授業開始
月曜日。
今日から授業が始まる。余裕を持って大学に来たけど、不安だ。金曜日に指定されていた講堂に朝陽と一緒に向かうともうスカイもエリオも来ていた。
席順はコースも名前もバラバラみたいだな。
「おはようございます」
「おはよう」
「お、早いな。おはよう」
「……はよ」
スカイは元気そうだけどエリオは半分くらい寝てないか?机に段々と頭が降りていく。
「エリオ君は朝弱いんですか?」
「ああ、そうなんだよ。だから早めに来てんだ」
スカイはそう答えながらエリオの肩を掴んで揺さぶった。頭がグラグラと揺れてる。
「起きろー」
朝陽も透も朝強くてこんなに眠そうな人初めて見たかも。大変そうだな。
「……ん、ああ……起きてる……」
エリオはうっすら目を開けて、また閉じた。ほんとに起きてるのか怪しい。
「だめだこりゃ」
スカイが苦笑する。
「エリオは面白いな」
興味深そうに朝陽が見てる。そうだね、わかるよ。
「朝陽も一緒なんだな」
「ああ。午後からは違うみたい」
「基礎ゼミですよね」
また一緒に授業を受けれるのは嬉しいけど、バラバラになって行くんだな。大学って寂しいな。
「俺達の担任はあのノヴァ先生だぜ」
「えっそうなのか!いいなあ」
スカイが朝陽に嬉しそうに伝える。
ノヴァ先生。この前教員紹介の時に絶大なインパクトがあった先生だ。名前は確か、オスカー・ノヴァ先生だ。授業は午後からある基礎ゼミと基礎共通語が担当だったはず。
朝陽がいいなあって言ってるのは、教授の見た目が変わっているからだと思う。
光系異星人で整った顔もしてるし目は虹色だったしね。
この前学生証貰った時、凄く緊張したなあ。
そんなことを喋っていると時間が迫って来た。
講堂の前後の扉にカードリーダーがある。電気が付いて、チラホラと集まっていた生徒たちが学生証を翳しに行く。
「あ、俺たちも行こうぜ」
スカイはすぐに学生証だけを持って立ち上がった。
「そうですね、行きましょう」
僕と朝陽もスカイに続いた。
エリオはまだ来てない。寝てるな。
翳し終わったスカイがエリオの肩を掴み立ち上がらせた。浮いたぞ。
無事に翳しに行き、しっかり起きた様だ。
「おはよう」
背筋が伸びていて、まるで別人だ。
朝陽はすごく笑ってる。ツボに入ってる。
あ、先生が入って来た。
一限目が始まった。
無事に授業が終わり、昼休みになった。
「腹減ったー」
スカイが伸びをしながら立ち上がった。
「今日も食堂か」
エリオがそう尋ねる。今日もお弁当持って来たのかな。
「みんなで行こうぜ」
四人で食堂に向かった。
エリオはお弁当を持って来てた。この前もお弁当と定食を食べていて、今日もいっぱい食べてた。大食いなんだなあ。
朝陽は楽しそうにエリオを見てた。
「じゃ、俺棟が別だから」
「はい、また。」
朝陽とは食堂を出てすぐ離れて行った。
午後からはコースで分かれて基礎ゼミの時間だ。ノヴァ先生の授業が始まる。
「こんにちは。改めて自己紹介をします。私はオリバー・ノヴァです。先生でも教授でもオリバーでも好きに呼んでください。」
そっか、大学だもんね、教授って呼んだりするよね。どっちが良いんだろう。
淡々と説明が続き時間はあっという間に過ぎて行った。
「終わったー!」
スカイはそう言って鞄から飲み物を出して飲んでいる。
「俺とスカイはこれからサークル棟に行くけど律はどうする?」
エリオがそう言って鞄に荷物を詰め込んでいた僕に尋ねて来た。
「エリオ君サークル入るんですか?」
「ああ。異星人吹奏楽部があるらしくて気が変わった。」
「そうなんですね、よかったですね。すみません、僕は行かないです。」
「わかった。また明日。」
