第18話 双璧を穿つ者達
バサッ…
イグニヴァルが悠々と羽ばたいている。
ルドヴィクス
「…攻めて来ないな。」
ダガン
「俺が現れたからだろう…様子を窺っていると見える。」
「それより…カラドニクスの装甲は斬れるのか?」
ルドヴィクス
「舐めるなよ?これでも元々こっちが本職だったのだ…かつて剣聖と謳われたこの俺が、あの程度…斬れぬ通りは無かろう?」
ダガン
「どちらかと言えば凶戦士の様に見えたが…?いつも先陣を突っ切っていただろう?」
ルドヴィクス
「…掘り返すな…ダガン。若気の至りだ。」
ダガン
「ククク…そうだな。若気の至りだ。さて、あちら側が何もして来ないならば、こちらから行かせてもらおうか。」
ルドヴィクス
「ああ。そうしよう。」
ブワァッ……!
純白のオーラが、ルドヴィクスの体を静かに包む。
ダガン
「久々に見たな…その力。なぜ今まで使わなかったのだ?」
ルドヴィクス
「歳も取った上に久方ぶりであるからな。もう…そこまで長くは保たんのだ。」
ダガン
「なるほど…老いとはやはり怖いものだな。」
(私には縁の無い事だが。)
二人は各々の敵を見据え、臨戦体制に入る。
シュンッ……
カラドニクス
「……っ!?」
一歩…ルドヴィクスが歩を進めたと認識した頃には…既に彼は"そこ"に居た。
ルドヴィクス
「反応が遅いぞ?」
ドォンッ!!!
ルドヴィクスの攻撃が、カラドニクスの装甲に阻まれる…だが、確かに先程とは違う事があった。
──そう、ヒビが入ったのだ…!
ビキッ…
ルドヴィクス
「嬉しいねぇ…初めてのダメージだ。」
「安心しろ。これから何度でも浴びせてやる。」
ダンッ…
カラドニクスが上空へと跳び上がる。
カラドニクス
「…………グガァ?」
下を見下げながらルドヴィクスを探すが…彼は既にそこには居ない。
ルドヴィクス
「何処を向いておるのだ?」
カラドニクス
「………っ!!」
ゴォォォンッッ!!!
ルドヴィクスはカラドニクスの上を取り、その剣を素早く振り下ろす。
ヒュンッ…ドカァァンッッ!!!!!
その巨体が…勢い良く地面へと叩きつけられる。
そして先程カラドニクスのいた場所には、ルドヴィクスの剣が振るわれた軌跡だけが、空間に白い線を残していた。
***
ダガン
「始まったな…ならば、俺もそろそろやるとしよう。まずは、どの程度の回避性能か…試させてもらおう。」
そう言って、ダガンが右手をイグニヴァルの方へと向けると、千を超える魔弾が現れる。
ダガン
「──ゆけ。」
その言葉と共に、イグニヴァルに目掛けて高速で射出される。
イグニヴァル
「……グラァッ!!」
ビュンッ……
イグニヴァルは左へと進行方向を変え、今までよりも速度を上げる。
すると、魔弾もまた…その方向へと追尾していく。
ダガン
(中々に速いな…ならば挟み撃ちをしてみるか。)
魔弾の一部が急激に角度を変え、イグニヴァルの死角へと潜り込む。
まるで“生き物”のようにうねりながら──。
イグニヴァル
「………ッ!?」
イグニヴァルの前方から、先程分かれた魔弾が迫ってくる。
イグニヴァル
「……ガァァアアア!!!!」
これは今までで一番弱いブレスだが、この程度の数の魔弾を弾くには十分である。
──が、煙の向こうから魔弾は勢いを変えずに再び迫ってくる。
イグニヴァル
「……ッグラァ!?」
ビュゥンッ!!!
イグニヴァルは咄嗟に上方へと飛び上がる。
ダガン
「反応速度0.06秒。流石はS級魔獣だな…だが、これならばどうだ?」
その瞬間、イグニヴァルの進んだ場所に留まっていた魔弾が、一斉に爆発する。
ドガガガァァァンッ!!!
