第2話 異変
(王城を後にし、二人は“皇立庭園”と呼ばれる広大な植物園へと足を向けていた)
(霧が晴れ、徐々に陽光が差し込む中――無数の温室、手入れの行き届いた花壇、古代樹林のような一角が並ぶ)
アルセリオ
「……やっぱり、こりゃただの異変じゃなさそうだな。」
(庭園の空気は、どこか重く、澱んでいた。草木の香りに混じる、淡い腐臭。そして――)
レオナール
「アル、あれを。」
(視線の先には、色褪せたバラの群れ。赤黒く萎れた花弁に、触れるとパラパラと崩れて落ちる)
アルセリオ
「なるほど。まるで“内側から崩れてる”みてぇだ……」
???
「やはり、あなたがアルセリオ殿ですね?」
(やや高めの声。振り向けば、白衣を纏った女官が一人、控え目に立っていた)
???
「私、この庭園を管理しております《園芸審問官》のセリカと申します。本日はご足労いただき、誠に……」
アルセリオ
「いや、気にすんな。あんたが今回の依頼人で間違いないか?」
セリカ
「……ええ。恐れながら、陛下に“報告した”のも私です。」
(そう言って、彼女は深く頭を下げる。その仕草には緊張が滲んでいた)
アルセリオ
「なるほどな。まぁ、よろしく頼むよ。」
レオナール
「俺からも、よろしく頼む。」
(礼儀正しく一礼する)
アルセリオ
「それで?一つ一つ経緯を説明して欲しいんだが。良いか?」
セリカ
「はい!えっと…それについてなのですが…」
セリカ
「異変は…ちょうど4日前から始まりました。」
アルセリオ
「4日前…!?おいおい。たった4日でこんなにひでぇ事になってんのかよ…。」
セリカ
「はい…私共も、ひどく困惑していまして…」
レオナール「………。」
(レオナールがアルセリオ達の会話から抜け、辺りを散策し始める)
アルセリオ
「考えられる簡単な所とすりゃあ、"瘴気"だろうが…そんな単純だったら困っちゃあいねぇか。」
セリカ
「そうですね。我々もその線は最初に思い付き…検査機にて、確認したのですが…異常は見られませんでした。
あと、毒の線も疑いましたが…同様に成果は出ず…」
アルセリオ
「…瘴気でも無けりゃあ、毒でも無ぇ…。その上、動き出すだのと言う…いかにも何らかの能力の影響…って感じでも無ぇだろうしな。なんつーか、"予兆"って感じだ。」
セリカ
「確かに、何かが起こる前触れだとすると…少し恐ろしいです。」
(二人は、頭をフル回転させながら、原因を探っているが…)
レオナール
「なぁ…アル。ちょっと良いか?」
アルセリオ
「すまん。今考えてる最中でな。少し待っててくれ。」
レオナール
「ここ、何かあったかいなぁ…と。」
アルセリオ
「……んっ?あったかい…?……ちょっとみせてみろ。」
(そう言ってレオナールの方へと向かう)
アルセリオ
(何だ…これ?確かに、土が強い熱を持ってやがる…いくら温室とは言え…ここまで熱くなるか?)
アルセリオ
(いや…待てよ……?…今朝の水の変色…山から逃げ出して来ている様にも見える、魔獣の増加。小さな地割れ……。熱くなっている土壌。腐臭…植物が枯れる…)
アルセリオ(……っ!!そうか!!!)
アルセリオ
「おい…セリカ。確か…この国……いや、この辺りにいくつか、休火山があったよな?」
セリカ
「ええ……。確かに有りましたけど。貴方も言っている通り…何百年前には活火山だった様ですが、今は休火山になっておりますね。…それが何…か………っ!!」
アルセリオ
「気づいたか…。その通りだ。……妙なもんだ。花が枯れて、土が熱を持つ。“芽吹き”とは正反対の現象。つまり──」
レオナール
「んっ?どう言う事だ?」
アルセリオ
「間違いねぇ…噴火の予兆だよ…これは。」
レオナール
「噴火……それ、まずいんじゃ無いか?俺、やばい事見つけちまったか…?」
アルセリオ
「いや、大手柄だ…レオ。後で飯でも奢ってやるよ。」
セリカ
「それにしても…火山の噴火とは…災難ですね。」
アルセリオ
「そうだな…災難だ。だが、どうやら…それだけじゃねぇ様だぞ?」
セリカ
「どう言う事です?」
アルセリオ
「なに、すぐ分かるさ。」
(そうして、アルセリオはレオナールを連れ、その場を後にした)
***
ーー何処かの森で、二人の男女が会話をしている…
???
「これで三つ目……か。順調だな。」
???
「残りは、あと……四つ」
???
「ねぇハイド兄上…。そんなものを集めて、一体何をするの?」
ハイド
「じきに分かるさ。俺が欲する物は、かの者の力だからな。」
???
「ふぅ〜〜ん……じゃあ、気長に待っていようかなぁ…。それにしても、さっきの遺跡…暑かったね…。」
ハイド
「そうだな。まぁ、仕方が無いのだろう…ほら、次へ行くぞ…?アイダ。」
アイダ
「ねぇ…ジキル兄上はまだ寝ているの?」
ハイド
「ああ、ぐっすりとな。……まぁ、アレの“理性”はお呼びじゃない。」
アイダ
「うん。分かった。……じゃあ、また“夢の中”で遊んでくれるかな?」
ハイド
「アイダが呼べばきっと…な。」
(そうして二人?は次のポイントへと向かう)
(中腹に転がる死骸の群れ。
その奥には、誰も気づかぬうちに“印”が、一つ――解かれていた)
――そして、それは確かに「刻まれた」音を立てて、消え去っていく。
火山の胎動か、獣の咆哮か。
探偵が辿り着くのは――伝承か、現実か。
次回 《暗躍》