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第19話 緑色の灼熱

 山を這うようにして天へ昇る巨影。それは、火山の胎内より現れし“神”の如き存在。

 グラーヴァ──熔神と呼ばれしその魔獣は、ゆっくりと身を起こしながら、燦然さんぜんと輝く太陽を背に受けていた。


 緑玉を砕き、森を封じ込めたかのようなその鱗は、火山灰に濁った空を煌めかせ、見る者に畏怖と敬意を同時に刻みつける。


──風が止まり、空気が重くなる。


 誰もが息を呑んだ。その場にいた五人、誰一人として軽口を叩くことはなかった。

…そして、最初に沈黙を破ったのは、ヴィクトルだった。


ヴィクトル

「……ああもう、緊張すんじゃねぇよ。あれがただの魔獣だってドクルが言ったんだ。

 だったら、やるしかねぇよな?」


 拳を鳴らし、ぐるりと肩を回す。だが、笑顔はない。瞳は獣のごとく細められ、目の前の魔獣を見据えていた。


ドクル

「姿を現したという事は、こちらに対して“敵”としての意思をはっきりと示したということです。つまり、交渉の余地も、回避の猶予もない。」


シグルド

「なら剣を交える以外に選択肢は無いということだな。」


レオナール

「……だが、問題はある。あれだけの熱気だ。まともに近づける保証はない。」


ヴィクトル

「…ドクル。焔王の時に使った《霜環結界》は使えねぇのか?あれがありゃあ熱気なんて気になんねぇだろ?」


ドクル

「無理ですね。塵紋術と干渉し合います。それに、グラーヴァは"溶"神なので、氷はすぐに溶かされるでしょう。」


ヴィクトル

「…なるほどねぇ〜そりゃあマジでどうしようもねぇな…」


セレス

「それでもぉ〜やるしかないわぁ〜〜せっかくのドクルくんの塵紋術、無駄にする訳にはいかないもの〜」


 淡く、光る粒子が、未だ山全体を覆っている。視覚を補うこの術は、グラーヴァという“不可視の恐怖”に立ち向かうための、唯一の手段だ。


ドクル

「皆さん、ここから先は一手のミスが命取りです。覚悟を決めてください。」


ヴィクトル

「とっくに決めてるさ。さぁ、試してみようぜ──俺らがどこまで食らいつけるかってな。」


 そしてその瞬間、

 グラーヴァの頭部が僅かにこちらを向く。それは、挑戦を受け入れる“合図”にも見えた。


シグルド

「……来るぞ。」


 地が鳴る。空が軋む。

 圧倒的な質量と熱が、五人の戦場を包み込む。


「…ゥォォオオオン……」


 グラーヴァはその身を振るい…落ちていく鱗を砕き、こちらへと飛ばしてくる。


ドクル

「皆さん!!僕の後ろに!!!」


 その声を聞き、一斉にドクルの後ろへ移動する。


ドクル

「《展障てんしょう》!!」


 ドクルが宙を指でなぞると、ドーム型の結界が展開される。


ガガガガガッ…!


ヴィクトル

「あっぶねぇ〜な…サンキュー…ドクル。」


セレス

「あれぇ〜?シグルドおじ様は何処に行ったのかしらぁ〜?」


 セレスの言葉で、みなあたりを見回すが、シグルドの姿は見当たらない。


レオナール

「…あそこ…粒子が少し動いてる。」


 レオナールが刺す方向を見ると、確かに光の粒子が僅かに──揺れていた。


ヴィクトル

「おい、上がってってるぞ?」


ドクル

「あれは…モヤ…ですかね…?」


ブゥン……


 その音と共に、モヤの中から彼が姿を現す。


シグルド

「あんま見られたく無かったんだが…テメェ相手にゃあ、流石に舐めプは出来ねぇよな?」


ザァァアンッッッ!!!!


「グオォォォオオン………ッ!?」


 その小さな刃渡りからは想像出来ないほど深く、グラーヴァの身体が抉られる。

 その一瞬…グラーヴァの視線が、シグルドだけを写す。


ドクル&セレス&レオナール&ヴィクトル

「親父っ!!

おじ様っ!?

シグルドさん!?

おっさん!?」


クルクルッ……スタッ…!


