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料理しかできない私が、最強プレイヤーに守られる理由  作者: かも@ろん


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第10章 静かな森、震える手と温かい影

森は、嵐の後のように静まり返っていた。

さっきまで荒れ狂っていた風は止み、

木々のざわめきも消え、

ただ焚き火の小さな音だけが、

ひよりの耳にかすかに届いていた。

——ぱち、ぱち。

焚き火の火は弱々しく揺れ、

その赤い光がひよりの頬を照らしている。

涙の跡が光を反射し、細い線となって頬を伝っていた。

ひよりはまだ地面に座り込んだまま、

震える手を胸の前でぎゅっと握りしめていた。

「……こわかった……」

声に出した瞬間、

胸の奥に押し込めていた恐怖が溢れ出し、

ひよりの肩が小さく震えた。

その横で、クロウは静かに立っていた。

黒いコートが夜風に揺れ、

月明かりがその輪郭を淡く照らす。

彼の影は長く伸び、ひよりの足元に寄り添うように落ちていた。

クロウはひよりの震えを見て、

ほんのわずかに眉を寄せた。

「……立てるか」

その声は低く、静かで、

けれどいつもより少しだけ柔らかかった。

ひよりはゆっくり顔を上げる。

涙で滲んだ視界の向こうに、

クロウの姿がぼんやりと浮かんだ。

「……クロウさん……」

名前を呼んだだけで、

胸の奥がじんわりと熱くなる。

クロウはひよりの手をそっと取った。

その手は温かく、力強く、

ひよりの震えを吸い取るように包み込んだ。

「……もう大丈夫だ」

その一言に、

ひよりの胸がふっと軽くなる。

(……守ってくれたんだ)

その事実が、

ひよりの心にじんわりと広がっていく。

***

エルダがふらふらと立ち上がり、

ひよりの横に駆け寄った。

「ひよりちゃん! 大丈夫!?」

「うん……エルダくんこそ……」

エルダは胸を張って笑った。

「俺は平気! NPCだからね! 多少殴られても死なないし!」

そう言いながら、

腕にはしっかりと傷が残っている。

ひよりは眉を下げた。

「……ごめんね。私のせいで……」

「違うよ!」

エルダは即座に否定した。

「ひよりちゃんは悪くない!

悪いのは、あいつらだよ!」

その言葉は、

ひよりの胸にまっすぐ届いた。

クロウも静かに言葉を重ねる。

「……エルダの言う通りだ。

あんたは何も悪くない」

ひよりは唇を噛んだ。

「でも……私が料理なんてしなければ……

こんなことにならなかったのに……」

クロウはひよりの肩に手を置いた。

その手は、驚くほど優しかった。

「——ひより。

あんたの料理は、誰かを傷つけるためのものじゃない」

ひよりは顔を上げる。

クロウの瞳は、

夜の闇よりも深く、

しかしどこか温かかった。

「エルダを救ったのも、

NPCたちを覚醒させたのも、

俺を強くしたのも……

全部、あんたの料理だ」

ひよりの胸が熱くなる。

クロウは続けた。

「……あんたの料理は、誰かを守る力だ。

それを否定するな」

ひよりの目から、また涙がこぼれた。

「……クロウさん……」

クロウは視線をそらし、

少しだけ照れたように言った。

「……泣くな。

俺は、泣かれるのが苦手だ」

ひよりは涙を拭いながら、

小さく笑った。

「……ごめんなさい」

「謝るな」

クロウは短く言い、

ひよりの頭にそっと手を置いた。

その手は、

驚くほど優しくて、

ひよりの心の奥まで温かくなった。

***

森の空気が、ゆっくりと落ち着きを取り戻していく。

風は柔らかくなり、

木々のざわめきは穏やかに変わり、

焚き火の炎は静かに揺れた。

エルダが空を見上げた。

「……クロウ殿、すごかったね。

あんなに怒ってるの、初めて見たよ」

クロウは少しだけ眉を動かした。

「……別に怒ってはいない」

「いやいや、めっちゃ怒ってたよ!

“俺の仲間に触るな”って言ってたし!」

ひよりの心臓が跳ねた。

(……仲間)

クロウは視線をそらし、

焚き火の火を見つめた。

「……あれは……状況的に必要だっただけだ」

エルダはにやにやしながら言う。

「はいはい、照れてる照れてる〜」

「黙れ」

クロウの声は冷たい。

けれど、その横顔はどこか優しかった。

***

ひよりは焚き火の前に座り、

深く息を吸った。

森の匂いが胸いっぱいに広がる。

湿った土、草の香り、焚き火の煙、

そして……クロウの残した温もり。

(……守ってくれたんだ)

胸の奥がじんわりと熱くなる。

クロウはひよりの隣に座り、

焚き火を見つめながら静かに言った。

「……ひより。

あんたは、もう一人じゃない」

ひよりは目を見開いた。

クロウは続ける。

「エルダも、NPCたちも……

そして俺も。

あんたを守る」

ひよりの胸が熱くなり、

涙がまたこぼれそうになる。

「……ありがとう」

クロウは視線をそらし、

小さくつぶやいた。

「……礼はいい。

俺が勝手にやっているだけだ」

ひよりは微笑んだ。

(……クロウさんって、優しい)

焚き火の火がぱちぱちと音を立て、

森の夜は静かに深まっていく。

ひよりの震えは、

もうどこにもなかった。

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