第4話 忍び寄る影
(王都から半日。馬車を降り、アルセリオとレオナールは、目的の山へと足を踏み入れていた)
アルセリオ
「ここが…ふむ。怖ぇぐれぇに静かだな。」
(森は静かだが、風は熱を含んでいた)
アルセリオ
「……変な空気だな。季節の割に蒸すってレベルじゃねぇ。」
レオナール
「確かに。まるで熱源が足元にあるような感覚だ。」
(木々の葉は色を失い、ところどころ焦げたように乾いている。道なき道を進みながら、二人は慎重に足を進めていく)
アルセリオ
「地割れの場所は、この先だな。少し回り込むぞ。」
レオナール
「了解した。」
ーーしばらくして…
アルセリオ
「……ここだ。」
岩肌に斜めに走る、大きな裂け目。その周囲だけ、わずかに白く、煙のようなものが立ち上っていた
(アルセリオはしゃがみ込み、地面に耳をあてる)
ザァーーーー……
(小さな噴気音がする…まるで…火山そのものが呼吸をしているかの様に…)
アルセリオ
「……聞こえるな…。こんだけ聞こえるってことは、割と近けぇのか。」
レオナール
「やっぱり、これも噴火の予兆の一つなのか?」
アルセリオ
「だろうな。地下で何かが動いてやがる。しかも結構な圧だ。」
(二人は岩場を慎重に登り、調査を続ける。その途中――)
レオナール
「…アル、こいつら……」
(森の陰に、いくつもの魔獣の死骸が転がっていた。だが、いずれも“山の中腹”までしか来ていない)
アルセリオ
「こっから先に行けねぇってことか。恐れてるのか、あるいは…耐えられねぇのか。」
アルセリオ
(一つの切り傷…?互いに狂って争いでもしてやがったのか?)
そして、さらに登っていくと――
(ある瞬間。アルセリオがふと足を止める)
アルセリオ
「……ん?」
(岩壁の一角――そこだけ、微妙に“白く曇っている”)
アルセリオ
(……これ、湯気か?)
(近づき、手を触れると、岩がぬるい。そして、ざらついた石が――崩れた)
バリッ……
(地面がわずかに崩落し、その奥にぽっかりと闇の口が開いた)
アルセリオ
「レオ…見ろ。」
レオナール
「……洞窟……?」
アルセリオ
「いや、どうも“人工物”の匂いがする。……中、行ってみようぜ。」
(そう言って、松明に火を灯し、アルセリオはゆっくりとその闇に足を踏み入れる)
***
洞窟の中は、ひんやりとしていたが、奥に進むごとに、空気は逆に熱を帯びていく
壁は滑らかに削られており、自然にできたものとは思えない
ーーそして、通路の先に――大広間のような空間が広がっていた
(壁一面に、赤褐色の岩肌に刻まれた古代文字。そして、その中央には円形の祭壇がある)
アルセリオ
「……間違いねぇ。“遺跡”だ。」
(祭壇の側に、なぜか“溶けたような痕”がある。焼けただれた跡。そして、黒ずんだ石の上には――)
アルセリオ
「……赤灰…?」
(それは、かつて文献で見た“赤灰化現象”と酷似していた)
レオナール
「つまり……ここが、《焔哭》の言う“炎の王の門”……?」
アルセリオ
「ああ。こいつはとんでもねぇもんを見つけちまったかもな……」
(洞窟の奥――岩盤の先から、ごくごく小さな振動音が聴こえる)
……カン…カン…
アルセリオ
(まだ“目覚めて”はいない。だが……確かに、そこに何かが“眠ってる”)
そして、誰かがそれを……起こそうとしている)
アルセリオ
「とりあえず、色々見て回るか。」
(そう言うと、二手に分かれ…辺りを散策する)
(アルセリオの目に、大きな壁画が留まる)
アルセリオ
(これは…七大罪獣と…七大天使の争いか…。そんでコレは…)
見上げるほどの大きな体、そこらの大木よりも太い腕、傷などつかぬ様に強靭な爪、一度見た…ベヒモスの様な印象を受ける。
ーーだが確かに…ただの壁画から、それ以上の圧を感じる
アルセリオ
「おそらく…これがマルドュクか…。マジでおっかねぇな。……ん?」
(壁画の端に、何者かによって刻まれた…古代語で書かれた文言が目に写る)
アルセリオ
「これは…ゼーレバランよりも更に前、旧王朝の言葉か…なになに…?」
(所々風化していて読めなくなっているが…アルセリオは一部から解読しようとする)
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✠⸺In nocte ardentis solis,
ubi Signa Septem dissolvuntur,
aperitur Porta Regni Flammarum.
