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子ども食堂

土曜日。

 僕は、昔からよく手伝いに行ってる子ども食堂に向かう。

 午前中に家で趣味のお菓子作りをして午後。お菓子はいい感じに出来たから喜んでくれるといいな。

 扉を開けると母が出てきた。

「あっ丁度良いところに!来て!」

 引っ張られた先にあったのは無惨にも壊されたテーブル。そうだよな、老朽化凄いもんな。

 その隣には、顔を真っ赤にさせて泣いてる心愛ちゃんがいた。

 周りのお友達が心配そうに見ている。

 テーブルを片付けないと心愛ちゃんに近づけない。

「掃除用具取ってくるから、見てて!」

 母はそう言って出て行った。

「こんにちは、みんな。もう大丈夫だから、もうちょっと待ってね」

 こう言うしかない。破片を寄せながら笑顔で近づく。

「律にぃ……ごめんなさい……」

 地球で言うトイプードルの様な獣人系異星人のハーフの心愛ちゃんは垂れた耳をもっと垂れませて尻尾が内側に入ってた。見る限りどこか痛そうな感じはないけど聞かないと。

「心愛ちゃん、どこか痛いとこない?」

「……ないよぉ、テーブルがいたいいたいなの」

 手を伸ばして抱きついて来た。背中を撫でながら、抱き抱える。

 テーブルの残骸から離れたとこにいる他のお友達の元に運んだ。

「心愛ちゃん大丈夫?」

 彼女は獣人系異星人ハーフだが獣人が強く出ていて獣顔だ。そんな彼女の表情が一瞬でわかるくらい心配そうな顔をしている。

「うん……」

 獣人系異星人は総じて身体が強い。身体が小さくても強くて、こうやってよく物を壊してしまう。怪我が無くて良かった。

 母が帰って来た。その後ろからオーナーが来ていた。

「ごめんよお、ありがとねえ、」

 オーナーと母は素早くテーブルを片付けて、新しいテーブルを運んで来た。

 新しいテーブルが運ばれて、少しほっとした空気が戻ってくる。

 心愛ちゃんも落ち着いたのか、僕のシャツの裾を握ったまま、そろそろと周りを見た。

「……もう壊れない?」

「大丈夫、もう壊れないよ。強いテーブルに替わったから」

「ほんと……?」

「ほんと。次は心愛ちゃんが元気に座れるやつだよ」

 ぽつりと安心したように息を吐く。

 こういうとき、自分の手が少しでも役に立つなら嬉しい。

 ああ、ここが好きだ。

 持って来ていた手作りお菓子を配る。子供たちは次第に笑顔になって来た。

「律にぃ、これおいしいねぇ」

 良かった。

 母が飲み物を配る。新しいテーブルでおやつが終わると次は遊びの時間だ。

 暫くすると玄関のベルが鳴った。母が対応に向かった。

「あら、おばあちゃん、いらっしゃい」

 近所のおばあちゃんがやってきた。

 うさぎのラビちゃんの飼い主でもあった。

 時々子ども食堂にラビちゃんを連れて来ていて、子どもたちに大人気だった。

「いやぁ、一人で居ると寂しくてねぇ」

 ふわっとした笑顔だけど、目元は赤い。

「律にぃ、ラビちゃん、天国いったんだよね」

「そうだね。……きっとふわふわの雲の上で寝てると思うよ」

子どもたちが「ラビちゃん好きだった」「触ったことある」「優しかったね」と思い出を口々に言い出す。

おばあちゃんは「ありがとうねぇ…みんな優しいねぇ」と少し泣いてしまう。

僕も胸がぎゅっとなる。

 おばあちゃんが持って来てくれたお手玉をしながら子どもたちは次第に元気になった。


 帰り際にオーナーから呼び止められた。

「律君、遅れちゃったけど入学おめでとう。」

「ありがとうございます」

 オーナーこと山岸恵子さんは元保育士でその繋がりで母と友人だ。カワウソっぽい獣系異星人で暖かくて面倒見の良い素敵な女性だ。地域の獣人や保護者からの信頼も厚く、 地域の獣人や保護者からの信頼も厚く、僕も子どもの頃からお世話になってきた。

 子ども食堂に通ってくる親子にはいろんな事情があって、ここはただお腹を満たすだけじゃない。大人も子どもも、寂しいときに集まれる場所だ。

 ――だから僕も、この場所を守りたいと思っている。


「大学、大変そう?」

「まだ慣れませんけど……新しい友達もできました。少しずつ慣れていけたらいいなって」

「そうかそうか。律君なら大丈夫よ」

 恵子さんはにこっと笑って僕の肩を叩いた。その手は小さくて、でもあったかい。

「それに、何かあったらここがあるしね」

「……はい」

 その一言だけで、胸の奥が少し軽くなる。


 外に出ると、春の夕方の風が頬に当たった。

 子どもたちの声がまだ中から聞こえる。

 ラビちゃんのいない春は、少しだけ静かだ。

 でも、寂しさも悲しさも、この場所に置いて帰れる気がした。

「律、私買い物して帰るけど来る?」

 母が隣に来た。車の鍵をぶらぶらさせながら、もうパートは終わりの時間みたいだ。

「今日スクーターで来たし、ガソリン入れにいくよ」

「そっか、気をつけて帰るのよ」

 母はそう言って、車に向かう。

 小さい頃は、毎週この車でどこかに連れて行ってもらった。

 今はもう、みんなそれぞれの帰り道がある。

 僕もヘルメットをかぶってスクーターに跨る。

アクセルを少し回すと、夕方の風がまた頬を撫でた。


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