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第1話 小さな変化

 一章は「上巻・中巻・下巻」の三段構成で分けています。これはその上巻の第1話ですね!

 文字数は話によってけっこう変動すると思うので、そのへんはご容赦を。言葉回しもところどころ変かもしれませんが、まだ10代なので多めに見てやってください。(それが何やねん、って感じですけど笑)


 あと、この話からは後書きに「次回予告」を短く入れていこうと思います。そっちもぜひ楽しみにしてもらえたら嬉しいです!

【上巻:調査と印の目覚め】


──早朝の皇都。街はまだ霧に沈み、人々の気配は遠い。

 だが一軒だけ、幻灯探偵社の窓に、柔らかな灯りがともる。


トン、トン、トン……

 扉を叩く音が、やけにリズミカルだった。


ルリ

「アル兄ー!朝だよ。朝ごはんですよー!」


 声変わりの気配もない、鈴のような高い声。

 そして、二回叩いて一拍。三回叩いて二拍。……たぶん、本人は“起床の儀”でもやってるつもりなんだろう。


アルセリオ

「……うるせぇ、あと五分……」


 アルセリオは枕に顔を埋めたまま、呻くように返した。


ルリ

「五分はダメです!ルリ先生、お腹が空きすぎて倒れちゃいます!」


アルセリオ

「なんでお前が先生なんだよ……」


ルリ

「今日はルリが先輩なんですー!」


 わけのわからん理屈に、寝ぼけた脳みそは一切反論できない。

 仕方なく毛布をめくって起き上がると、窓の向こうには少し赤みがかった朝日が昇っていた。


アルセリオ

「はぁ…しんど。」


(彼はゆっくりと起き上がり…下へと階段を降りていく)


  ***


(ゆっくりと椅子に座りながら…喉を潤すために水を飲む)


ゴクゴク…


アルセリオ(んっ?少し…変だな。)


 いつも通りのはずの水から…言われなければ分からないほど、僅かに酸味が漂う。

──そして、少し変色している様にも見える


シグルド

「よぅ。やっぱり…その水、ちーとおかしいよな?」


レオナール

「俺も違和感を持った…。腹を下す程では無いんだが…」


ルリ

「ルリも思った!やっぱり変だよねー?」


アルセリオ

「はぁ…朝っぱらから仕事の匂いだ…」


カランカラン…


(幻灯探偵社の扉がゆっくりと開かれる)


臆病な文官

「あの…探偵社の方々…皇王ルドヴィクス様からの…直々の召喚命令です。」


アルセリオ

「ほら来た。」


レオナール

「噂をすれば……なんだったか…」


(レオナールはど忘れする…)


シグルド

「噂をすれば影がさす…だな。」


アルセリオ

「なんでそこだけ覚えてねぇんだよ…略で言ったら、"なん"まで出てるじゃねぇか!」


ルリ

「はいはい。お兄ちゃん達!文官さんが困ってるよ!!」


(ルリの頬がぷくーっと膨らむ)


アルセリオ

「ああ…すまねぇルリ。…レオ…支度しろ。どうせ暇だし、すぐ行くぞ。」


レオナール

「分かった。……そういえば、準備する程の物が無いな。この服も常に着ているし。」


シグルド

「そういやぁ、年がら年中…クソ熱そうな服着てるよな。そろそろ死ぬんじゃねぇか?」


レオナール

「問題無い。俺はこれでも魔人種だ。故に、そういった耐性は万全だな。」


(レオナールは誇らしげに言う)


シグルド

「……そういう考えが、足元を掬う事もあると思うぜ?まぁ…気をつけろよ。」


 シグルドはそう…苦言を呈す。


レオナール

「……?…了解した。覚えておこう。」


(いつもよりしっかりとした服を着て、アルセリオが階段を降りて来る)


アルセリオ

「ふぅ…レオはそれで良いらしいし、俺の準備も今終わったし、さっさと行くか。」


アルセリオ

「それじゃあ…親父。ちょっと行って来るわ!」


レオナール

「それでは、親父殿…失礼する。」


シグルド

「おう!しっかりやって来い…」


(そうして、二人は探偵社を後にする)


  ***


トン…トン…(歩く音)


(二人は…王の執務室前まで来ていた….)


(豪華な装飾、圧倒される程の広さ。そして目の前には、荘厳な扉が佇んでいる)


アルセリオ

「王城に来るのはこれが2度目だな。まぁ…国は違うが。」


レオナール

「来た事があるのか…凄いな、アルは。」


アルセリオ

「なに。周りの奴らが凄ぇだけだったさ。」


コンコンコン……


宰相

「皇王様…探偵社の方々がお見えです。」


ルドヴィクス「入れ。」


(そう…淡々とした声が聞こえる)


宰相

「探偵社の皆様…非公式の場とは言え、細心の注意を払ってお話下さい。」


(二人は無言で頷く)


ガチャッ…


 執務室の扉を開けると…地図や軍略書、古代語の魔導書が並ぶ、大きな本棚が目に入る。


 壁には使い古された剣が飾られており、窓から指す光に、王の影が伸びていた。


 ペラペラと静かに書類をめくりながら…香の煙がゆっくりと上がる中で、ふと…その顔を上げながら…


ルドヴィクス

「適当な所に腰を掛けろ。話はそこからだ…」


(二人は隣同士で椅子に座る)


 遅れて…ルドヴィクスもその対面に腰を据え、話をし始める。


ルドヴィクス

「さて…幻灯探偵社。お前たちを信じてみる価値があるか、見せてもらおうか。」


(すると、空気が一瞬にして重くなる)


アルセリオ

「・・・それで?どんなご用件ですか?

