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第12話 残滓の抗い

焔が揺れ、煙が立ち込める戦場。

 へたり込んだマックスを一瞥したマルドュクの残滓は、ふと笑う。


「……久しぶりに、腹の底から笑ったな。悪くない気分だった」


アルセリオ(肩を竦めて)

「そりゃよかった。楽しんでくれたなら何よりだ。……まぁ、マックスは報われてないけどな」


マックス(小声で)

「聞こえてるぞ……」


マルドュクの残滓(ふと表情を引き締め)

「だが……ここから先は、そうもいかん。」


アルセリオ

「ああ。俺たちはおしゃべりの続きをしに来たわけじゃない。」


 沈黙が一瞬、…流れる。


──そして、


「ならば全力で殺しに来い、探偵クソガキ。」


アルセリオ

「おい、焔王クソッタレ。余裕ぶっこいてるとこ悪ぃが、"場"は整ったぜ?」


 焔の帳が揺らぎ、対峙する二つのコアが脈動を始める。そんな中、


「…………」


 焔の王の残滓は、しばし言葉を失っていた。

 否。正確には、身体の異常に気づき始めていたのだ。


「……なるほど。先程から感じていた些細な違和感の正体……貴様の陣か。」


アルセリオ

「察しがいいな。さすが、“かつて”の災厄だけはある。」


 アルセリオはにやりと笑い、杖を地に突き立てた。


ブゥンッ………


その瞬間、マルドュクの残滓を中心として──

 八芒星の魔術陣が、地を、空を、揺らすように現れる。


 そして、その頂点のうち四つが淡く、静かに輝く。


 アルセリオが、どこか楽しげに口を開いた。


アルセリオ

「……《四環フォーレ偽典アポクリファ》。

 俺のとっておきの必殺技しょけんごろしだ。ま、悪趣味な“偽典”ってとこだな。」


「四方に配置されているのは、こうだ。」


 指でひとつずつ、光る頂点をなぞるように示す。


「【知】:乙女座/ウィルゴ

 【虚】:カラス座/コルウス

 【静】:くじら座/セタス

 【断】:ろくぶんぎ座/セクスタンス」


「所謂…

 【知】を遮断し、判断を遅らせ…

 【虚】を呼び起こし、実在を曖昧にし…

 【静】を与えて、力の流動を鈍らせ…

 【断】を刻んで、循環を絶つ。」


「ってなもんだ。まぁ言葉にすりゃあそれだけの話さ。だが……」


 アルセリオの表情が一瞬、冷たい色を帯びる。


アルセリオ

「…今のテメェにとっちゃあ、致命的な“歪み”のはずだ。悪いが、一戦交える前から…俺たちの土俵レベルまで降りてもらう。」


マルドュクの残滓

「クハハッ!!中々面白い事を考えるな。その上…この術陣の完成度は、驚嘆に値する程の代物だ。」


アルセリオ

「お褒めいただきありがとう…。卑怯とは言うなよ?引っかかった奴が悪い。」


マルドュクの残滓

「いや…その様な事は思わぬわ。我とて、そういった事を何度もおこなって来ておるからな。

 むしろ、その気概は気に入った。」


アルセリオ

「そうかい…そりゃ良かった。」


 アルセリオは最後にもう一度、魔術陣の光を確認しながら呟いた。


アルセリオ

「さて……《偽典》は発動済みだ。

 ここから先は──“本編”といこうか。」


ドカーーーンッ!!!


 残滓の放つ焔弾が、アルセリオを幾度も襲う…だが、アルセリオは軽々と躱し続ける。


アルセリオ

「やっぱ鈍ってやがるな…!!

 デケェだけのハリボテ野朗っ!!!」


マルドュクの残滓

「安い挑発だな…だが確かに、鈍っている事は正しいな。それで?弁を立てるのは自由だが、貴様も我への有効打を持っていないだろう?」


「弱体化させたとて…倒せないのならば、それは徒労だ。どうするつもりかね?」


アルセリオ

「確かに俺じゃ倒せねぇ…まぁ"俺だけ"ならの話だが。」


ザシュッ!!!


