新しい
次の日。
まあまあ寝れたと思う。くまはベットから落ちてた。
スクーターで最寄駅に向かう。入学祝いに祖父母に貰ってからの相棒。ミントグリーン色した丸っこいやつ。朝陽や友人にバレたら笑われそうだな。ヘルメットは叔父さんがくれた。男ならこれだろう!と自信満々に赤いラインの反射鏡の入った黒いフルフェイス。かっこいいんだけど、かっこいいんだけどね。
しばらく電車に揺られて、乗り換え駅で降りると朝陽が居た。いつも乗ってる搭乗口は高校の時から変わらないんだな。
「おはようございます」
後ろから声をかけるとふわふわ耳がぴくりと動いて尻尾も揺れ出した。
「おはよ、律」
眩しい笑顔だな。眩しい。
すぐに電車が来て一緒に乗った。
「よく寝れたか?ポポン送ったんだけど見てなかったな」
「あ、ごめんなさい。すぐ寝ちゃって見てないです」
そういや、充電あるかな。スマホを取り出して画面の電気を付ける。大丈夫そうだ。
朝陽から数件、高校からの友達と祖父母からも叔父さんからも来てた。おめでとうやまた遊ぼう、頑張れと励ましのメッセージが届いてた。電車が着くまでまだまだある。今のうちに返しとこう。
「いつも通りの律だなあ。俺は昨日緊張してあんまり寝れなかったよ」
垂れ耳がもっと垂れてる。朝陽でも緊張するんだな。
「そうなんですか、無理しないでくださいね」
「うん。ありがと」
よく見ると目の下にクマが薄っすらある。わあ重症じゃん。鞄からお菓子を取り出す。ピンクに白に水色、黄色も入った金平糖だ。個包装してあるからそれごと渡す。
「食べてください」
「!!ありがとう!」
ブドウ糖だしきっと眠気に勝ってくれるよ。多分。
嬉しそうな顔をしてるし尻尾がブンブン揺れてる。金平糖好きなのかな。よかった。
揺れながらスマホを弄る。
「今日から別の教室だな」
「そうですね」
「俺が居ないからって泣くなよ」
ニヤリと笑うけどこっちの台詞だ。
「何言ってるんですか。泣くのはそっちでしょう、遠吠えしないでくださいよ」
「……でもほんとに泣いたら、ちゃんと俺が迎えに行くから」
ふわりと笑った。
「はいはい、心強いですね」
顔を見きれなくてスマホに戻った。
今日は授業登録や学内施設の利用についての案内があると先生は言ってたな。電車はもうすぐ大学の最寄り駅のつく。
「じゃあまた」
「おう……終わった後迎え行こうか?」
「え?大丈夫ですよ?」
僕はそんなに寂しがり屋だと思われてるんだろうか。いや違うな朝陽寂しいんだな。
「お互い頑張りましょうね」
「ああ、頑張ろうな」
ニッと笑って階段をかけて行った。僕も教室行かないと。階段が長く感じた。
昨日指示された教室に着いた。前の黒板には学籍番号事に座るように指定があって、確認して席に向かった。
キョロキョロと見渡すと横から声がした。
「よ、俺スカイ・ウィルソンって言うんだスカイって呼んでくれよ。よろしくー」
いきなり肩を組まれた。大きいなこの人。
「僕は雨宮律です。よろしくお願いします。」
顔が近いから目の色の青さがよくわかる。金髪で堀が深くて、多分アメリカ人のルーツを持つんだろうな。
「硬いなー、まあいっか。律って呼んでいい?」
「お好きにどうぞ、スカイ君」
「よし決まり!……あ、そうだ、後ろのやつにも挨拶しとけって。」
「後ろ?」
スカイが親指で示す。
振り返ると、資料を静かに読んでいる大きな影があった。
銀色の髪が淡く光を帯びて揺れる。
グレイ系特有の灰色の肌と黒目がちの瞳。目が合うと一瞬だけ心臓が跳ねた。
「……お前、いつまで黙ってんだよエリオ。」
「別に。紹介されるのを待っていただけだ。」
低く落ち着いた声だった。
身じろぎもせずこちらをじっと見てくる。
背が高くて座っていても威圧感がある。
けど、どこか透き通った感じがした。
「雨宮律です。よろしくお願いします。」
「エリオ・サリム。……よろしく。」
「こいつ、見た目怖いけど根は優しいから。な?」
「余計なことを言わなくていい。」
「だー、冷てえなあ!」
スカイが大げさに肩をすくめるのを見て、少し笑いそうになった。こんなに明るい人と関わるなんて、驚いたな。
「俺とエリオは小学校からなんだ」
「そうなんですね、仲が良いんですね」
「腐れ縁だ」
ため息混じりにエリオが補足をいれる。こういう空気感の人達なのかあ。僕も仲良くなれたらいいな。
出身高校の話とか地元の話をしながら暫くすると前の方の扉が開いた。
昨日紹介されてからずっと僕の中でインパクトのある先生、担任のオスカー・ノヴァ先生が入ってきた。
キラキラと輝くシルバーの髪。教室のライトを反射して黒板に模様が出てる。どうなってるんだろう。
「おはようございます。時間になりましたので始めます。本日の予定を伝えます。」
黒板に文字を書いていく。止め、跳ね、払いがしっかりとあるとても美しい字だ。書く文字さえも綺麗なのか。
「ではまず、仮学生証を机の上に出し、その場で待機してください」
ノヴァ先生と副担任の佐々木百合子先生が二手に分かれて、一人一人学生証を配っている。確認しながら渡しているようだ。
僕もすぐにノヴァ先生から渡された。近くで見るとすごいな。受け取る時に手が震えてしまった。
ノヴァ先生は淡々とした顔でこちらを見ている。
……無理だ。心臓に悪い。
「ふっ、珍しいですか?」
口角が少し上がって低い声が耳に落ちた。
息が詰まった。
「……すみません。」
「そうですか。慣れますよ。」
恥ずかしかった。緊張した。他の人は平気そうに受け取ってるのに。
全員に行き渡るとノヴァ先生が教壇に立った。
「本日はまず学生証の配布と使い方とスマホ連携をします」
午前中ずっと説明が続いた。