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8話「エピローグ」最終話



――エピローグ――





――未来エルフォード視点――



淡い光につつまれ、俺は自室に戻っていた。


床には精霊を召喚する時に使用した魔法陣が描かれたままだった。


魔法陣の周りには、陣を描く時に使用した本や絵の具やぺんがそのままの状態で残されていた。


僕が召喚した時の精霊が、壁際に立ち、こちらを見つめている。


そうか、本当に元の世界に戻って来たのだな。


別れ際に見たリアの表情が忘れられない。


彼女は今にも泣きそうな顔をしていた。 


この手にリアの書いた小説がなければ、時間旅行などなかったと思えるほど、信じられない出来事だった。


リア先生が亡くなった後、俺は先生の日記と書きかけの小説を読んだ。


日記を何度も読み返すうちに、先生の日記に綴られていた後悔を晴らしてあげたいと思うようになった。


過去を変えても並行世界ができるだけで、自分のいる世界には影響はない。


リア先生が生き返ることはない。


それがわかっていても、俺は過去に行ってリア先生の運命を変えたかった。


先生が元気に生きている世界線を作りたかった。


いやそれは綺麗事だ。


本当の願いは先生にもう一度会うこと。


俺と出会う前の先生でも構わない。不審者扱いされても構わない。


それでも俺は生きている先生に会いたかったんだ。


タイムスリップすると決意した俺は、国中から魔術師の歴史と数学と魔法科学と精霊学に関する本を集めた。


そして選りすぐりの学者を集め、家庭教師として雇った。


月日が流れ、学園に入学する歳になったが学園には通わなかった。


学園のレベルが低すぎて通うだけ無駄だと思ったからだ。教師から学ぶことはない。本の内容は全て頭の中に入っている。


父がうるさく言うので、入学試験を受けに学園に行った。


試験内容が簡単すぎて全問解くのに五分もかからなかった。


ついでに昨年の卒業試験と同じテストを受けさせて貰ったが、それも簡単すぎて五分で終わってしまった。


俺に学園の授業は必要ないと証明された。


どうしてもというなら、フィンセス叔父様のようにテストの時だけ学園に通ってもいい。


だが、卒業試験に満点合格したことで学園の卒業資格が与えられた。


無駄な時間を費やさなくて済んで、ホッとしていた。


テストの後、学園内をゆっくりと回って歩いた。


過去に戻った時に困らないように、建物の配置を把握しておきたかったから。


十年前、この学園にリア先生が通っていたと思うと感慨深い。


もしも俺が彼女と同じ年だったなら、彼女と同じ教室で学び、食堂でランチをともにし、図書館で肩を並べて勉強することが出来たのだろうか……?


いつの間にか中庭に来ていた。


この場所はリア先生がモンスターに襲われた因縁の場所だ。


モンスターに襲われたせいでリア先生は怪我をし、杖なしでは歩けない体になった。


モンスターの毒が数年をかけて全身を回り、彼女の命を奪った。


気がつけば俺は、手から血が出るほど拳を強く握りしめていた。


リア先生がモンスターに襲われた場所で、リア先生を必ず助けると胸に誓った。



◇◇◇◇◇



それから一年と数カ月の時間が流れた。


時の精霊を呼び出す目処がつき、俺は時を渡る準備を始めた。


ヴェノムスパイトを倒す剣。それから公爵家の家紋入りペンダントと金貨もあれば役に立つだろう。


ポーションと聖水も念の為に持っていこう。


制服は叔父のを借りようと思ったが小さくて入らなかった。仕方なく父のを借りた。


少し古いし、若干サイズがあってないが、さほど目立たないだろう。


俺は時の精霊を呼び出し過去へと飛んだ。


十七歳の先生を見つけた時の感動は今でも忘れられない。


十七歳の先生はまだあどけなさの残る顔立ちをしていた。よく笑うし、よく怒るし、よく食べるし、見ていて飽きなかった。


そしてとても小柄だった。いつの間にか俺は先生の背丈を超えていたようだ。


こんなにも華奢な人だとは思わなかった。


俺の知っているリア先生は、常に冷静で落ち着いていて、毒の影響か元気がなくて、笑顔が儚げだった。


リア先生に、そんな人生を歩ませたくなくて過去に来たんだ! 絶対にこの世界のリア先生を幸せにする!


