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下巻:邂逅と彷徨の終焉編 第1話 偽りの客人

──中巻のあらすじ──


 休火山アールデンスにて発見された古代遺跡。そこに封じられていたのは──かつて世界を災厄へと導いた、七大罪獣の一角…

 《憤怒マルドュクの残滓》であった。


 アルセリオら“幻灯探偵社”の面々と、臨時でパーティーを組んだドクル、マックス、セレスを含めた一行は、連携と策により、焔王の骸と化した怪物との激闘を制する。


 だが、それはほんの序章にすぎなかった。


 火山の噴火と共に現れた《苛烈のカルデラ》と三体のS級魔獣。そして、その中でも異質の気配を纏った最古の龍《溶神グラーヴァ》。


 神すらも凌駕する異常事態の中で、アルセリオは策をめぐらし、仲間と共にカルデラを退けることに成功する。


 だが、突如として現れた“虚無”のアンダストラによって、カルデラは連れ去られ──決着は宙へと舞う。


 ……そして今、王都の混乱の影で。


 “シュリ”と名乗る、怪しげな少女が。探偵アルセリオの名を、しきりに嗅ぎ回っていた。

 

 皇城のエントランスへ続く廊下にて、フィアリアによって転送されたドクルたち一行は、ゆっくりと、エントランスの扉を開ける…


ギィィ……


ルリ

「…っあ!レオ兄〜!あとシグルドも!お仕事終わったの〜?」


レオナール

「ルリ、寂しく無かったか?」


ルリ

「うん!寂しく無かったよ!ルリ、この子と一緒にいたんだぁ〜!」


 ルリが無邪気に連れてきた少女は、どこか妖艶な雰囲気を秘めていた…


ルリ

「紹介するね〜! この子、シュリちゃんって言って、ルリとたくさん話してくれたの〜。

  すっごく良い子なんだよ〜!」


 紹介された少女はふわりと笑みを浮かべながら、一行にぺこりと頭を下げる。


シュリ

「シュリって言いまぁす。よろしくお願いしまぁす〜。」


ドクル(疲れた体を引きずりつつ、目を細めて)

「…この子……この空気で、笑顔というのは…凄い子ですね……」


セレス

「あらあらぁ〜……可愛い顔してるけど、正直、あんまり好かないわねぇ……理由は…気まぐれってことでぇ〜♡」


レオナール

「セレス殿、少しは言葉を選んでやれ。彼女はルリの客人だぞ。」


シグルド

「……ッ」


 誰にも気づかれぬように、ほんのわずかに眉が動く。


ポンッ…


 彼は何も言わず、軽く、だが無遠慮に少女の肩に手を置いた。


シグルド(低く、耳元で)

「……ルリに手ぇ出したら……分かってるな?」


シュリ

「…………」


 ほんの一拍の沈黙の後、シュリは無邪気に顔を綻ばせて、


シュリ

「きゃぁ〜♡ 触らないでよ、おじさ〜んっ♪」


 パシッと肩の手を払いながら、無邪気な調子で笑ってみせる。……だが、彼女の瞳は、一瞬だけ “冷たい色” を宿していた。


ルリ(困ったように)

「シグルド〜…そんなに怖がらせちゃダメだよ〜。シュリちゃん、優しい子なんだから!」


シュリ(微笑みながら)

「うんうん。ルリちゃんは、信じてくれてるもんね〜♡」


 その瞬間、カツッ…と床に軽やかな足音が響いた。


  ***


カランカラン…


 静まり返った皇都の片隅で…とある鍛冶屋の扉が開けられる…


アルセリオ

「…やっぱり、逃げてなかったんだな。フィクス。」


 鍛冶屋の工房に立つ一人の青年が、こちらへと視線を向けながら話し始める。


フィクス

「当然でしょ?僕はこんな"些事"で、研究(好きな事)を止めたりなんかしないさ。」


アルセリオ

「些事…ねぇ…さすが、蒼嶺会パラノックスの天才リーダーさんだな。」


フィクス

「ははっ!君に言われたくは無いね。…それで?例のブツかい?」


アルセリオ

「ああ。あれから数年は経ってるが、頼んだ魔導具は準備できてるか?」


フィクス

「ギリギリ間に合ったさ。言っとくけどこれ、凄い代物だよ?【魔導技術庁】に持って行ったら、まぁた特許が取れるだろうね。

 まぁ、悪用されるのは嫌だし、持ち込まないけど。」


「魔術攻撃の無効化…既存の魔術体系にも似たような現象はあるものの、それを狙って発動するのはほとんど不可能だと思われ断念されて来た。

 ──もっとも、僕が現れるまでは、ね。」


「ほんと、何度失敗した事か……

 資金も湯水のように溶けていったし、

 共和国に置いてた僕の研究所なんて……いくつか、綺麗に吹き飛んじゃったからね。」


「……いやぁ。今思い返しても、笑えるよ。」

 

