第7話 憤怒の化身
《憤怒》の雄叫びが大地を揺らす…その咆哮は、大陸全土へと響き渡り…各地の"ソレら"もまた…呼応する…
ーー聖都セレスティア、教皇庁にて
アニューゼ
「残滓とは言え…流石の存在感だな。」
???
「そうですねぇ…。まぁ、かの七大罪獣ですから。それと、教皇様…」
アニューゼ
「なんだい?カルロ枢機卿…」
メガネをクイっと上げ、カルロはアニューゼに物申す…
カルロ
「大変申し上げにくいのですが…」
アニューゼ
「どうして黙る…さっさと言いたまえ。」
カルロ
「はい、なぜ…少々露出が多いのでしょう…?…タブーであるはずなのですが……」
アニューゼ
「最近…暑いじゃないか。だから、少しくらい涼ませてくれても良いだろう?」
カルロ
「はぁ……分かりました…。見ていない事にしておきましょう。」
アニューゼ(微笑みながら)
「それで良いのです。それではついでに…政務の方も任せましたよ?…カルロ枢機卿。」
カルロ
「ダメです。…その様な、いかにも教皇らしい清純さを出しても、私は騙されませんからね?」
アニューゼ
「……わかったよ…カルロ。はぁ…面倒くさいなぁ〜〜。セレスを行かせなきゃ良かったなぁ。」
(頬を膨らませながら悪態をつくアニューゼなのであった。)
─────
玉座に座る異質な存在もまた、この気配に懐かしさを感じる。
???
「まさか…これほど早くそなたの気配を感じるとはな…」
スゥ……
???
「…そんなに懐かしいのならば、会いに行けば良いのでは無いか?」
???
「なんだ。ネリファーか。気配を消して急に現れないで欲しいと、何度言ったら分かる?」
ネリファー
「すまないが癖でね。それは出来ない。さて、これから皇国は少なからず被害を出すだろう。攻め入らなくとも良いのか?」
???
「深淵に魅入られし少女が居ると聞いた。ともすれば、矮小なる理に辿り着いたと宣う愚か者共も、その場に集まる可能性は捨てきれん。それに…」
ネリファー
「それに、なんだ?」
???
「…王は、《黒冠》も未だ無傷で待機中。まだ時期尚早だと言いたいのだろう。」
ネリファー
「ジャック……任務は終えたのか?思ったよりも早いじゃないか。」
???
「代弁してくれて感謝する。…して、共に任務を遂行していたゾルゲルトはどうした?」
ジャック
「あやつは今、自室でお昼寝中だ。」
ネリファー
「…まったく、マイペースな奴だ。もう少し緊張感を持って欲しいものだが…」
???
「はははっ、別に良いではないか。そういうものの方が、案外よい駒になるものだ。」
ネリファー
「それもそうか。……それにしても、ファルドゥーグはどうだった?接触したのだろう?ジャック。」
ジャック
「…未だ衰えずだよ。まぁ悪魔が故に、奴には衰えなど存在せぬようだが。」
ネリファー
「やはりか。奴は一体どうやって、古の結界による封印から逃れたのか…。大罪獣ですら成し得ない事であったというのに…」
???
「何か勘違いをしているようだな?ネリファー。あまりあの者達を舐めぬ方が良いぞ?…奴らは決して、結界から出られないのでは無い。出るメリットが無いだけよ。」
ネリファー
「メリットなど、必要とする知能があるのか?あのケダモノ共に。」
???
「そうか、其方は面識が無かったな。俺はかつて、奴らと友であった。奴らは、かの時代の記憶のほとんどを無くしているようだが、間違いなく今も尚、そこに意志は健在だ。」
???
「まぁ、奴らがみな、いつでも出れるというわけでは無い。出れるものは3人だけだ。それ以外は、他の悪魔、魔獣らと同じく、封印に甘んじている。
あの結界の強度は確かなものだ。その封印を逃れる事が出来たものは今にも過去にも4人のみ。そやつらが特別なだけで、大罪獣を持ってしても、結界を破り現界する事は叶わぬ。」
ジャック
「話は変わるが、とにかく、我々はこのまま監視を続けていれば良いのだな?王よ。」
???
「ああ、それで良い。だがバレそうになれば、折を見て撤退せよ。其方らは明るみに出る意味など無い。」
ジャック
「了解した。それでは、私も自室で一度休憩を取るとしよう。さらばだ。」
コツ…コツ…コツ……
ネリファー
「では、俺もお暇させてもらおうか。」
???
「分かった。好きにしたまえ。」
彼の姿が揺らぎ、一瞬にして消え去った。
???(天井を仰ぎながら)
「……これまで数えきれぬ程の、繁栄と衰退を見てきたが、此度はどう転ぶか…。実に見ものだ。」
(窓の外には、わずかに風に揺れる…共和国の旗があった。)
─────
隣国ルナヴィータの王都フィロソニアの王城にて、
アルヴレイド・ヴィ・ルナヴィータ
「これは…憤怒の目覚めか。嫌だねぇ……。
そう言えばラメリア、確か七大罪獣について研究してたな。あれって、倒せるもんかい?」
ラメリア・ヴィ・ルナヴィータ
「生き物である以上、不可能ではないけど……限りなく難しいわね。
……どう思う?アルマちゃん。」
《魂魄》アルマ・ガウディウム
「正直、まともに傷を与えられるかどうかも分かりませんね。」
アルヴレイド
「フェリカにオラクス、お前らは?」
《生》オラクス・ウィンター
「私も大体同じです。……ただ、持久戦に持ち込めば、必ず勝てますよ。まぁその場合、国の一つや二つは更地になっているでしょうが。」
《自然》フェリカ・シルヴェリス
「ウィンター様と同意見です。……でも、私は“焔”とは最悪の相性なので、お役には立てないかもしれません。」
《死》カルナ・タナストル
「俺は、この力をしっかり当てれば一撃だな。当たればの話だが。
ま、今回はフィーがいる。残滓程度なら問題ない。」
ラメリア
「あら?フィアリアさんが?珍しいわね……あの子、人付き合いが苦手そうに見えたけれど。」
《輪廻》セレネ・アルジュナ
「意外とそうでもないのよ〜?
