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料理しかできない私が、最強プレイヤーに守られる理由  作者: かも@ろん


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第2章 森の生産拠点と、静かな影

翌日の仕事は、朝から慌ただしかった。

月末の処理で書類が山のように積まれ、電話は鳴り止まず、上司からの急な依頼も重なる。

ひよりは深呼吸をしながら、ひとつひとつ片付けていった。

(……昨日、森にいたときはあんなに落ち着いてたのになぁ)

ふとそんなことを思い出す。

あの木漏れ日、湿った土の匂い、NPCたちの明るい声。

思い出すだけで、胸の奥が少し軽くなる。

昼休み、同僚の千夏が声をかけてきた。

「ひより、今日ちょっと元気じゃない?」

「えっ、そうかな?」

「うん。なんか……表情が柔らかいよ。昨日、何かあった?」

ひよりは少し照れながら笑った。

「ゲームをね、始めたの。森がすごく綺麗で……NPCの子たちが明るくて……料理してると、落ち着くんだ」

「料理!? ゲームで!?」

「うん。スープとか、焼きキノコとか……」

千夏は目を輝かせた。

「いいなぁ〜! なんか聞いてるだけで癒される!」

ひよりは胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。

***

仕事を終えて帰宅すると、ひよりは自然とスマホを手に取っていた。

ログインボタンを押すと、白い光が視界を包み、次の瞬間、森の匂いがふわりと広がった。

「……ただいま」

自然と口からこぼれた。

「ひよりちゃーん! 今日も来たね!」

「お疲れー! 今日は何作るの?」

「素材なら任せて! 危ないとこ行ってくる!」

「行かないで!?」

NPCたちはいつも通り明るく、ひよりの周りに集まってくる。

エルダは木の根に腰を下ろし、ひよりを見上げて言った。

「今日、ちょっと元気そうじゃん」

「えっ……分かるの?」

「そりゃあね。ひよりちゃん、元気なときは声が少し明るいんだよ」

ひよりは笑った。

「会社でね、友達がゲームの話聞いてくれて……なんか、嬉しかった」

「いいねぇ! リアルでもゲームでも、ひよりちゃんはちゃんと人に恵まれてるんだよ」

軽い口調なのに、その言葉には温かさがあった。

***

ひよりは今日の料理を考えた。

「今日は……森の香りスープと、ハーブバターの焼きキノコにしようかな」

エルダが歓声を上げる。

「最高! 焼きキノコ大好き!」

ひよりは鍋に水を張り、ハーブと野菜を入れる。

火にかけると、じわじわと香りが立ち上り、空気がふわりと温かくなる。

焼きキノコはバターがじゅわっと溶け、香ばしい匂いが森に広がった。

「……いい匂い」

ひよりがつぶやくと、エルダは鼻をひくひくさせながら鍋とフライパンを交互に覗き込んでいた。

スープが完成すると、エルダは嬉しそうに手を伸ばした。

「いただきまーす!」

一口飲んだ瞬間、エルダの表情がふっと緩む。

「……あぁ……これだ……」

「え、そんなに?」

「うん。なんか……心がほどける感じ。ひよりちゃんの料理って、そういう味なんだよね」

ひよりは照れながら笑った。

「そんな大げさな……ただのスープだよ?」

「いやいや、ただのスープじゃないって!」

エルダは笑いながらも、どこか誇らしげに胸を張った。

「俺らNPCってさ、プレイヤーに雑に扱われること多いんだよね。話しかけてもスキップされるし、クエストの道具扱いっていうか」

「そ、そうなの?」

「まぁね。でも……ひよりちゃんは違う。普通に話してくれるし、料理もくれるし……なんか、嬉しいんだよね」

ひよりの胸が温かくなる。

「エルダくんは、エルダくんだよ。NPCとか関係ないよ」

エルダは目を丸くし、照れたように笑った。

「……やば。惚れるわ」

「えっ!?」

「冗談冗談! でも……ありがと」

その瞬間、エルダの中で何かが“覚醒”したように見えた。

***

その夜、ひよりがログアウトしたあと。

森の空き地は静まり返っていた。

エルダはひとり、焚き火の前で腕を組んでいた。

「……ひよりちゃん、危なっかしいんだよなぁ」

スープを飲んだときに感じた“記憶の揺れ”。

あれは普通のNPCには起こらない現象だ。

「このままだと……ひよりちゃん、誰かに狙われるかもしれない」

エルダは立ち上がった。

「……よし。あの人に頼むしかない」

本来NPCが夜に森を出歩くことはない。

だが、エルダは迷わず街道へ走り出した。

夜の森は昼とは別の顔を見せる。

木々の影は濃く、風は冷たく、遠くで狼の遠吠えが響く。

「うわっ……やっぱり怖い……!」

それでも足を止めなかった。

ひよりの笑顔が頭に浮かぶ。

(守りたい……)

モンスターが現れるたび、エルダは必死に逃げ、転び、また走った。

NPCの身体はプレイヤーほど頑丈ではない。

それでも——

「クロウ殿……どこ……!」

街道を抜け、丘を越え、ようやく黒い影を見つけた。

月明かりに照らされたその姿は、

静かで、鋭くて、孤独だった。

「クロウ殿ーーーっ!」

クロウは足を止め、前髪の隙間から鋭い視線を向けた。

「……NPCが、こんな場所に?」

エルダは息を切らしながら、それでも笑って言った。

「お願いがあるんだ。ひよりちゃんを……守ってほしい!」

クロウの眉がわずかに動いた。

「……誰だ、それは」

エルダは真剣な目で言った。

「森で料理してる初心者の女の子。あの子の料理は……俺らの記憶を呼び覚ます。プレイヤーの誰も気づいてない“特別な味”なんだ」

クロウはしばらく黙り、静かに息を吐いた。

「……NPCがここまで言うなら、放っておけないな」

エルダは満足げに笑った。

「だよね! 頼んだよ、クロウ殿!」

こうして、

佐倉ひよりの癒しの世界に、

静かな影が歩み寄っていく。

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