アルセリオ

「…代価が欲しいのか?」


フィクス

「…その通りさ。まぁ、何かを寄越せとか言うつもりはないよ。ただ…そうだね…」

 

「…してよ。」


アルセリオ

「…あっ?よく聞こえなかったが?」


フィクス

「土下座…してって言ったんだよ。別に冗談でもなんでもない。そうしなきゃ、君に渡す気にならないだけさ。」


アルセリオ

「……ちっ。わかったよ。」


 アルセリオが静かに土下座をしながら、セリフを吐き捨てるように言う。


アルセリオ

「フィ…フィクス…様ァ"…この…愚図な探偵に、どうかァ"〜お恵みを"下さぁ"ぁ"い…」


「………ほら、言ったぞ。これで十分か?」


──しばしの沈黙が続く。


フィクス

「……ふっ……ふふっ…まったく、本当にやるとはね。君、プライドとか無いのかい?」


アルセリオ

「テメェがやれっつったんだろうがッ!!…まぁ良い。これで受け取れんなら安いもんだ。」


フィクス

「…いやぁ〜笑わせてもらったね。中々滑稽だったよ?日頃の恨みを晴らさせてもらったさ。ほら、これが君の欲しがってた物だ。」


 フィクスは二つの魔導具を、アルセリオに投げ渡す。


フィクス

「…ちなみに、その魔導具の中に入れ込まれてる【呪文識別核スペル・コア】は僕特製の解析用魔導具でね?

 対象の魔術の魔力波形を検知して保存する事が出来るんだ!」


「一応、左のスイッチを押した後に解析が始まって、完了すると……“カチッ”って音が小さく鳴る。合図代わりだと思ってくれていいよ。」


「さらに、【魔力位相計マナ・フェイズメーター】っていう衝突させるタイミングを完璧に合わせる事が出来る簡易的な魔導具に、スイッチともう一つのコア、【魔力拍動器パルスコア】を繋いで放出させる。

 これは、続けて右側のスイッチを押せばオッケー。」


「それで擬似的な"無響タクト"を発生させる事で、魔術を無効化する事が出来る。

 それらを合わせたこの魔導具を、僕は【否定律機構ネガ・ロウ】と名付けたのさ!」


アルセリオ

「…否定律機構…か。ありがとよ。すぐ使うことになりそうだ。」


フィクス

「ああ、そのために作ったんだからね。ぜひ使ってみてから感想をくれ。」


「…余談だけど、これは、君のよく使う"術陣"から着想を得たんだ。術陣は魔術と違って、外界の魔力を利用して発動する。

 だからまず、『どうやって発動に必要な魔力や属性を選別しているのか』に、僕は目をつけた。」


「それから調べ尽くした結果、どの術陣にも共通した場所に同じ角度、形で線が引かれている事に気づいたんだよ。」


「そいつの役割は、どうやら" 空気中に漂う魔力を、他の線に伝達するための信号へと変換する事 "のようでね?

 属性ごとに異なる魔力の波形をただの信号に変換出来るなら、その波形を検知する事だって出来るはずだ。」


「そのおかげで、呪文識別核スペル・コアは生み出されたのさ。保存の方は…外部メモリ代わりとして、そこらの魔石に任せてる。」


「そして外殻には、魔力共鳴率が最も高い、"共鳴結晶構造"を持った自然的鉱物、【幽脈銀(Phasic Silver)】、所謂、魔導工学にて《P.S.フレーム》と呼ばれてる標準規格を使用してる。

 波形の検知や放出を邪魔してほしく無いからね。」


「あとは…内部フレームに波長選別性を持たない中性金属、【魔導透鋼(Mana-Permeable Steel)】、《M.P.S.シャーシ》を使用して、中枢接点には部分的に【星鍛鉄(Star Of Steel)】っていう《S.O.S.ノード》が使われてるね。

 

──これは、凄く数の少ない高級品でね!僕も手に入れるのに中々時間が……っと、君にはどうでもいい話だったね。長くなりすぎたよ。」


「ふぅ…こういう話になると、ついつい語りすぎてしまう…僕の悪い癖だ。」


アルセリオ

「いや、かなり面白かったさ。…流石だな。天才サマ。」


フィクス(得意げに)

「そうだろうとも。まぁ、この手の話なら、君の方が良く知ってるだろうけどね。

 ほら、自分で組んでるでしょ?術陣。」


アルセリオ

「………まぁな。だが、魔術が使えねぇのを術陣それで誤魔化してるだけさ。」


フィクス

「その上で君も間違いなく、天才の類いだ。……自覚は、無いみたいだけどね。」


「ああ、一応、それは一つにつき一回しか使えないから気をつけなよ?

