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夏休み

夏休みに入った。


 七月の中旬から九月の初旬まであるなんて、驚いた。

 こんなに長いし、何するんだろう。

 ちょっと増えた図書館のバイトの隙間時間にそんなことを考えながら居たら、先輩から良いことを教えてもらった。

 夏休みには色々なセミナーがあって、そこに参加してはどうか、と、図書館の掲示板に貼ってあるポスターを見て教えてくれた。

 凄く面白そうなものから、こういうのもあるんだ、なんて思うものまで色々ある。スカイやエリオ、朝陽を誘ってみようかな。

 

 セミナーに行ったっていう話を有栖川先輩にしたら、じゃあ次は講座に行って資格だね、と言われて数日で取れる資格にもチャレンジした。もちろん三人は巻き込もう。

 この勢いでエリオは合宿免許に行っていた。ちゃんと起きれたんだろうか。

 


 充実した夏休みを過ごしているが、もちろん子ども食堂にも通っている。夏休みだから時間もあるし、少しでも手伝えたらと思って手伝ってたら、母も嬉しそうだし、オーナーも他の従業員さんも嬉しそうで、本当に良かった。

 夏休みが子供たちと被ると、子供たちは宿題を沢山抱えて食堂に持って来ていた。こんなに多かったか?今の子は凄いな……。

 少しでも力になろうと思って、宿題でわからない所を教えていると、中学二年の男の子が、僕の脇を突いた。

「ねえ、律兄、僕のも教えて。」

「もちろん、いいよ!」

 なんだか先生になれた感じがして嬉しいな。


 ある日、オーナーが夏休みの思い出を作ろう、と言い出した。

「流しそうめんしよう!」

「まあ!いいわね!」

 母はイベント事が大好きで大興奮していた。

 お喋りな母は嬉しさのあまり、来てくれるご老人たちに話していて、近くに住んでるおじいさんが元大工で協力してくれたり、畑を持ってるおばあさんが野菜を持って来てくれたり、いろんな人が協力してくれたお陰で規模が少しでかくなった。子供たちの親も来てくれて、本当に子供たちが嬉しそうで本当に良かった。

「えっ、ミニトマト流れてるんだけど!」

「無理無理無理!掴めないよ〜」

 みんなが楽しそうで僕も楽しかった。


 夏休みももう少しだなって時に、僕はある企画をした。それは、『みんなでポスターを描こうの日』だ。

 小学生から中学生まで共通してある課題で後回しにしがちなポスター描きをみんなでやれば終わるんじゃないか?っていうのと、絵が苦手な子や家庭によっては絵の道具がない子も居る。そんな子が悲しまない為にも、食堂でみんなで楽しく描いて欲しいし、道具は貸し出しをして、気兼ねなく使って欲しいっていう狙いもある。

 当日。いろんな子が参加してくれた。

 夏休みの課題のポスターを描く子も居れば、もう終わらせて好きな絵を描く子も、自由研究として絵を描く子も居た。

 持って来た道具も食堂にある道具も使って楽しそうに伸び伸びと描いている。

「律にぃも描いてぇ」

 心愛ちゃんに言われて、僕もポスターを描くことになった。楽しい。

「律兄、おれ、絵苦手なんだよね」

「そうなの?よく描けてるけどな」

 この間宿題を見てから仲良くなった中学二年生の男の子が下書きで躓いてた。

 課題の環境問題のポスターを描いているみたいで動物を描いてる。ちょっとバランスが崩れていて、たぶん描きづらくなって来てるんだと思う。

「ちょっと教えてくれない?」

「いいよ。……ここをもっと丸くしたらバランス良くなると思うよ」

「ほんとだ、ありがとう」

 目に見えて鉛筆の進みが速くなったから、自分でも納得したんだろうな。良かった。

「律兄は絵描くの上手だね」

「ありがとう」

 僕の手元を見ながら褒めてくれた。

「おれはずっと苦手だからいいなー」

「僕は得意って訳じゃないからなあ。上手く描ける詐欺してるんだ」

「なにそれ?」

「ふふふ。僕は描けるって成りきるんだ。」

「うん?」

「大きく描いて、細かいとこは適当に埋める。あとはまっすぐ自信満々に線を描く。自信満々に描かないと線に出るからね。」

「なにそれ?」

「それっぽく描くってのが大事ってこと」

「へえ……そんなんでいいんだ」

「そうだよ。自信満々にそれっぽく描くとそれっぽくなる。」

「おれもやってみる」

 って言って、また鉛筆を走らせていった。

 伝わったならいいな。

「見て、変わった?」

 描き終わって見せてくれた。

「凄くいいね!」

 肩を揺らしながら、鼻を掻いてた。


 周りの様子を見つつ、自分のポスターを仕上げていると、ポスターを両手に持った心愛ちゃんがやって来た。

「律にぃ、見てー!わたしじょうず!」

 渡してくれたポスターを両手で広げて見る。

「わあ、上手だ!」

 多分この間したそうめん流しの様子だ。緑の棒が紙の真ん中にある。

「この前のそうめん流しの時の絵だね」

「うん!たのしかったよねぇ」

「この絵からも楽しかったのが伝わるよ」

「えへへー」

 尻尾がブンブン振られて、蜂みたいになってる。可愛いね。

「律にぃ、わたしのもみてー」

「ぼくもー」

 子供たちが次々と寄って来て、小さな輪が出来た。

 すると、様子を見てたオーナーが助けてくれた。

「みんなで並べて、一緒に見よう!」

 鶴の一声とはこの事だな。

 壁に色とりどりの絵が並んだ。

 皆んな眺めながらお互いの絵を褒めている。

「皆んな上手だね、律くんが皆んなを見てくれたお陰だね。」

 オーナーが満足そうに笑いながら言った。

「いえ、僕はなにも……」

「いつも助かってるよ、ありがとう。」

 肩を叩きながら、そう言った。

 こんな楽しい時間がずっと続けばいいのにな。

「またやりたい!」

 子供たちは無邪気に笑いながら言った。

「うん、またやろうね」

 口角が自然に上がった感じがした。

 夏休みが終わった。

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