口角が上がった表情
衝撃的なサップリング教授の授業は参加する度に視野が広がって行く感じがする。
僕はまだまだ小さな世界に居たのだと、そう思った。
もうすぐ二年生になる。
ゼミについて説明や悩んでる姿をよく見る様になった。
そして僕も悩んでる姿の人になった。
「有栖川先輩、お聞きしたいことがあるのですが、いいですか?」
「もちろん、いいよ。」
「あの……サップリング教授のゼミはどんな雰囲気ですか」
有栖川先輩は暫く固まった後、何度が瞬きをして、笑顔になった。
「良くぞ、聞いてくれたね!」
図書館バイトを終わらせた僕と先輩は雑談スペースに行きソファーに座った。
「サップリング教授のゼミはね……正直、楽じゃないよ。毎回問いかけられるし、調べ物や議論も多い。
でも、不思議なんだ。終わるとね、自分が一歩外に出られた気がするんだよ。
視界が広がるっていうか、世界が“広がっちゃう”感じ。」
先輩も僕と同じだったのかな。
「ついていくのは大変かもしれない。でも、律くんみたいに悩んでるなら――きっと合うと思うよ。」
嬉しそうな先輩はもっと教えてくれた。
「去年のフィールドワークはね、日本の田舎に移住してきた異星人の世帯を訪ねたんだ。
都会に住む異星人コミュニティじゃなくて、本当に静かな山あいの村でね。
地元の人たちと田んぼを一緒にやってたり、子どもが学校に通ってたりする。
私たちが想像する“異星人との共存”とは全然違って、生活そのものだったよ。」
「ただ、やっぱり摩擦はある。
例えば“祭りの太鼓を叩くのは地元の血を引いた者だけ”っていう伝統に、異星人の子が挑戦したいって言い出して。
村の空気が一気にピリついたりな。
そのとき教授が、『これは文化の衝突ではなく、文化が広がる瞬間だ』って言って……。
私、あの一言で涙出そうになったんだ。」
有栖川先輩は懐かしそうに笑って肩をすくめる。
「教室で学ぶのとは比べ物にならないくらい、自分の価値観が揺さぶられる。
だから覚悟しておいた方がいいよ。」
口角が上がった表情をしている有栖川先輩は僕の肩に手を置いて数回軽く叩くと、またね、と言って雑談スペースから出ていった。
僕は後日、ゼミ希望にサップリング教授ゼミを書いた。