イグニヴァル
「……グラァ……ッ!」
ダガン
「軽傷とは言え、しっかりと効くな。」
イグニヴァルは下へと落ちていくが、地面ギリギリで体勢を整え、再度飛行を開始する。
ピュイイン……ドガァーンッ!!!!
──"通過した"事を条件に、設置型の魔弾が炸裂する。
ズザザザザッ………
勢い良くその巨体を地面へと滑らせた。
ドガガガガガッ!!
そして、先程から追尾していた魔弾も一斉にイグニヴァルへと炸裂する。
ダガン
「面白いくらいに当たってくれるな…所詮は獣か?だが、この程度では無いだろう?見せてみろ…お前の力を。」
イグニヴァル
「………グラァァァァアアアッッッッ!!!!」
あたりの空間を揺らすかのように、イグニヴァルは大きな咆哮を上げる。
それと同時に、イグニヴァルの翼端から…青白い炎が灯る。更に、翼の基部から背中のラインを沿って青白い炎が走る。
ダガン
「…さながら、伝承にある不死鳥の様だな。色は違うがね。…さぁ…お手並み拝見と行こう。」
***
タタッ…
ルドヴィクス
「……何処に行った?」
ルドヴィクスはあたりを見回すが…カラドニクスの姿は見当たらない。
シュンッ…ガァンッッ!!!
ルドヴィクス
「………っ!?」
高速で移動する物体を剣で弾く。
ザザッ……
カラドニクス
「……グルルルル………」
外へ出ていた腹部は引っ込み、シュッとした身体に引き締まった筋肉が目立つ。
ルドヴィクス
「縮んだ…?そんな事も出来るのか…面白い。」
──再び、カラドニクスは高速でルドヴィクスの周りを走り回る。
ルドヴィクス(剣を構える)
「ネタが割れれば、防ぐ事は造作もないぞ?」
カラドニクスの攻撃をルドヴィクスが弾こうとしたその時、
ボォンッ……!
ルドヴィクス
「……なにっ!?」
カラドニクスの身体が元の大きさに戻り、その巨体がルドヴィクスへと突進してくる。
ガァァァンッッッ!!!
ルドヴィクス
「そういう事か…!これは…本当に面倒だなっ!!」
ヒュンッ…
押し合いをしている最中にまたもや縮み、高速で蹴りを入れてくる。
それをルドヴィクスは体を後ろへと反り、ギリギリで躱わす。
ルドヴィクス
「はぁぁっ!!!」
ボォンッ…ガァンッ!!
ルドヴィクスの斬撃をカラドニクスは膨張し、腹部の装甲にて防ぐ。
その膨張により、ルドヴィクスは数メートル弾き飛ばされる。
ザザァ……
ルドヴィクス
「幼体でこれとは…少し侮っていたか。」
カラドニクス
「…グルル……」
そこから、しばらく同じ様な攻防が続く。
ルドヴィクス
「はぁ…はぁ…まったく…衰えたな。だが、貴様も随分と疲れているようだな?…カラドニクス。」
カラドニクス
「グォォ……グル………ッ」
ルドヴィクス
「そろそろ…決着をつけようか。」
両者は互いを見据えながら、息を整え…
そして──、
ダンッ……!!
カラドニクス
「グルゥラァァッ!!!」
ボォンッ……!
ルドヴィクス
「馬鹿の一つ覚えだな!!待っていたぞ!!」
ルドヴィクスは渾身の一撃を、カラドニクスの腹部へとぶつける。
ズガァァァンッッッッ!!!!!!