 あと、また欲しかったら言ってね。素材さえあれば量産出来るから。まぁ、かなり時間はかかるけど。」


アルセリオ

「その素材も結構集めづれぇらしいな。まぁ見つけたら送っとくわ。」


フィクス

「そりゃあ、ありがたいね。それじゃあ、さっさと事を成しに行きな。仲間が待ってるんだろ?」


アルセリオ

「そうだな、行ってくる。」


フィクス

「あと、押す順番とか間違えたら暴発するから、死にたく無いなら気をつけなよぉ〜。」


 その言葉に、アルセリオは軽く頷きながら、鍛冶屋を後にした。


  ***


 エントランスの壁際で、静かに談笑しているドクルたち一行の元へと、近づいてくる足音が聞こえる。


 狐の耳をぴくっと揺らしながら、白い装束に金が映える長身の女性が、扇で顔を半分隠しながら言葉を紡ぐ。


???

「……なんやろなぁ。どぉにも、胸の奥がざわつくっちゅうか……違和感、拭いきれへんのよ。」


ドクル

「あなたは…確か、元老院の白蓮ユウリさんでしたっけ?」


ユウリ

「ふふっ、その通りや。…まぁ、うちの顔と名を知らん人の方が、よっぽど珍しいけどなぁ。ええお育ちなこと。」


シグルド

「…白蓮家って、極東にあるアマツ国の五代名家の一つだったよな。」


レオナール

「ユウリ殿、先程、"違和感"…と言っていたが、詳しく教えてくれるか?」


ユウリ

「……ちぃと、気になるコトがあってなぁ。」


(くすっと笑いながら)

「ごめんやけど……お嬢ちゃん、そこらでじっとしててくれはる?」


 その声はやわらかいが、空気が一変する。


 膝を床に置きながら姿勢を低くし、ユウリはその金色の瞳孔で、シュリをしっかりと捉える。


ユウリ(微笑をたたえながら)

「……うち、この国に来てから、まだ日ぃは浅いんやが、…元老院に加わる以上、右も左も分からへんようじゃお話にならへんし……」


(扇子を口元に添えて、くすりと笑う)

「だからや、貴族はんも平民はんも……顔と名前、だいたいは覚えさせてもろてますの。」


(すっと視線を鋭くする)

「……そやけど、あんたのことだけは──どうしても思い出せへんのどす。」


シュリ

(……嫌な目をしているわ…)


セレス

「見たところぉ〜ここら辺の人じゃ無いようだからぁ〜ただの旅人さんなんじゃ無いのぉ〜?」


 セレスがシュリを眺めながら言葉を挟んでくる。


ドクル

「子供が一人で…ですか?」


シグルド(ニヤッと笑って)

「…その上、親御さんも居ねぇようだしな。」


シュリ

(こいつ…楽しんでるわね…割と詰んでる気がするけど、こうなったら…)


(ぱっ…とルリの手を取って)

「ルリちゃぁん、なんか……ちょっと怖いよぉ……」

「……みんな、どうしてそんなに睨むの……? わたし、ルリちゃんと遊んでただけなのに……」


 ルリに顔を埋めるようにしがみつくシュリを見ると、ユウリはふっと微笑んで、静かに扇子を畳みながら話す。


ユウリ

「そないに怯えんでもえぇのに……うちら、誰も“お嬢ちゃんを傷つける”なんて言うてへんやろ?」


(瞳の奥が、すっと鋭く細まる)

「……けどな、それでも“怖い”ゆうなら

 それは、うちの問いかけに何か後ろ暗いもんがあるってことなんとちゃうか?」


(ユウリの扇先が、空間にふわりと霊紋を描き始める)


ユウリ

「……なぁ、お嬢ちゃん。“名前”は……“シュリ”で、間違いあらへんのやな?」


シュリ(無邪気に笑みを浮かべながら)

「わたしは……“シュリ”。それ以外の名前なんて、知らな〜い♪」


 にこりと笑う少女。その微笑みの奥に、誰もが言い知れぬ不安を感じていた。

王城に張り詰める、異様な静寂。


柔らかな笑顔の奥で、

冷たい“何か”が目を覚ます。


交錯する理と疑念。

揺らぐ信頼。

そして、封じられていた魔が──脈打つ。


崩れかけた微笑の、その先へ。


──次回、『作られた微笑、目覚めの兆し』

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