ルドヴィクス王。」


ルドヴィクス

「ふむ…屈さぬか。まずは及第点だな。」


ルドヴィクス

「早速、話を進めさせてもらうが、今回の要件について…俺自身ではなく、"皇立庭園"の役人からの依頼があってな。

──それ故ご足労いただいた。」


アルセリオ

「なるほど…やはり、植物関係ですか?」


(ルドヴィクスが頷きながら言う)


ルドヴィクス

「ふむ。良く分かったな…その通りだ。そなたも感じたのでは無いか?今朝の水の異変を。」


アルセリオ

「ええ。感じました。ほんの僅かな変化でしたが。」


ルドヴィクス

「やはり感じたか……まったく…厄介だな。…それと、敬語は使わんで良い。ここは非公式の場であるからな。」


アルセリオ

「……分かった。それで?

俺たちに何を"見て"欲しい?」


(アルセリオの纏う雰囲気が変わる)


ルドヴィクス

「クハハ…!実に久方ぶりな感覚だ。実に良い。…ああ、本題だな。そちらの相棒殿が眠らない内に、済ませておくとしよう。」


(うとうとしていたレオナールが、はっ!っと目を覚ました。)


アルセリオ

「良く寝れるな…レオ。図太いっつうか、何つうか…」


ルドヴィクス

「その胆力は良く働くだろう。昔、戦場に身を置いていた者としての経験則だ。」


ルドヴィクス

「さて、事の経緯を話すとしよう。」


(そう言うと、彼は粛々と話し始めた)


ルドヴィクス

「つい、数日前の事だ。皇立庭園の役人から、花などの植物が変色していると報告があってな?…更に今日は、少しずつ枯れてきていると…妙な話だろう?


 それに、休火山アールデンスで、魔獣たちが麓まで降りてきているらしい…そのせいで近場の港町ベルナーク港では、街道や海道の全面封鎖という事態にまで陥っている。それと、小さな地割れもあったな」


アルセリオ

「明らかな異変…だな。だが、俺ら(探偵)を呼んだって事は、それだけじゃあ無いんだろ?」


ルドヴィクス

「ふむ。そなたの疑問は正しい。これは、ただの植物被害では無い。裏に、何者かの陰謀が見える。そなたらの専売特許であろう?」


アルセリオ

「その通りだな。それで?その陰謀っての、何処まで分かっていやがる?」


ルドヴィクス

「ああ。《彷徨う者達ドミネクリプス》関連と見て良い。奴らが動いたのだ。」


アルセリオ

「……!?…まじか。そりゃあ面倒だな。」


(レオナールが唐突に大声を出す)


レオナール

「ドミネ……ドミ…ドミネクリプス!?」


アルセリオ

「叫ぶなら噛むなよ…ってか、聞いてました感出すんじゃねぇ。」


レオナール

「なんだと!?俺はしっかりと聞いていたぞ!!」


アルセリオ

「それなら、何だよそのよだれは…」


(咄嗟によだれを拭き、向き直る)


レオナール

「何を言っているんだ?よだれなど、最初から付いていないさ。」


アルセリオ

「………じゃあ、俺らがさっきまで、何の話してたか説明できるか?」


レオナール

「…………ハハッ。」


──彼は気まずそうに笑う。


アルセリオ

「ハハッ。……っじゃねぇよ!!やっぱ聞いてねぇじゃねぇか!!

 レオナール君の付けてる、その耳はお飾りですかっ!?あぁん??」


(アルセリオが席から立ち上がり、レオナールにメンチを切る)


レオナール

「………ふふっ。」


──しかし彼は動じない。


アルセリオ

「お前…それで乗り切れると思ってんだろ〜?だが残念!!現実は非常なのである!!」


レオナール

「アルっ!?痛い…そこ痛いってっ!!!」


アルセリオ

「はっはぁ〜〜!!」


(アルセリオがレオナールの体をあちこち、優しく叩き始める)


ルドヴィクス

「コホン…俺は一体、何を見せられているのかね?探偵方?」


アルセリオ&レオナール

「すんませんでした。」


(二人揃ってしょんぼりする)


ルドヴィクス

「ふっ……ふはははは!!いや…良い、良いさ。中々笑わせて貰った。気にするな。」


(少しだけ目元の皺が深くなる。威厳を纏ったその横顔に、わずかな人間味が宿る)


ルドヴィクス

「……まったく。貴様らは、どうしてこうも"普通ではいられぬ"のか…」


アルセリオ

「ふんっ!普通じゃ、面白くねぇだろ?これくらいが丁度いいさ。なあ、レオ。」


レオナール

「ああ、その方が…人生、鮮やかに彩れるというものだ。アル。」


ルドヴィクス

「同感だ。俺もその方が愉快で好きだ。」


アルセリオ

「さて、そろそろお暇させてもらうぜ?依頼についての調査もある事だしな。」


ルドヴィクス

「ああ。そうしてくれ。それと、」


ルドヴィクス

「……君たちなら、この迷いを断てると信じている。」


アルセリオ

「期待されるのは慣れてるが……今のは、ちと重てぇな。」


(そう言いながら、アルセリオは立ち上がる。レオも続いて、)


レオナール

「だが…悪くない。」


(執務室の扉が音を立てて閉まる)


(朝霧に沈む王城。その中を、二人の影が静かに伸びていく)

枯れゆく庭園、漂う腐臭。

その正体は――災厄の予兆か。


次回、第2話 「異変」


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