 シグルドが身体を何度か回転させながら、皆の元へと着地する。


シグルド

「チッ…再生が速いな。さすがS級最上位ってか?」


 グラーヴァの傷口が…まるで融ける様にして消えていく。


ヴィクトル

「おいおい…今のは何だ?おっさん!!」


セレス

「あんな事も出来ちゃうのぉ〜〜?」


ドクル

「それに、その双剣からどうやってあれだけの傷を…?」


レオナール

「親父…俺も始めて見るんだが…」


シグルド

「まぁ…おじさんも色々あるのさ。」


 そう、彼は目を逸らしながらはぐらかす。


ヴィクトル

「なぁおっさん…さっきの攻撃…また当てれっか?」


シグルド

「…厳しいな。一度目は、半ば不意打ちでのヒットだから、次は粒子の揺らぎから察知されるだろう…」


ドクル

「つまり…察知されない様に、僕たちが注意を引けば良いんですね?」


シグルド

「それが出来れば…そうだろうな。」


ヴィクトル

「こりゃあ…俺らの腕の見せ所だな!」


セレス

「そうねぇ〜頑張っちゃいましょう〜!」


レオナール

「俺も力比べなら役に立てるぞ?」


ドクル

「そうですね…それなら、遠隔の攻撃は僕が防ぎますので、敵が近づいてくれば、レオナールさんとヴィクトルさんで押さえ込んで下さい。

 セレスさんは…皆さんに強化魔術をお願いします。」


セレス

「"祝福"で良いかしらぁ〜?」


ドクル

「ええ、十分だと思います。」


セレス

「それならぁ〜もう発動しておくわねぇ〜《祝福》!」


 皆の身体を微弱な光が包む。


シグルド

「そういう事なら…おじさんは潜んでおくかな。」


 スゥ…とシグルドがあたりと同化する。


ヴィクトル

「スゲェな…マジで感知すら出来ねぇ…」


ドクル

「姿が見えない上に、臭いも音もしませんね…ついでに言えば、魔力の流れも見えない…」


レオナール

「完全に同化しているという事だな。」


セレス

「どちらかと言うと…アーちゃんと少し似てるからぁ〜概念に近いかもぉ〜〜?」


 グラーヴァはこちらの様子を窺いながら、宙を這っている。


「コォォォォオオ………」


 グラーヴァの口元に、膨大な魔力が蓄積されていく…その身体には、胸元から首元へかけて…"緑の紋様"が浮かび上がる。


ドクル

「皆さん…ブレスが来ます。セレスさん、防御系の神聖術は使えますか?」


セレス

「あるわよぉ〜でも、私のだけだと心許ないかもぉ〜〜」


ドクル

「そこは合わせますので、問題無いかと。」


 あたりの空気が振動し…光と熱が飽和する。


「…グォォォオオオオッッ!!!!!」


 輝きすら帯びた白金色の奔流が、轟音を立てながら、こちらへと迫ってくる…!


ドクル

「行きますよっ!!」


セレス

「はぁ〜〜い!」


ドクル

「《展障-Zemnaゼムナ》…!!!」


セレス

「《聖盾の加護せいじゅのかご》ぉ!!」


ブブブブゥン……!


 ブレスの方向を遮る様に、セレスの聖なる盾が顕現し、その場を囲う様にして、ドクルの障壁が十ほど展開される。


ドゴォォォッ……!ギギギギィッ!!

 

 灼熱のブレスと結界が衝突し、軋む音を立てる。


バリンッ…!


ドクル

「簡単に壊してくれますね…結構硬度には自信があったのですが…」


 一つずつ…ドクルの障壁が削られていく。


バリィィィン!!!


ヴィクトル

「これ…防ぎ切れんのか?」


ドクル

「流石に…なんとかなると思いたいんですがね。」


 衝突の余波が、あたりの地形へと伝播でんぱし…木々などが光るガラス状へと変わっていく。


バァァァリイィィンッッ!!!!!


レオナール

「壊れたぞっ!!」


 ドクルの展障が完全に崩され、セレスの聖盾に直撃する。


ゴォォォォォオオンッッッ!!!!


セレス(両手をかざしながら)

「ふむぅぅぅうう〜〜〜!」


 大きな音を立てながら競り合い…やがて、


シュゥゥゥゥウ〜〜


レオナール

「打ち止めか…凄い威力だな。」


グラーヴァ

「オォォン…!!」


 グラーヴァの尾がしなりながら、高速でドクルたちを襲う。


ガァァンッッ!!!


 レオナールとヴィクトルがその攻撃をなんとか止める。


レオナール

「掴ませてもらったぞ…?…ふんっ!!」


 思いっきり尾を引っ張り、グラーヴァをこちらへと引き摺り込む!


グラーヴァ

「………ッ!?」


ヴィクトル

「やっちゃいなぁ!!おっさん!!!」


シグルド

「あいよぉっ!!『  』ッ!!!」


 シグルドが再びその場に現れ、黒く光る双剣を…こちらへと近づいてくるグラーヴァの力を利用して斬撃を入れる!


ザァァァァアンッッッ!!!!!

確かな手応え。

だが──

その巨躯は、なお空を裂いていた。


──第20話、『神獣の囁き』

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