第14話 変貌
焔王の骸が砕け落ち、沈黙が戦場を包んでから──しばらく、誰も声を発さなかった。
天には、まだ蒼と緋の二色が広がっていた。
相容れぬ色彩が空を裂いたまま、溶け合うことなく、ただ在り続ける。
けれど、それも──
一陣の風と共に、ゆっくりと、滲むように変わっていく。
蒼は穏やかに広がり、緋は陽の光へと融けてゆく。
空は晴れ始めた。
灰と熱の戦場に、ようやく“明日”の気配が戻ってきた。
アルセリオ
「勝った……な……」
ヴィクトル
「おいおい…フラグ立てんなよ…復活するかも知れねぇだろが…」
レオナール
「安心しろ。確かに斬った。」
ドクル
「はぁ……それにしても、流石に疲れましたね…魔力も大分カツカツです…」
セレス
「そうねぇ〜〜頑張ったわねぇ〜ドー君♡」
ドクル
「だからやめて下さい…その呼び方。…そう言えば…リオさん…僕の師匠についてなのですが…どうやら、会えるかも知れません。」
アルセリオ
「そりゃ本当かっ!?いつだ?いつ会えるんだ?」
ドクル
「まだ分かりませんね…ですが先程、師匠が作った"これ"に反応がありまして…」
ドクルはポケットから、とあるブレスレットを取り出した…
アルセリオ
「随分と古いな…それに、この特徴的な玄色…《幽滓鉱》じゃねぇか!!
──確か…大陸の果てにあるとか言われてる、【霊峰メル=ザナス】でしか獲れねぇやつだったよなっ!?
まさか…生きてる内にお目にかかれるとは…」
ドクル
「もっと言うと、天空に佇む…【理想郷グラウカリア】の【聖域エル=アーリエ】にしか無いとされる《霊妙石》との混合金。
この世にたった数個しか存在していない《霊滓鋼》ですね。」
アルセリオ
「マジか……お前の師匠…どうなってやがんだ…?神って言われても信じるぞ…」
セレス
「セラフタイトねぇ〜〜確かアーちゃんが持っていたかしら〜?あそこって、アーちゃんみたいな神聖の塊の様な人以外だと、《護人カレドニウス》に突き返されちゃうんだったわよねぇ〜」
セレス
「それにぃ〜〜〜護人達に認められてもぉ〜〜最後に《煌龍》が頷いてくれないと、扉は開かないらしいわぁ〜〜」
シグルド
「霊峰メル=ザナスに関しても…そもそも行く事自体むずいってのに、着いた所で…生半可な存在じゃあ、魂ごと呑み込まれちまうからな…」
ヴィクトル
「更に言やぁ…S級クラスの魔獣が跋扈してるっつう話だ。死霊系が中心で、一番やべぇのは屍龍共だな。
中でも…煌龍と対を成す、《幽哭龍》は別格だ。だが、幽滓鉱を獲るなら…奴の寝床を越えなきゃならねぇ…」
アルセリオ
「最低でも、その二つを集めれるレベルの怪物って訳だろ?その上で、魔道具として定着させられる程の技量…マジで神か何かだろ…」
ドクル
「神では無いですけど、悪魔ではありますね。それも、創世記の頃から生きているらしいです。凄いですよね。」
シグルド
「もしかしてそいつぁ…ヴェレの奴……いや、"オルフィウム・ヴェレイン"の事か?」
深く考えたのち、シグルドがそう声に出す。その表情は、何処か懐かしむ様な顔であった…
ドクル
「よく分かりましたね…。そうです、そう言われていました。まぁ、僕に教えてくれたのは
"オーヴ"と言う名だけでしたがね。」
アルセリオ
「おいおい…オルフィウムって…あの《星鎚の詠人》って呼ばれてる、勇者レオニダスの仲間の事だよな!?」
ヴィクトル
「俺でも知ってるぜ!?その名前!!勇者パーティーの大黒柱にして、世界最高峰の鍛治師。
《霊滓の鍛冶神》の称号を与えられてる悪魔だ!!」
ドクル
「そう言えば、そんな事も言っていましたね。興味が無いので聞き流していましたが。」
そう言って、ドクルは無造作にかかっていた髪を耳にかけた。
ドクル(あたりを見回して)
「って、今気づきましたが…マックスさんは何処に?」
セレス
「そういえばぁ〜戦闘が終わった後に、あっちへ歩いて行ってたわねぇ〜〜」
(右手の方面を指差し、そう言う)
アルセリオ
「俺が追いかけてみる。皆んなは先に帰っててくれ。」
ヴィクトル
「了解!!ついでに、皇王様にも報告しとくぜ。」
アルセリオ
「ああ、任せた。」
そうして、アルセリオを残して…みな帰路に立つ。
アルセリオ
「さて……行くか。」
アルセリオは、とある一枚のカードに少し触れ、マックスの元へと向かった。
***
まだ抜け切らない暗闇で一人の男が、空を見上げて佇んでいる。
「……さっきから、そこに居る奴は誰だ?」
木の影から、一人の男が両手を上げながら出てくる。
アルセリオ
「俺だよ。……マックス。」
マックス
「ああ〜〜リオの旦那かぁ〜誰かと思ってヒヤヒヤしたぜ!!」
アルセリオ
「御託は良い…マックス、一つ…質問良いか?」
マックス
「おっ?良いぜ??なんでも言ってみろ!!」
アルセリオ
「それじゃあ…どうして最後まで戦いに参加してくれたんだ?」
マックス(首を傾げながら)
「…そんなの、仲間として当然だろ?」
アルセリオ
「そうだな…当然だ…。だが、それは"仲間だったら"の話だろ?なぁ……"道化師"。」