三人で棟を出て手を振って別れた。
駅に向かおうかと思ったけど、思ったよりも疲れてないし、図書館でも見に行こうかな。施設紹介で説明されてて、気になる。やっぱり行こう。
少し歩くと大きい図書館が出て来た。大きくて何より趣のあって綺麗だ。中に入ると学生証を翳して入るみたいで、外観との違いで驚いた。
五階建ての建物みたいでパソコン室もある。ここで授業を受けたり、課題を勉強しにきてもいい勉強室もある。エレベーターもあって、どこかの階からポーンっと音がする。広いな。本も借りれるので試しに借りてみようかな。
大きな本棚や中くらいの本棚が綺麗に並ぶ中に落ち着いた色味の机と椅子。本の匂いと木の匂いがして凄く落ち着く空間が出来上がっている。カーペットは落ち着いた深緑色をして足音が全然鳴らない。僕はきっと通うだろうな。本棚を見ていると大学に在籍している教授達の本を纏めてある棚があった。シラバスに載ってない本もある。こういうコーナーが出来ているとは、凄いな。授業に関係ありそうな本も纏めてある。凄く丁寧だ。今度受ける授業の教科書じゃない本がある。これ読んでみよう。
カウンターに向かうと先輩学生が受付をしていた。その後ろに気になるポスターを見つけた。受付をしながらポスターに気が逸れていたら、「まだ学生スタッフ募集してるよ」と借りた本と一緒にパンフレットを渡された。
「ありがとうございます」
図書館学生スタッフか、そう言えば基礎ゼミでも説明があったな。学業と両立しやすいと紹介されてた。
僕はいずれバイトはしないといけないと思っていたし、良いきっかけかも。
「あの……申し込みたいです。」
受付の先輩は驚いた表情をした後すぐに嬉しそう笑顔で案内してくれた。
「隣の席で職員さんとお話ししてね。すぐ連れてくるよ、待っててね。」
そして、奥から優しそうな中年の男性職員が出て来た。
「こんにちは。こちらにどうぞ、椅子に掛けて下さい。」
木製の椅子に座った。
職員さんに応募用紙を渡されて希望の曜日や時間帯、授業との兼ね合いを一緒に確認してくれた。
「高校までは図書委員とかやってたのかな?」
「いえ、やってないんですけど……本は好きです。」
「うんうん、それが一番だよ。初回勤務は、来週の水曜日でどうかな?」
「……はい、お願いします。」
ほっとした気持ちと、少しの緊張がじんわり混じっていた。
思ったよりもあっさりと決まってしまって拍子抜けしてしまった。
図書館を出ると、外はもう暗くなっていて、街灯が灯り始めている。
夕食後。
僕は透からポポンを受け取った。既読を付けるとすぐにビデオ通話が掛かってきた。
「よう!どうだった!友達できたか?」
「まあまあですよ」
「そうか!」
目を細めて嬉しそうな顔をしている。
「バイト始めようと思います。」
「なにするんだ?」
「図書館のスタッフです。」
透は目をカッと見開いた。でかいな。
「なんだと!めっちゃいいじゃないか!」
「はい。来週から入る予定です。」
「もうそこまで決めたのか!早いな!頑張れよ!」
「はい、ありがとうございます。」
透を驚かせることができて嬉しい。
「透は何かする予定があるんですか?」
「ふふん!よくぞ聞いてくれた!私は理系に相応しいバイトを見つけたぞ!」
テンションがいつも以上に上がっているなあ。
「それはよかったですね!どんなバイトですか?」
「内緒だ!」
「そんなあ、教えてくれないんですかぁ」
「ううう……内緒だ!そんな目で見るな!」
そんな目ってどんな目ですか。普通に見てるだけなのに。けど、意思は固いみたいで教えてくれなそうだ。
「仕方ないですね、頑張ってください。」
「おう!ありがとう!」
通話を終えた。