バキッ…ズザザッ………
カラドニクス
「グ……ガァァ?」
カラドニクスの魔核が、音を立てて崩れる。
ルドヴィクス
「気づいて無かった様だが、俺は最初から…お前の腹部…つまり、"同じ位置"に"同じ角度"で斬撃を入れていた。
言ったろう?待っていたぞ…とな。」
「そして、腹部に大きく硬い装甲があるという事は、その下はそこまでして守らなければならない程…大切な物があるのだろう。…と考えたが、どうやら当たっていた様だ。」
ドスンッ……
その巨体は…大きな音と共に倒れ、親を探す様にしながら、意識を落とす。
ルドヴィクス
「静かに眠れ。幼子よ…」
──そうして…ルドヴィクスはその場を後にした。
***
ヒュンヒュンヒュンッ……
ダガン
(先程よりも速くなっただけか…?だとすればとんだ拍子抜けだが…)
すると…イグニヴァルが反転しながら、ダガンの元へと突っ込んでくる。
ダガン
(何が目的だ…?それは愚策だろう…?)
ドドドドォォンッ…
──設置型の魔弾が連鎖爆発を起こす…。
ピカンッ……!
舞い上がる粉煙の中で、一筋の青白い光が点滅をし、こちらへと放たれる…!
ゴォォォォッッッッ!!!
ダガン
「……っ!?ブレスだと!?」
ダガンは自身の魔弾を盾の様に変形させつつ、近くの魔弾を複数爆発させ、その風圧で右へと緊急回避を行う。
ゆっくりと顔を上げ、イグニヴァルの方を見ると、大きく口を開け…再装填を始めていた。
ダガン
「まさか……"食った"のか?なるほど…爆発で生じた爆炎を食い、体内で一点に集め、ブレスの様にして吐き出した…という事か。」
(少し面倒になってきたな…早く終わらせるか。)
キュィィイイインッッッ!!
クイッ…
ダガンが指を上げると、イグニヴァルの顎の下で、大きめの魔弾が破裂する!
ボォンッッッ!!
イグニヴァル
「………ッ!?」
イグニヴァルの口がその爆風によって閉じ、口内で装填していたブレスが爆発する!
ゴォォォォォンッッッ!!!!
続けて…ダガンは魔弾を足場とし、高速でイグニヴァルの元へと近づく。
そして、ブゥンッ…という音を立て、魔弾が武器の形状に変形する。
「…死に晒せっ!!」
ザァンッッッッ!!!!
ダガンの斬撃に呼応して、彼の周りに生成された大量の魔弾が一斉に炸裂する。
ドドトドドォォォォオオンッッッ!!!!!
イグニヴァル
「グラァァァァッッ………!?」
ダガン
「まだ俺の攻撃は終わらぬぞ?」
その言葉と共に、あたりに散布させていた魔弾の全てを武器の形状へと変え、イグニヴァルの身体を連続で貫く。
「………ダメ押しだ。」
イグニヴァルの傷口から入り込んだ魔弾が、体内で一気に爆発する…!
ボォォォォオオンッッッ!!!!
その巨体は大きな悲鳴を上げ、肉片が四散する。
ダガン
「中々にグロいな…」
まるで結界の様に球状に広がる魔弾の中で、ダガンがそう呟く。
ダガン
「まぁ…勝てば良いだろう。」
ルドヴィクス
「相変わらず…容赦が無いな、ダガン。」
ダガン
「容赦など要らぬだろうに…」
ルドヴィクス
「それもそうだが…後処理が面倒になるのだ。」
ルドヴィクスはあたりを見回しながら言う。
ダガン
「それは…すまなかったな。失念していた。…それにしても随分と手こずっていたようだが、やはり衰えているな。全盛期ならば数手で鎮めていただろう?」
ルドヴィクス(頭を掻く)
「その通りだ…俺も先程、強く実感させられた。」
「その点お前は変わらぬな。…俺はお前がどれほどの時を生きているのか…気になる所だ。」
ダガン
「すまぬが、それは俺も数えていない。」
ルドヴィクス
「そうかい。…さて、若者共は上手くやっているかな?」
火山に顕現した、最古の龍。
緑の鱗が灼熱を帯び、空気そのものを歪ませる。
正面から挑む者、影に潜む者。
五人はそれぞれの役割を背負い、その巨影へと刃を向ける。
──次回、『緑色の灼熱』




