第23話 邂逅のパラドクス
「…完っ璧だ!フィアリアぁ!!」
下を見ると…皇都の外縁から中心にかけて、規則的に建物が崩壊し、炎が一帯を包んでいた。
アルセリオ
(対象と術陣…そしてこの俺が一直線に並ぶこの時を待ってたのさ!)
カチッ
アルセリオは銃にとある弾を一発だけ装填し、カルデラの方へと向け…
パァンッ……
カルデラ
「………っ!?…僅かに聞こえたが…今の音…上かっ!!」
一発の銃弾の発砲音にいち早くカルデラが気づき、遠くのアルセリオを捕捉する。
カルデラ
「アタイが遠距離の手段を持って無ぇと思ってんだろ?だがな、破戒は距離なんて関係ねぇんだよ!!」
カルデラは今までよりも遥かに強く拳を握り、それに呼応するようにして…赤角が更に鋭利に肥大化する。
カルデラ
「いくぜぇ…《破戒》!!!」
ボォォォンッッ!!!!
大きな音を立てながら、アルセリオの元へと打撃が迫る………ッ!
アルセリオ
「…受けたら確実に死ぬな…まぁ、受けるつもりなんざ、端っからねぇがなっ!!」
アルセリオ
「《視縁之環》っ!!」
その瞬間、皇都の外縁部の七箇所が綺麗に光る…まるで、一つの魔術陣の様に。
フィンッ!
アルセリオと先程撃った銃弾の位置が入れ替わる…
アルセリオ
「もう一丁っ!!《視縁之環》っ!!!」
フィンッ…
続けて、カルデラとアルセリオの位置が入れ替わる!カルデラはその構えを維持したまま、空中に放り投げられた。
カルデラ
「……っ!?…なんだ、これは…空…?」
ドンッ…!
カルデラ
「うぐっ!!」
カルデラの心臓あたりに、アルセリオの放った銃弾が正面から着弾する。
カルデラ
(…これが狙いか…?舐めんなよ、こんな痛みなんて慣れて…んだ……?)
彼女は、自身の身に起こる違和感に気づく。そう、体の感覚が…明らかに鈍くなったのだ。
アルセリオ
「…どうやら気づいた様だな…まぁ、もう遅いんだが。」
ゴォォォオオオオオンッッッッ!!!!!
カルデラの放った"破戒"は、奇しくも彼女自身の身体に直撃する…!
カルデラ
「…がっ…はっ!!」
骨が悲鳴を上げ、ミシミシと音を立てる。
肉が振動し、受け流せない圧倒的な破壊の力に押し潰される。
彼女の意識はその場でプツンと切れ、そのまま地面へと落ちていく。
ドサッ……
アルセリオ
「…俺の火力が足りねぇって明らかだったんだから、自滅も頭に入れとかなきゃなぁ…?」
アルセリオは左手をポケットに入れ、右手で頭をトントンと指で軽く叩きながら…
アルセリオ
「確かに威力は凄ぇが──想定が甘ぇな。
俺の算段に合わせて遊んでねぇで、初手から破戒ぶっ放して"皇都ごと"更地にしてりゃあ、それで終わりだったろうが。」
「出来ることをやんねぇのは怠慢だぜ?
格下がわざわざ単独で突っ込んで来た時点でよ、“何か仕込んでる”事くらい読めて当然だろ。」
「敵が作戦を持ってて、自分はそれを知らない。
だったらまず“小細工を無効化する状況”を作れ。
強引に正面戦闘に引きずり込めば──格下が格上に勝つ道なんざどこにも無ぇはずだ。」
「自分の強みを押し付けねぇでどうする?