話してみると結構ノリが良いわ、フィアリアちゃんも。ねぇ、カルナちゃん?いつも一緒にいるじゃない?」
カルナ
「まぁな。弁は立つ方だよ。よく怒られるしな、俺。」
オラクス
「フィアリア嬢も大変ですね……カルナ卿のようなお方が隣にいるのでは、心労も溜まるでしょう。」
アルヴレイド
「そういや……アルファイドは?またソアリスの所か?」
ラメリア
「いつもベッタリよ。あそこまでいくとちょっと気持ち悪いわね……」
アルマ
「小さいからって、変な目で見られるんですよ。ロリコンですよ、あの人。……あ、私はロリではないですが。」
アルヴレイド
「はは……我が弟ながらすまんな、アルマ君。あれで有能だからタチが悪いんだよな。」
アルヴレイド
「さて、…気張れよ。…ルド。」
─────
遥か地中、薄暗い会議室にて…十の影が写る…
ズゥゥゥン……
(わずかに地鳴りが響く。地下の壁に設置された魔導計測機が軋む)
???
「……上の方で何かあったな。魔力層に瞬間的な上昇、温度もプラス27.3度。」
???(目も合わせずに)
「それは誤認だ。アガレス。」
アガレス・ヴァレンタイン
「はぁ…また始まったか。」
アガレス
「実際の計測結果から…マルドュクが目覚めた事は事実であろう?」
???
「魔力の波形が変化したのは“事実”だが、だからといって“覚醒”とは限らない。
ほら、たとえば眠っている者が寝返りを打ったとして——それを起床とは呼ぶかい?」
アガレス
「……続けろ。」
???
「“事象”とは常に、観測者の意志に依存する。つまり、我々が“目覚めた”と思えば、それは目覚めなのだ。
だが、そうではないと“考え直せば”……」
???
「さっきから否定ばっかり…いい加減うるさいんだけど?アンエルン。」
アンエルン
「貴様こそ…肯定ばかりは如何なものかと思うが?フィアトレット。」
フィアトレット
「アンタよりは、まだ意味があるよ?この堅物な変人!!」
???
「まぁまぁ…喧嘩はよしなさい。不毛でしょ?」
???
「そうそう〜イルミナの言う通りさ。戯れるなら別でやってよねぇ。」
イルミナ
「あら?乗ってくれるのね。蒼くん。」
朝霧蒼
「アンエルンのやつがアホ過ぎてね〜〜何か言いたくなったのさ。」
(一拍置いて、筋骨隆々な男が続ける)
???
「ふむ……被害を抑える為に、俺が壁を築く必要があるか…?」
???
「その必要は無いさ…ゴルドー。ただの残滓だからね。それに…あの探偵が動いている上、《深淵》も協力しているから問題ないだろう。」
(そう、光る石板から声が聞こえた)
ゴルドー
「了解した。フィクス。ならば座して待とう。」
フィクス
「それがいい。」
???
「それで…ノアは何処にいるのだ?エイファ。」
エイファ・ヒューエル
「多分…また籠ってるんじゃない?ネクロ。」
ネクロ
「あの人は一体何に興味を持つのか…」
アガレス
「…アレは知り過ぎているからな。この世の大抵のことには興味が失せているのだろう。」
蒼
「ノアが動き出すぐらいってなると、それこそ世界の危機とかしか無いでしょ?なにせ、お得意の探究が出来なくなっちゃうし!」
(各々の意見が飛び交う)
──そこで、フィクスが収拾をつけようと切り出す。
フィクス
「とりあえず、僕たちの総意として…今回は不干渉という事で良いな?」
一同
「ああ。/そうね〜/おう!/うん。/ええ。」
……こうして、地下の“知恵の円卓”にて、パラノックスの十柱は静かに意思を交わした。
***
(視点は戻り、火山アールデンスにて――)
灼熱の大地に、黒き靄がうねる。
咆哮を終えた《残滓》が、ゆっくりとその体躯を動かす。
地を踏みしめるたび、岩がひび割れ、空気が震える。
その身は未だ不完全で、まるで夢の中の幻影のように輪郭が揺らいでいる。
だがその存在だけで、周囲の瘴気は濃密さを増し、命あるものを拒む。
――ゴォ…ッ。
それは、灼熱の呼気を吐き出すように、低く、深く、唸った。
熱波が地を走り、焦げた鳥たちが空から降り、獣たちは火山の外縁へと命からがら逃げ去っていく。
その光景を、残滓はじっと見つめていた。
そして、カク…と首を傾けると、口元を吊り上げた。
まるで――笑っているかのように。
その表情に、喜びも怒りもない。ただ、破壊と恐怖がこの地に広がっていく様を、“眺めている”だけだった。
咆哮の余韻が、まだ大地を震わせていた。
熱は地を這い、街を歪ませ、
誰もが知らぬうちに――“それ”は、地上へと手を伸ばしていた。
炎は芽吹き、瘴気は形を成す。
――そして、憤怒は“動き”出す。
それが、ただの残滓であったとしても。
次回、第8話『憤怒の胎動』




