第16話 三獣の凶兆、十三の策謀
タッタッタ…ザザッ
ヴィクトル
「なんとか間に合ったみてぇだな?」
ルドヴィクス
「ああ。加勢…大いに感謝する。それで?誰がどれを担当する?」
「俺としては…2体ぐらいまとめて相手取れるが?」
ドクル
「お願い出来ればと。ですが皇王様…グラーヴァに関しては、僕達が片付けます。」
ルドヴィクス
「そうか…ならば、俺はトカゲと鳥を頂こう!」
ニヤッとした顔で、ルドヴィクスはその2体を見やる。
シグルド
「良いのかぁ?ドクル。お前…魔力も大して残ってねぇだろ。」
ドクル
「はい。ですが、魔力回復のポーションを飲めば問題ありません。」
レオナール
「回復量には限度があるくないか?それに、かなりの貴重品だろ?魔窟の素材からしか作れないって聞いたぞ。」
ドクル
「回復量に関しては気休め程度にはなりますよ。それと、確かに貴重品ではありますが、惜しんでいては機会を失います。」
セレス
「あそこのぉ〜〜派手に叫んでる赤髪ちゃんとはぁ〜〜誰が遊ぶのぉ〜?」
フィアリア
「…私が少し遊んでやろうかしら。」
ルドヴィクス
「任せたぞ?フィアリア殿。」
フィアリア
「ええ。任されたわ。」
カルデラ
「話は済んだか?…なら、アタイもそろそろ始めるぜ!!」
──しばしの沈黙が続く。
ドクル
「…グラーヴァの元へはどう行きましょう?咆哮の音からして…そこそこの距離はありますが。
誰か、転移か飛行手段などは…」
セレス
「んふふ〜〜、残念だけどぉ〜〜、この距離は流石にぃ〜〜」
その時、フィアリアが静かに一歩、前に出る。
フィアリア
「なら、私が送ってあげましょう。」
ドクル
「…可能なのですか?」
フィアリア
「得意分野だからね。まぁ他者を飛ばすとなると精密な制御は必要だけど……貴方達なら、壊れないでしょう?」
セレス
「わぁ〜〜強引な言い方だけどぉ〜〜ちょっとテンション上がって来たかも〜〜♪」
ヴィクトル(顔を引きつらせながら)
「おっかねぇ〜嬢ちゃんだな…」
シグルド
「おい。“ぶっ壊れそうな奴”も混ざってんぞ?」
フィアリア
「……それは、当人の根性次第じゃない?」
フィアリアが軽く笑うと、全員の足元に黒い円が形成される。
フィアリア
「じゃあ、行きなさい。」
パチンッ
指を鳴らす音と共に、暗い深淵がドクル・セレス・シグルド・ヴィクトルを包みながら消えていく。
フィアリア
「さて、貴方はどうするの?」
ルドヴィクス
「ここではフィアリア殿の邪魔になるであろうからな。適当に場所を変えよう。」
「ルーエン。お前達は疲弊した兵を率いて、皇都内に戻り、城門を閉じておけ。」
ルーエン
「分かりました、父上。カイガス卿もそれでよろしいですか?」
ルーエンの言葉に、筋骨隆々の男が腕を組みながら返答する。
カイガス・グラウル公爵
「ああ。それで良いとも…だが王よ。一体で良いから、吾輩にも戦らせてはくれぬのか?」
ルドヴィクス
「すまないが、あれは既に俺の獲物だ。武を担うグラウル公爵は、どうかルーエンを支えてやってくれ。」
カイガス
「うむ。了解した…その任、必ず遂行して見せよう…」
ヴリトラ・タイムハルト公爵
「ククク…まるで忠犬のようだな?カイガス。」
カイガス
「なんだと?貴様の様な貧弱極まりない狐よりは、幾分かマシだろう!!」
声を荒げながらヴリトラへ圧をかける。
ヴリトラ
「文官なのだからしょうがないじゃないか。だが、この私でも…そなたを斬り伏せる事くらいは容易だぞ?」
カイガス
「はっ!!やれるものならばやって見せろ!!」
歪み合う二人の間に割って入り、宥める様にこう言う。
トール・ヴェルナー公爵
「まぁまぁ…先輩方…。私たちは栄えある三大公爵家なのですから…ここは結託してですね…」
カイガス&ヴリトラ
「ええい。金にしか興味の無い、恥知らずなドブネズミは黙っておれ!/黙っておけ!」
トール
「はぁ…火急の事態なので、時間を無駄にしないで下さい。それとも、皇王様の指示に背くおつもりで?」
──途端に静まり返る。
カイガス
「…それもそうだな。ヴリトラ、この戦いは一度お預けだ。…行くぞ。」
ヴリトラ
「ああ。また負けたくなったら来なよ?人様に見せられないようにしてやるから。」
カイガス
「貴様………ッ」
トール
「はいはい。こっちですよ〜」
そう言って、トールが二人を押しながら皇都の中へと歩いていく。
ルーエン
「…それではお父様。お気をつけて…」
タッタッタッタ……
ルドヴィクス
「相変わらず仲が悪いな…一周回って…もはや良いまであるか?」
「まぁそれは置いておいて…そろそろ始めようか…」
***
時を少し遡り──
皇都フォルトゥナ、元老院議事堂にて。
議長バルナバス
「焔王の“骸”……。それが、休火山から姿を現したとなると……これは、災厄の兆しと見て間違いないな。」
レティス教授
「ええ。観測記録によれば、あの地の魔力バランスはすでに“臨界”です。
……もはや、何が現れてもおかしくない。」
ハルゼン・ガンド第一騎士団団長 兼 総督
「貴族の皆様は、お早めに避難計画でも立てられたらどうです?」
その言葉に誰も応えず、やや沈黙が流れる。
ヴリトラ
「くだらん脅しだねぇ〜。王が直々に動いた以上、我らは静観すべきだと思うが?」
ヴリトラ
「まぁ…退屈になったら、気が変わるかもしれんがね」
白蓮 結里
「へぇ〜、さっすがアスペリアの元老院さんや。なんとも、綺麗な腹ん中してはりますなぁ?」
イオ司教
「アマツ国から来た白蓮家の者が、異国の政治に口を挟む事は、慎んだ方が宜しいのでは?」
ユウリ
「ああ、うちかて別に、無理に敵に回る気はおまへん。ただ、そやけどまあ、“筋”っちゅうもんがあるんですわ。」
「それに、あんさんかて…こっちの人間やあらしまへんやろ?……ふふ、なんや…えらい風変わりな考え方してはりますなぁ?」
イオ
「皮肉が得意ですね…相変わらず。それで?カイガス殿はどうお思いで?」
カイガス
「むっ?吾輩は当然、魔獣の群れが攻めてくれば…久々に暴れたいな!!」
アントレム・カルケノー侯爵
「まったく…これだから脳筋は…私は反対ですよ。加勢した所で、一体何の価値があると言うのですか?」
アントレムの発言に、立て続けに三人が反応する。
宮廷魔導士クローリス
「え〜? そんな冷たいこと言っちゃってさ〜、ほんとは怖いだけでしょぉ〜?