 マルドュクの残滓の身体に、"傷"がつく。


レオナール

「すまない…アル。長らく待たせてしまった。この遅れは働きで取り戻そう。」


アルセリオ

「遅ぇじゃねえか…レオ。それと、親父も。」


シグルド

「おう!ちっと苦戦しちまってな。さて、おっさんも…もう一仕事頑張るぜ〜」


マックス

「おいおい、忘れてもらっちゃあ困るぜ?俺だってまだまだ戦えるってな!!」


アルセリオ

「生きてたのか…マックス。てっきり死んだのかと思って供養の準備までしてたんだが…」


マックス

「なんでだよ!?見てただろうがっ!!」


ドクル

「うるさいですよ。マックス君。…みなさん。僕たちも参戦させてもらいます。」


アルセリオ

「…あっちは良いのか?」


セリス

「フィーちゃんと皇王様がほとんど終わらせちゃってね〜〜暇になったからぁ〜こっちに来たのぉ〜〜」


アルセリオ

「おかしいな…残滓を殺らねぇ限り、無限に湧き出てくる筈だが…」


ドクル

「フィアリアさんが援護にまわって、皇王様が楽しそうに、湧いたそばから倒しています。」


アルセリオ

「いやマジでなんなんだよあの人…」


ヴィクトル

「待たせたなぁ兄弟!!これで全員揃ったな!」


アルセリオ

「それじゃあ…全員準備満タンの様だからよ。始めようか。」


マルドュクの残滓

「……貴様らは…ここからが総力戦と言った所か…面白い。

──ならば、我も《焔王ニセモノ》として、全力を持って応えよう。」


 全身から煙が立ち昇る。

 肉体は崩れかけ、魂の核までもが軋んでいる。


「理性は、もはや不要」

「……ただ、灼き尽くすのみだ──!!」


ドォォンッッ!!!


 咆哮と共に、身体が破裂する。

 だが、それは消滅ではなく──変貌の始まりだった。


  ***


焔の柱が天を裂く。

 その中心から、燃え上がる“骨の王”が歩み出る。骨格は焦熱の金属に変質し、赤黒い焔が纏わりつく。


 頭部には崩れた王冠と焼け焦げた角の名残があり、背中の残骸のような翼が、たまに火の粉と共に崩れる。


 両腕は異様に長く変形し、“引き裂く”ことに特化した形状をし、その身体の核にある灼熱のコアが、ゴウゴウと脈動を始める。


アルセリオ

「……あれが、残滓の成れの果てか……」


 彼は目を細めるが、一歩も退かない。


アルセリオ

「願った王の姿には届かずとも……これが“歪な帰結”ってわけだな。」


「──来いよ、《焔王の骸》。お前の“本懐”、見せてみろ」


焔王の骸

「我は……応えよう……最期の咆哮をもって……」

「骨を砕き……命を焼き……この魂を、灰に還そう……」


グゥラアアアアッッッッ!!!!!!


 その瞬間、あたり一帯の空間が変容する…大地は荒れ果て…果てしない焔が続く、上空に…焔の亡霊達が現れ、音が遠くなる感覚がした…。


 そこはまるで…かつての彼が経験した、終わりなき戦場の様だった。


  ***


大地を這う緋黒の焦土と、

空を覆う氷霜の天蓋。

焔王の咆哮と、ドクルの沈黙がぶつかり合い、

──世界は緋と蒼、二つの相反する色に引き裂かれた。


アルセリオ

「イカれた暑さだな…ドクルの霜環結界があってもこれかよ…」


ドクル

「むしろ、僕の結界があるからこそ…この程度で済んでるんですよ。

 まったく…維持するだけでも、かなり疲れますね。」


セレス(頭を撫でながら)

「凄いわねぇ〜〜ドー君。これだけの規模…普通の人ならすぐ死んじゃうわよぉ〜?」


ドクル(動じず)