俺はそう、新たに誓いを立てた!



◇◇◇◇◇




この世界に馴染む為に、俺は叔父様の名前を借りた。


ほとんど学校に来ないSクラスの公爵令息の肩書は、リア先生に近づくのに都合がよかった。


リア先生は俺のことをフィンセス・ルシディアだと信じてくれた。


魔術師団のインターンの申し込み書を速やかに提出させ、特製プリンを食べさせ、風邪を引かないように注意をはらい、先生の苦手な教科を教える。


華奢な先生に特上ステーキを食べさせ、栄誉をつけさせた。


全て順調に進んでいた。


このまま全て上手くいくように思えた。


しかし、一番肝心な時に予想外の事が起きた。


テストが終わり休みを挟んだ金曜日。


リア先生には中庭にいくなと忠告しておいた。


昼休みに食堂で会おうと約束したのに、リア先生が一向に現れない。


胸騒ぎがして中庭に向かうと、そこに先生の姿があった。


先生の表情は暗く沈んでいて、俺を見ると疑いの表情を向けた。


どうやら俺が本物のフィンセス・ルシディアでないことに、気づかれてしまったようだ。


先生に真実を話したかったが、まだその時ではなかった。


真実を話したら未来に帰らなくてはいけないから……。


まだヴェノムスパイトを倒していない。


奴を退治し、先生の命を救うまでは本当のことは言えない!


それに中庭にいたら危険だ。


ヴェノムスパイトが来る前に、リア先生のことも、中庭にいるその他大勢の生徒のことも逃さないと!


特上ステーキとデザートを奢る、一番に食堂についたものには金貨を出すと言えば、中庭にいた生徒達は一目散に食堂に向かって駆け出した。


だが、リア先生は微動だにしなかった。


そうしている間にも時間だけが過ぎていく。


ヴェノムスパイトが現れる前にリア先生を逃がしたかったが、間に合わなかった。


俺は剣で応戦したが、奴らが想像していたより手強かった。


ヴェノムスパイトがリア先生に標的を変えた。


考えるより先に体が動き、リア先生の前に飛び出していた。


俺は奴に腕を噛まれたが、リア先生は無傷だった。


俺はヴェノムスパイトの弱点をつき、なんとか奴を倒した。


ポーションで傷を癒やし、聖水で体についた奴の唾液や血を浄化した。


リア先生が助かったとわかったとき、俺は心の底から安堵した。


自分が怪我をしたことを忘れるくらい嬉しかったんだ。


そして俺は、リア先生に真実を話しに未来に戻った。


予定にはなかったリア先生の小説の続きを持ち帰れた。


それだけでも十分幸せだ。


本当に、心の底からそう思ってる。




◇◇◇◇◇




「随分派手にヤラれたようだな」


時の精霊が俺の服を見て言った。


傷はポーションで治したが制服までは治らなかった。ヴェノムスパイトの噛み跡がついて制服はボロボロだ。


「それから……傷口は塞がったようたが、解毒はできなかったようだな」


指摘されたとき、腕にズキリと痛みが走った。


リア先生に一つだけ嘘をついた。


俺のいる時代でも、ヴェノムスパイトの解毒薬は開発されていない。


これから何年もかけて、奴の毒はゆっくりと俺の体を蝕んでいくだろう。


「後悔はしていない。

 別の世界のリア先生は救えた。

 それにリア先生と同じ毒で死ねるなら本望だ」


過去を変えてもこの世界のリア先生は蘇らない。


新たに並行世界が生じるだけだから。


リア先生のいない世界を生きるなんてごめんだ。


過去を変え、幸せに生きているリア先生がいる世界を作った今、俺には目的も目標もない。


生きる意味も、現世への未練もない。


「その本はどうした?