お前は“破戒”っていう圧倒的なカードを持ってんだ。
それを最初から切らねぇ意味がわからん。」
「今までは力押し(それ)だけで勝ててきたんだろうが、今回は相手が悪かったな。良い経験になったろ。」
そう、至極冷徹な表情で見下ろすように言葉を発した。
アルセリオ
「…っと、フィアリア…居るんだろ?そう…俺が言ったもんな。お前が用意してくれた弾、大いに役立ったぜ?」
ブゥンッ…
フィアリア
「…本当に、勝ってしまうなんてね。」
アルセリオ
「ひっでぇな…信じてなかったのか?泣いちゃうぞ?」
フィアリア
「そう言う訳じゃ無いから安心なさい。…それにしても、本当によく考えるわね。」
アルセリオ
「そうだろう?もっと褒めてくれても良いんだぜ?」
──
少し前、
アルセリオ
「………なるほど。ご厚意ありがとう。それじゃあ、こいつを渡しとこうか…。」
アルセリオがとある紙を手渡す。
フィアリア
「あら…もう勝った気でいるのね?まぁ良いわ。そう言うの嫌いじゃ無いし。
……なるほどね。本当、面白い事を考えるわね…分かったわ、用意しておく。合図は…」
アルセリオ
「俺をずっと"見て"おけ。そしたら自ずと見えて来るさ。」
──
フィアリア
「弱体化目的の弾が欲しいなんて、普通私に頼む物じゃなくないかしら?」
アルセリオ
「良いじゃねぇか…あのレベルの敵に即効性の弱体化を与える魔術なんて、アンタぐれぇしか使えねぇだろ?
《深淵》のフィアリア・グンヒルドさん…?」
フィアリア
「お世辞は良いわよ。それより、上空に転移させるって事の方が驚いたけど。」
アルセリオ
「まぁ初見じゃ分かんねぇだろうからな。昔…つっても数年前だが、俺が探偵社に所属するようになってからすぐの事だ。
一度、道化師っつう奴にしてやられてな。そいつが使ってた八芒星のトリックを参考にしたのさ。」
──彼は過去のことを語りだした。
アルセリオ
「時計回りに、12時から始まり、1時半・3時・4時半・6時・7時半・9時・10時半を通って、最後にまた12時の場所…俺がここに来ることで"敗北"が確定したこの"古い教会"に戻ってくる。
…まぁ今回は、カルデラが来る事で俺の"勝利"が確定したんだがな。」
「そんで、フィアリアに上空へ転移させてもらって、デバフ弾を撃ち、2回の入れ替えを経て、カルデラの破戒を利用する事により、俺が与えられない"決定打"を自らに当ててもらう。」
アルセリオ
「途中…色々と驚かされる展開もあったが、概ね計画通りだな。」
澄ました顔で言う。
フィアリア
「…まったく、こんな扱いづらい術陣を良くここまで有効活用出来るわねぇ…」
「確か、描いた陣と入れ替えたい対象を一直線…それも一度に視界に入れなきゃいけない制約が付いてたわよね?これ。」
アルセリオ
「ああ、その為の上空への転移さ。」
フィアリア
「…なるほどねぇ〜その上で、わざと建物を壊させて、あの短剣から魔力回線を繋げるよう…障害物を壊させてたわね?」
アルセリオ
「綺麗に均等だろう…?まぁ、直情型で良かったな。扱いやすくて楽だった。」
フィアリア
「そう言ってしまうと、あの子が可哀想だわ。…さぁ、トドメを刺しちゃいましょうか。」
アルセリオ
「そうだな。さっさとしねぇと、起きちまうかも知れねぇし。」
二人はカルデラの目の前に立ち、アルセリオが引き金を引く。
ブゥワァッ!!
アルセリオ&フィアリア
「なんだっ!?/何かしらっ!?」
漆黒のモヤが、カルデラの周りを包み込む。
──そして、
???
「…ちょっと待ってくれるかしらぁ〜」
ゾワッ…
突如として現れたその者を見て、二人の顔が真っ青になり、動悸が治らなくなり…冷や汗が滴り始める。
アルセリオ
(…なんだ……こいつ…っ!本能が警鐘を鳴らしてやがる…少なくともマルドュクの残滓以上だ…)
フィアリア
(この感覚…久しぶりに感じるわね。私にはどうしようも出来ない格上…)
???
「悪いけど、クレアちゃんは預からせてもらうわね?…異論は無いかしら?」
固唾を呑みながら、アルセリオは笑みを維持して口を開く。
アルセリオ
「…アンタ……見ねぇ面だな。何者だ?」
???
