プロローグ
——あ、死んだ。
自らの胸部から映える武骨な槍の柄を見て、彼は漠然と思った。
痛みはなかった。
いや、嘘だ。
痛みは追いかけるようにやってきた。胸に槍が貫通しているのだ、痛みを感じないわけがない。音速を超える速度で飛来した槍は、寸分違わず胸の中央を貫き、胸骨を砕き、心臓を破壊した。その感触があった。ぐちゅり……そんな異音が体内から聞こえた。
痛みは、すぐに熱へと変じた。
熱い物が喉から込み上げてくる。周囲の視線を感じつつも吐き出さずにはいられなかった。
それは鮮血だった。
赤く、赤い。
少しの粘性を帯びた、血。
「分かったかい? これが天罰だよ」
神は言う。
両手を広げて。
そう、これは天罰だった。天というには些か低い位置から放たれた槍ではあるが、神が放ったという点において、それが天罰であることへの疑いはない。
神。
そう、天上にて悪魔のような笑みを浮かべるその美女は、神を自ら名乗った。
その証明としての、天罰。
それにしても。
「……酷すぎる」
胸を貫かれた彼の感想は、代わりに近くの少女が代弁してくれた。
髪を派手な金色に染めた、それなりの美貌の少女。もしかしたらアイドルなんかと見比べても遜色のない顔立ちをしているかもしれないが、まさに今、頭上に神憑り的な美貌を湛えた女がいる今、どうしてもその美貌を正当に評価できない。
ただ、彼は満足だった。
その少女に同情してもらえて、とても満足だった。
男としての満足だ。
というのも、その少女は容姿では神に見劣りしてしまうかもしれないが、しかし、神と比べても確実に優れている点があったのだ。優れている、というか、突出しているものが。
有体に言って、その少女は巨乳だった。
神よりも。
——ああ、満足だ。
そうして、彼の意識は闇に落ちた。