 過去から貴重品は持ち出してはならぬ決まりだが」


「持ち帰ったと言っても、素人の書いた小説一冊だけだよ。

 ちゃんと著者の許可も取ってある。

 毒に侵されながら持ち帰ったんだ、見逃してよ」


せっかく先生の書いた小説を持ち帰ったのに、読まずに死ぬなんて悔しすぎる。


そうか、まだ俺にも現世への未練があったんだな。


現世への未練、それは……。


「歴史的に重要な書物や古文書の類ではなさそうだな。

 大衆小説のようだし一冊ぐらい目を瞑ろう」


「ありがとうございます。

 この御恩は忘れません」


時の精霊に深々と頭を下げた。


「時間旅行を見届けたことだし我は帰るとしよう」


「お気をつけてお帰りください。

 召喚に応じてくださりありがとうございました」


俺は時の精霊を見送った。


時の精霊がいなくなると部屋は静寂に包まれた。


精霊がいなくなると、ますます時間旅行をした現実味が薄れていく。


破れた制服と腕の痛み、それから俺の手にある小説だけが時間旅行を証明してくれる。



◇◇◇◇◇



俺はその後、先生の小説を読みふけった。


小説の続きは俺が想像していたよりずっと面白かった。


俺は先生の小説を何度も読み返した。


こんな名作を俺だけの胸に留めておくなんてもったいない。


俺は現世の最後の未練を晴らすことにした。


それはリア先生の本を出版し、多くの人に読んで貰うこと。


公爵家の力を使えば本を一冊世に出すなんて造作もない。


だけど権力や金の力を使わなくても、先生の本なら出版社に持ち込めば必ず出版されるだろう。


念には念を入れ、信頼できる出版社から本を出した。


リア・アズラエルの名前で、先生の遺作として。


俺の予想通り、先生の本はあれよあれよという間に大ヒットした。


今では読んでる人が少ないくらいの大ベストセラーだ。


現世への最後の未練がなくなった俺は、公爵家で残り僅かな時間を過ごしている。


俺の死後は、フィンセス叔父様が公爵家の跡継ぎになる。


今まで婚約者も作らず社交もせずに趣味に没頭していた叔父様は、不平を漏らしていた。


そこは少し申し訳なく思うが、父を除けば公爵家の男子は叔父様だけなので頑張ってほしい。


父は研究所を作り、各国から選りすぐりの学者を集め、ヴェノムスパイトの解毒薬を作るのに躍起になっている。


父には悪いが、俺はリア先生のいない世界を生きる気はない。


リア先生の日記と小説を読み返し、ゆっくりと余生を過ごしたい。


一足先に旅立ったリア先生のいる天国へ旅立つその日まで。


俺の棺には先生の直筆の原稿を入れてもらう予定だ。


天国でリア先生に会える日が楽しみだ。


リア先生は俺のことを褒めてくれるかな?


それとも「何やってるの!」と叱るだろうか?


どちらでも構わない。


リア先生にもう一度会えるならどっちでもいいんだ……。




――終わり――



読んで下さりありがとうございます。

少しでも、面白い、続きが気になる、思っていただけたら、広告の下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると嬉しいです。執筆の励みになります。


――後書き――


報われない初恋の切ない話が書きたかったのです。


単一時間軸変化は「バッ◯・トゥ・ザ・◯ューチャー◯」

並行世界分岐は「ド◯ゴンボー◯」です。


タイムスリップは「ドラ◯えも◯」のタイムマシーン。

タイムリープはなろう系でよくある精神だけ過去に戻るものです。


作者も詳しく知らないので深く突っ込んではいけません。


最後にリアがショタになりました。


リアの初恋のエルフォードと、過去世界のエルフォードは同じ魂だけど別の人。

初恋から年月も経過してるので、同じ魂で同じ顔の別の人間と結婚しても許してあげてください。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


現在投稿中の下記作品もよろしくお願いします。


闇属性の兄を助けたら魔力がなくなり王太子候補から外された。義兄と精霊から溺愛されている僕の僻地でのスローライフ。ついでに魔王討伐【全編改稿・全年齢版】BL

https://ncode.syosetu.com/n1496kn/



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