あっ、そっかぁ……“やっても意味が無い”って言っとけばぁ…逃げる理由になるもんねぇ〜?」
ユウリ
「ほぉ〜〜、よう言わはる。価値があるんか無いんか決めるんは、戦うた者だけやと思いますけどなぁ?」
トール
「まぁまぁ…さすが侯爵閣下。価値が無いと判断するまでの速度だけは、いつもながら迅速でいらっしゃる。」
「かくいう私は、財力的には有り余っているので、収支するのもやぶさかではありません…」
アントレム
「……好き勝手に言ってくれますね……。まったく、品位の欠片もありません…」
ザンデル・フェルド辺境伯
「口を挟みますが…カルレラ共和国出身として…この国には一度、我が領を救ってくださった御恩があります。ぜひ、加勢させていただきましょう…」
両手を机の上で組み、糸目を少し開きながら言う。
ユウリ
「わぁ〜〜、頼もしいこと。……ほんまに、うちはそんなこと、ようせんわぁ。」
マルヴェス・アグノー子爵
「そう言う貴公こそ…自身の利益しか考えていないだろう…ユウリ殿?」
ユウリ
「そら…うちかて、お人好しやあらしまへん。」
宮廷医師セレモン
「それはその通りですね…我々は慈善団体ではありませんし…」
マルヴェス
「ぐうの音も出ないな。まぁ良い…この俺も参加という事にしよう。」
クローリス
「ボクも、それなりに協力しようかなぁ〜!焔王だなんて、すっごく興味深いし!!
それにぃ〜ノロマな皆んなを見下ろせるしね!」
ハルゼン
「そういう性格だから貴族に煙たがられるんだよ、お嬢ちゃん?」
クローリス
「え〜?ボクってけっこう好かれてると思ってたけどなぁ〜?……あ、でも君に言われたくないよぉ〜。最近、“加齢臭”とかで距離置かれてるんじゃなかったっけ? くっさ〜〜い。近づかないでくれる?」
ハルゼン
「……このメスガキが。もう一言言ってみろ。覚悟はいいな?」
イオ
「汚らしいですよ…ハルゼン殿。」
レティス
「皆さん…"くだらない論争"で時間を"無駄"に浪費しないで下さいますか?」
セレモン
「少し言い過ぎですが…概ね同意見です。火急の事態なのですよ?内部で争っていてどうするんですか…」
ザンデル
「その通りですよ…皆様方。もう少し慎みと言うものをですねぇ…」
…………。
あまりの衝撃に、一同は一瞬固まり…口々にツッコミを入れる。
レティス
「貴方が言いますか?それ…」
アントレム
「貴方に比べれば、脳筋の方が遥かにマシですね。」
カイガス
「……吾輩も、そう思うぞ…」
ハルゼン
「テメェが一番腹に一物抱えてんだろ…」
マルヴェス
「もう少し…自らを顧みてから発言してほしい…」
セレモン
「貴方に同意されると…少々自信を無くしてしまいますね…」
イオ
「この中で一番信用出来ませんよ…ザンデル殿。」
ユウリ
「ふふ、ごきんとはんやこと。
口では“慎み”ゆうてはるけど、冥加に悪いことばっかり考えてはりません?」
「そないじょさいない真似ばっかしとったら、そのうち“こないだうち”のツケ、まどさなあきまへんで?」
クローリス
「えぇ〜? 慎み? それって〜、“口だけで何もしない奴”の言い訳じゃな〜い?」
「ねぇねぇ〜、どこぞの『他国から来た大人し〜いお客様』みたいにさぁ〜?」
トール
「おやおや……慎み深きザンデル閣下。
“口では正論、手では何もせず”、実に模範的な貴族でいらっしゃる。」
トール
「まぁ、我々の中で一番“波風を立てずに得をする”技術は、見事なものですけれど。」
ヴリトラ
「その慎み深い君が、“元老院の中で一番腹黒い”って言われてるの、皮肉で面白いよねぇ〜。」
バルナバス
「…さて…各々の“立場”は、よく理解できた。
ならば、その“意志”が本物かどうか──しかと見届けさせてもらおう。」
二獣と一神。
奴らを打倒するが為、一行は二手に分かれた。
空を裂く咆哮。灼熱に歪む大地。
そして──古き名が、再び戦場に姿を現す。
──次回、『最古の龍』