「私とした事が、自己紹介を忘れていたわ!ごめんなさいね?…こほん、私の名前は…そうね、"《虚無》のアンダストラ"と呼んでくれるかしら?
当然、偽名だけれどね。」
フィアリア
「…アンダストラ……分かったわ、そう呼ばせてもらうわね。貴方も…《彷徨う者達/ドミネクリプス》の一員なのかしら…?」
アンダストラ
「ええ…そうよ。認知はされていないと思うけど。」
アルセリオ
「確かに…聞いた事が無ぇな…七人だったはずだが…?もう一人居たのか…」
アンダストラ
「いや?私以外にも、
"《始原》のヴァント"って子が居るわよ?」
フィアリア
「また知らない名前ね…」
アンダストラ
「それはそうでしょ?あの子、実態を持たない特殊な魔人種だから、自由に姿を変えられるのよ。
正直、私でも見つけられ無いわ。」
アルセリオ
「…身近に潜んでるかも知れねぇってか?怖すぎんだろ…」
アンダストラ
「そうね。…さて、そろそろ時間的にまずいから、お暇させてもらうわね?」
彼女はその穏やかな声色からは想像出来ないほど…静かな圧を出していた。
フィアリア
(拒否権は無いって事ね…)
「分かったわ。私たちもまだ命が惜しいし…好きに帰りなさい。」
アルセリオ
「同感だ…出来ればさっさと帰って欲しいもんだな。」
アンダストラ
「…きちんとわきまえている人は好きよ?面倒ごとが増えないし。それじゃあ…またお会いしましょう♪」
ブゥン…
そう言って、大量のモヤが収束するように、音を立てて消えていく。
…………。
アルセリオ&フィアリア
「………っぷはぁ〜!」
先程まで半ば止まっていた呼吸が、改めて再開される。
アルセリオ
「心臓が止まるかと思ったぜ…何なんだよ、あの異次元の圧は…」
フィアリア
「私も流石に死を予感しちゃったわ…ほんと、心臓に悪いわね…」
二人はゆっくりと歩き出しながら、会話を続ける。
アルセリオ
「まさか…ドミネクリプスが9人チームだったとは…初知りだぞ?こりゃあ、ルドヴィクスの奴に報告待った無しだな。」
フィアリア
「そうね。…ここからは任せたわ。私は少し寝て来る。」
アルセリオ(ニヤニヤしながら)
「ちびったか?」
フィアリア
「あなたこそ…ちびったんじゃない?パンツまで濡れてないといいけれど。」
アルセリオ
「はっ!口は絶好調だな。…ほら身体、震えてんぞ?」
フィアリア
「そう見えるのは…あなた自身が震えてる証拠じゃなくって?」
ぷっ…
アルセリオ&フィアリア
「ははははっ!/ふふっ!!」
交わされた笑い声が、通りの石畳に跳ね返るように響いた。
アルセリオ
「いやぁ〜二人揃って馬鹿みてぇだな…!」
フィアリア
「ええ。馬鹿みたいだわ!」
アルセリオ
「とりあえず、報告だな!フィアリアは…ゆっくり休んどけ。
…ほんとに震えてるぞ?あんま無理すんな。」
確かに、彼女の身体は…僅かに震えを見せていた。
フィアリア
「お気遣いありがとう…お言葉に甘えさせてもらうわ。それじゃあ、ここでお別れね。」
アルセリオ
「ああ、またな…フィアリア。」
ブゥン…
その音と共に、彼女は深淵へと消えていく。
アルセリオ
「まだ終わんねぇだろうからな…そろそろ、出来たぐれぇか?」
そう言って、アルセリオはとある場所へと歩を進める。
***
──同時刻。
ガチャッ…!
「…陛下!!
……最奥封庫より、“逆理の匣”が姿を消しました…ッ!」
アルヴレイド
「………何だと?」
王国の最奥より奪われた、
“逆理の匣”。
それは、神すら否定し得る禁忌。
混沌は静かに笑い、
皇都では思惑が絡み合う。
影は、すでに重なり始めている。
──第24話、『交差する影』