✠⸺Noli tangere Sigillum.
Lux falsa est.
Ignis dormit, sed non moritur.
✠⸺Victimae ponentur ante Oculus Ignis,
et Vox Vetus iterum clamabit.
✠⸺[......] Inferus vocabit sanguine tuo.
ーーーーーーーーーーー
ーー淡い光が壁を照らし出すと、そこには見慣れぬ古代文字と象形図が並んでいた。アルセリオは慎重に近づき、手のひらで埃を払う
アルセリオ
「……こいつは……また派手なもんを残してくれてるな」
(古びた彫刻の上に刻まれた文字を、目を凝らして読み始める)
アルセリオ
「ええと……“In nocte ardentis solis”。“ardentis”……灼熱?で、“solis”は太陽。“夜の中にある灼熱の太陽”? なんだそりゃ……逆説的な表現か?」
(眉をひそめながら、続ける)
アルセリオ
「“ubi Signa Septem dissolvuntur”…“Signa Septem”は“七つのしるし”。“dissolvuntur”……解かれる……な。七つの刻印が解かれしとき――ってとこか」
(途中で止まり、さらに慎重に読み進める)
アルセリオ
「“aperitur Porta Regni Flammarum”…“Porta”は門、“Regni”は王国……“Flammarum”は……炎の。つまり……“炎の王国の門が開く”。」
(沈黙。アルセリオの指が壁をなぞり、微かに震える)
アルセリオ
「“Noli tangere Sigillum”……触れるな、と。“Sigillum”は印だ。“印に触れるな”……?」
(次の行を読み、口元を歪める)
アルセリオ
「“Lux falsa est”…“光は偽り”……“Ignis dormit, sed non moritur”…火は眠れど、死していない……」
(しばらく黙り込み、目を細める)
アルセリオ
「“Victimae ponentur ante Oculus Ignis”…“犠牲は火の眼の前に捧げられる”、か」
(そして、最後の行を見て、唸る)
アルセリオ
「“Inferus vocabit sanguine tuo”……地獄は、お前の血を以て呼ばれる……ってわけか……」
(一歩引き、壁全体を見渡す)
アルセリオ
「まとめると……“七つの印が解かれれば、焔の王国の門が開かれ、贄の血が火を目覚めさせる”……そう言ってやがる」
(ふと、小さく呟く)
アルセリオ
「……“火は眠れど、死していない”……まさか、“焔の王”が、ここに?」
アルセリオ(眉をひそめながら壁の前で呟く)
アルセリオ
(なんつーか……中々でけぇ話になってきたな……)
(額に手をやり、思考を巡らせる)
アルセリオ
「“印”……“刻印”って単語……確か、あの時読んだ本の『焔哭の口 』に書いてあったよな……」
(ゆっくりと思い出すように)
アルセリオ
「……東の湖、西の断崖、南の庭園、北の廃都……それと、空に満ちる星、地に染みる血……」
(声が少し低くなる)
アルセリオ
「そして、“知る者”……」
(静かな沈黙の後、ぽつりと)
アルセリオ
「もし、これが“その七つの刻印”のことを指してるなら……」
(アルセリオの視線が洞窟の奥へと向く)
アルセリオ
「これってつまり――あと“いくつか”が揃えば、“焔の門”が開くってことかよ……」
(背筋にじわりと冷たい汗が滲む)
アルセリオ
(チッ……祭壇みてぇなもんまであったし……誰かが、わざと……)
アルセリオ(小声で)
「この“封印”を解こうとしてやがるのか……?」
火口へ続く階段、そして王家に伝わる“七つの印”の預言。
探偵はさらなる真実へ踏み込んでいく──。
次回、第5話「火口への道」




