻してもらえませんか」
響く委員長の声。にしてもうちのクラスメイトは、会話を全て委員長に任せたのか?さっきから一言も声があがらないが…何とも無責任なことだ。俺も人のことを言えないが。
「残念ながら、それは不可能だ。我々の世界では、五百年周期で魔王が誕生し、そのたびに勇者を召喚してきた。そのため世界を渡る魔法陣は、五百年かけて必要な魔力を貯める設計になっている。それで十分だからだ。お主らが元の世界に戻りたいのなら五百年待つしかない。しかし、魔王を倒した場合はその限りではない。魔王の核を使えば、魔力はこと足りる。だから、お主らは魔王を倒すしかないのだよ」
やはり、予想通りだ。あまりにテンプレ通りの展開すぎて、この先何が起こるのか大体予想がついてしまう。このまま進めば、次はスキルの鑑定が何かをするのだろう。
周りを見れば、クラスメイト達が絶望したような顔をしているのがわかった。それもそのはず、何が何だかわからないままに異世界に呼ばれて、魔王を倒さないと帰れないなどと言われたのだ。親に見られたくない本やらパソコンの中身やらを処分したい奴もいるだろうし…
「だが、今のお主らでは勿論魔王を倒すことなどできない。して、今から能力開花の儀を受けてもらい、スキルを手にした上で訓練に励み、力を身に付けてもらう」
その後、俺達は文官によって例によって無駄に豪華で入り組んでいる廊下を通り、儀式の間へと連れて行かれた。そして、シュヴァルトの監視下で能力開花の儀を行うことになった。
儀式の間は、魔方陣のあった最初の部屋と雰囲気が似ていたが、一つだけ決定的に違うところがあった。神像らしきものが七つ並んでいたのだ。
「では、順に並んでくれ。儀式を行うのは一人ずつだ」
シュヴァルトの声かけにより、俺達は並び始めた。だが、最初を希望するものは誰もおらず、すぐに押し付け合いのような状態になってしまった。いわゆる、ファーストペンギンタイプはこのクラスにいないのだ。
こうなったら結果は見えている。委員長の呼びかけにより、俺達は出席番号順で儀式を受けることになった。 つまり、俺が最初というわけだ。周りからの圧を感じ、俺は仕方なく前に出ることにした。
「緊張する事は無い。神々に跪き、お主の言葉で願えばいいのだ。異世界人に授けられる能力は、基本的にこちらの世界の人間よりも強いとされているのだしな」
俺は、シュヴァルトに誘導されるまま神像に跪き、願うことにする。しばらく祈っていると、天から黒い光が降り注いできた。その光景はとても神秘的で、例の白い光と通ずるものがあるように感じた。
シュヴァルトが「何と、黒い光とは…」などと言っているが、黒が普通というわけでは無いのだろうか?
光が降り終わると、文官の一人がやってきて、水晶に手をかざすように言われた。
「これは看破の水晶だ。これで、魔術適性やスキルを確認することができる」
シュヴァルトの説明を受け、俺は水晶に手をかざす。すると、体内から何かが出ていくような感覚を覚えた。それが止まると、水晶の上に紫の液晶のようなものが浮かび上がる。
文官がそれに書いてある文字を確認し、少し驚いた様にこう言った。
「東 航殿。魔術適性 闇。 スキルは『悪役』です」
「へっ?」
これは…まずいかもしれない。
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