「これでも…鍛錬はしてきましたからね。師匠に叩き込まれた基礎訓練のおかげで…恐ろしく効率が良いんですよ。

 まぁ、魔力量が普通の人よりも…遥かに多い事は、その通りですけどね。」


アルセリオ

「その師匠っての…どんな奴なんだ?俺は魔術が使えねぇから気になるんだよな。」


ドクル

「変な人でしたよ。でも、悪い人ではありませんでした。まぁ、今は何処にいるのか分かりませんが…。」


 彼は少し過去を懐かしむような顔をした。


ドクル

「そういえば、リオさんが使っているのは魔術では無く、失われた旧王朝期の術陣でしたね。確か…師匠も術陣それについては詳しかったはずです。」


アルセリオ

「そりゃあ、ぜひ会って話してみたいな。」


──そう…僅かに微笑む。


ヴィクトル

「にしたって…すげぇ持続力だよな。俺が見てきた魔導士の中でも…間違いなくトップクラスだぞ。」


ドクル

「褒めすぎですよ…調子に乗ってしまいます。」


マックス

「良いんじゃねぇのか?

  俺だったらガンガン自慢して回るぜ!!」


シュンッ……キィンッ!!!


 焔王の骸の横薙ぎが…マックス目掛けて放たれる。そして、その攻撃をシグルドが弾き、


シグルド

「お喋りはその辺にしときな。…やっこさん、そろそろ痺れ、切らしてんぜ?」


 荒々しい吐息と共に…焔が一層燃え上がる。


アルセリオ

「それもそうだな…親父。さて、レオが右。親父は左。ヴィクトルが正面から連携して攻めろ!!


「マックスはセレスの護衛。ドクルは結界維持をメインとして、出来るならば必要に応じて魔術での援護。セレスは治癒やバフを中心に援護を頼む。」


 その言葉に、各々が頷き、体制を整える。そして、


アルセリオ(術陣の中心で、右手を掲げながら)

「──聞け、《星々の理》。

 此処に刻むは、秩序の外に立つ反律の意志。」


 杖が共鳴し、地を這うように八方向へ陣が拡がっていく。空すら震えるように。


アルセリオ

「四象は既に揃った……ならば、残る環を、今、繋げよう。」


「《咎》はケンタウルス……罪を照らす炎を纏え。

 《秤》はリブラ……均衡を裁きの刃に変えよ。

 《封》はヒュドラ……混沌の奔流をねじ伏せろ。

 《終》はラケルタ……因果の螺旋に終止符を。」


 頭上に光輪が現れ、八つの星環が重なり合い、術式が完成していく。


「集え、

星律ステラー八環レギュルス》!」


「──我が陣に集う者すべてに、“強き星の加護みちびき”を!!」


ズガアアアァンッ!!!


 地と空に、八つの星光が瞬き、仲間たちの身体を光の奔流が包む。


ドクル

「これは…全身の回路が“研ぎ澄まされていく”感覚がしますね……!」


レオナール

「っ……ッ!身体が、軽い……!」


シグルド

「おいおい、これは反則じゃねぇのか? 背骨まで燃えてきたぜ……!」


ヴィクトル

「最高だな兄弟……まるで“戦うために生まれ直した”みてぇだ。」


マックス

「これ、どうやってんだ?魔術、使えねえんだろ?術陣って言ったって、規模がデカすぎだし。」


アルセリオ

「ああ、俺自身が魔力供給をしてるわけじゃねぇからな。"この陣の中心に居る奴"が動力源だ。」


セレス

「ひょっとしてぇ〜さっき遠くから見えたけど、最初に光ってた四つがその役割なのぉ〜?」


アルセリオ

「正解だ。【偽典】で"落とした分"の魔力を燃料として八環は起動する。

 今回の敵は魔力の塊…だからバフ量もかなりのもんになる。──だが。」


「持続は180秒。

 これ以上は、術陣が砕けるか…俺の命が持たねぇ。」


「……短期決戦で片をつける。

 テメェら!!

 上げてくぞっ!!!」


 その掛け声に、各々は声を張り上げて呼応する。

——だが、それは始まりに過ぎなかった。

焔王の骸が咆哮し、戦場はさらなる灼熱へと沈む。

再生と暴威を繰り返す“王の亡骸”に、仲間たちは矜持と力を合わせて挑む。

だが、その奮闘すら呑み込むように、焔はなお荒れ狂う。

七色の閃光が奔り、極光が空を裂く中、決着の刻は迫りつつあった。


──次回、『気高き骸』

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