マックスは少し眉を動かしながら、笑みを浮かべて言葉を返す。
マックス
「何言ってんだ?その…道化…師?だったか?そもそもそんな奴、俺…知らねぇんだけど。」
アルセリオ
「とぼけるな。“このカード”…見覚えがあるはずだろ?」
アルセリオは懐から一枚の硬質な札を取り出した。紙ではなく、淡く輝く鉱石に刻まれた小さな符。
薄い蒼光を帯び、紋様が淡く脈打っている。
札の表面には、“零”の符号と、戯けた男が崖の縁で空を見上げている像が描かれていた。男の足元には、尻尾を振る白き獣。
その姿は、タロットカードの中で…
──"《愚者》"と呼ばれる一枚そのものだった。
マックスの表情はそれを見て…少し、真剣な顔をする。
「………。いつ……お気付きで?」
アルセリオ
「最初から…違和感は持ってた。ほら、お前が面接に来た時、
『魔窟からの掘り出し物だ!!』
とか言って、恍惚とした表情してたろ?そこがちっと引っかかってな。」
道化師
「なるほど……確かにあの時、眉を少し動かしていましたねぇ〜…。これはこれは…私の失態です。
…ですが、そんな怪しい人間を…なぜ、自らのパーティーに入れたのです…?」
アルセリオ
「確信が無かったのと…あとは、監視目的だな。お前が後ろを守ろうとした時、俺が最後尾に行くって言ったのもそう言う意味だ。」
アルセリオ
「セレスの護衛として、直接戦闘の機会を減らす。んで、後ろ側に回す事で何かをするチャンスをやる。あとは、それを後ろから俺が見る。」
アルセリオは続けて、遺跡探索を思い出しながら問う。
アルセリオ
「印を落としやがったり、レバーを勝手に降ろしやがったりよ…
その上、固定砲台を使い始めたり。
──まるで…何度も来た事がある様に、迷いが無かったよな?」
道化師
「えぇ…確かに、私はあの遺跡に何度も赴いた事があります。ですが…いつも最後の回廊から先へは進めなかったのですよ…阻まれているかの様にね。」
「ですので、探偵殿が遺跡の探索へ行くと聞いた時は…高揚しましたよ…貴方ならば、必ず先へと進めるという確信がありましたからね。」
アルセリオ
「そりゃあ随分と高く見てくれてるな?…テメェに一度負けた俺への皮肉か?」
道化師
「いえいえ…あの時は、私の準備が既に完成されている状態からの勝利ですから…勝ちとは言えませんよ。探偵殿?」
アルセリオ
「はっ!勝ちは勝ちだろ?…俺は負けた事に言い訳なんてする気は無ぇ…それでだ、
──そこまで執心する程…あの先にあった"記憶"が見たかったのか?」
道化師
「まさか……ただ、かの神秘学者であるヘリオス殿が言う、神域に続く道というものが気になっただけですよ。」
アルセリオ
(ヘリオス・マクレガー…?確か【マクレガーの手記】の著者だったか?)
「……そういうのに興味があんのか?案外ロマンチストなんだな?」
道化師
「神秘、それは我々男のロマンでしょう?
当然気になりますよ。」
アルセリオ
「ロマン…ねぇ……まぁ、それは置いといて…それ以外にもあんだろ?目的がよ。」
「これは俺の勘だが、テメェが盗み出した国宝…《夢詠のリング》についての話だろ?
ありゃ確か、何らかの物を媒体にする事で、過去・現在・未来の記憶を詠み取る事が出来る代物だったよな?」
道化師
「そうですそうです…!その通りでございますっ!!おかげで、騎士殿が"過去"を見ている間…私は"彼"を見ていました…」
「貴重な体験をする事が出来たので…今回は少し役に立ってみた…と言う訳です。」
──そう…道化師は不敵に笑う。
アルセリオ
「それで?ここからどうする?…俺としては…さっさと叩き潰したい気分だが?」
道化師
「残念ですが、それは叶いません。なにせ、そろそろ彼女が動く頃でしょうから…ほら、来ますよ。」
アルセリオ
「あっ?そりゃどういうこ………」
ドォォォォォォンッッッッ!!!!!!!
大地が突如として揺れ、三つの噴煙が上がる…同時多発的な噴火である。
アルセリオ
「マジかっ……!?」
道化師
「…一つ、見破った報酬として…ヒントを差し上げましょう…」
アルセリオ
「そりゃありがてぇ限りだな。ご高説賜るぜ?」
道化師
「早く、皇都へ帰る事をお勧めします……そうすれば、彼女と対峙出来るでしょう……」
アルセリオ(振り返って)
「何となく、まだ何かあるだろうと前々から思っていたが…想定以上に面倒な事になったな…」
(あのお願いを使う時が来たか…)
そうして…アルセリオは皇都へと走って行った…
道化師
「頑張って下さいねぇ…。」
「…っと、それにしても、ヘリオス、まさか貴方があのような姿形をしていたとは…」
すると、道化師の声色が低くなり、口調も多少荒くなる。
「これも運命……か。
…さて、残り13。中々長い道のりになりそうだ。」
道化師はそう、空を見上げながら消えていった…
戦場に静寂が満ち、仲間たちは束の間の安堵を得た。
だがその裏で“道化師”は静かに笑みを残し、異変はまだ終わりを見せない。
──次回、『燃え上がる炎』




