第21章 別れの予感、そして“現実で会う”という約束
世界の修復が完了したあと、
境界領域は嘘みたいに静かになった。
光の泉は穏やかに脈打ち、
綻びはすべて癒え、
森のざわめきがゆっくりと戻ってくる。
ひよりは鍋を抱きしめたまま、
その光景をぼんやりと見つめていた。
(……終わったんだ……
本当に……)
胸の奥に、
安堵と寂しさが同時に押し寄せてくる。
エルダがひよりの手を握った。
「ひよりちゃん……すごいよ……
本当に、世界を救っちゃった……!」
ひよりは笑った。
「ううん……みんながいてくれたからだよ」
エルダは涙をこらえながら笑った。
「僕……ひよりちゃんに会えてよかった……
ひよりちゃんの料理、大好きだよ……!」
ひよりの胸がぎゅっと締めつけられた。
(……エルダくん……
この世界で出会ったみんな……
大好き……)
でも、その温かさの奥に、
ひよりは“別れの気配”を感じていた。
クロウが静かに近づいてきた。
「ひより。
……そろそろ、ログアウトの時間だ」
ひよりは息を呑んだ。
(……やっぱり……
この世界とは……お別れなんだ……)
胸が痛い。
でも、逃げたくない。
ひよりはクロウを見つめた。
「クロウさん……
私……この世界が大好きでした……
エルダくんも、みんなも……
クロウさんも……」
クロウはひよりの手をそっと握った。
「ひより。
俺は……あんたに会えてよかった。
この世界で過ごした時間は……全部、本物だ」
ひよりの胸が熱くなる。
(……クロウさん……
そんなふうに言ってくれるなんて……)
クロウは続けた。
「でも……ここはゲームだ。
いつか終わる。
だから……」
ひよりは小さく頷いた。
「……現実で、会いましょう」
クロウの瞳が揺れた。
「……ああ。
必ず会いに行く。
黒川遼として」
ひよりの心臓が跳ねた。
(……黒川遼……
クロウさんの……本当の名前……)
クロウはひよりの頬に手を添えた。
「ひより。
俺は……あんたが好きだ。
ゲームの中のキャラとしてじゃない。
“佐倉ひより”という人間として」
ひよりの目から涙がこぼれた。
「……私も……
クロウさんが……好き……
現実のあなたに……会いたい……」
クロウはひよりをそっと抱き寄せた。
「ひより。
ログアウトしたら……
現実で待ってる」
ひよりはクロウの胸に顔を埋めた。
(……怖い……
でも……会いたい……
現実のクロウさんに……)
エルダが涙を拭いながら笑った。
「ひよりちゃん……
僕、ずっと応援してるよ……!
ひよりちゃんの料理……
世界を救ったんだから……
きっと、現実でも……!」
ひよりはエルダを抱きしめた。
「エルダくん……ありがとう……
あなたに会えて……本当によかった……」
エルダは泣きながら笑った。
「ひよりちゃん……大好きだよ……!」
ひよりは涙を拭い、
クロウの方を向いた。
「……行きます。
ログアウトします」
クロウはひよりの手を握りしめた。
「ひより。
また会おう。
必ず」
ひよりは微笑んだ。
「はい……
絶対に……」
光がひよりを包み込む。
世界が遠ざかっていく。
エルダの笑顔。
森の光。
クロウの瞳。
全部が、
ひよりの胸に焼きついた。
(……クロウさん……
現実で……会いましょう……)
光が弾け、
ひよりの意識はゆっくりと現実へ戻っていった。




