表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/8

7話「私にとっての再会は、あなたにとってのはじめまして」



――四年後――



とある書店のサイン会会場。



あれから四年が経過した。


エル君に勉強を教えて貰ったお陰で、二年生の年度末試験は首席だった。


そのお陰で、三年生のときSクラスに入れた。


魔術師団のインターン採用試験にも受かり、そこで友達もできた。


学園を首席で卒業した私は、学園の推薦もあり魔術師団に入団できた。


魔術師団として活動する傍ら、小説の執筆にも取り組んでいる。


エル君が未来に帰ったあと、書き直した小説を出版社の公募に出したら運良く大賞を受賞。


一年後に出版された本は重版出来に次ぐ重版出来! たちまちベストセラーに……!


魔術師団と小説家、両方の夢を叶えられた。


今日は大手書店でサイン会が催されている。ちなみに魔術師団は今日はお休みだ。


サイン会の時間も残りわずかとなったとき、一組の親子が私の前に現れた。


着てる服や立ち居仕草からわかる。彼らは上位の貴族だ。


上位の貴族は身分を盾に順番を、守らないことが多いのだが、彼らは横入りせずにきちんと列に並んでいたようだ。


実に良識のある貴族だ。


「リア先生、俺、先生の小説の大ファンなんです! この本、何度も読みました!」


少年は手垢で擦り切れた本を机の上に置いた。


「すみません。

 サインを貰うなら新品の本にしろと言ったのですが、息子がどうしてもと聞かなくて。

 後で先生の著書を百冊ほど購入して知人や使用人に配りますので大目にみてください」


お金持ちは言う事のスケールが違う。


少年が差し出した本を捲り発行日を確認する。その本は初版本だった。


「『エルフォード・ルシディア公爵令息へ』って書いてください!」


少年がきらきらとした瞳で見つめてくる。


栗色の髪、エメラルドグリーンの瞳、愛らしい顔。


彼の顔を見間違えるはずがない。


記憶よりも幼いが彼はエルだ。


私の世界のエル君だ。


この世界の彼も、私の本を読みファンになってくれたんだ。


胸がジーンと音を立てる。嬉しくて涙が溢れてきた。


でも泣いては駄目だ。エル君を困らせてしまう。


この世界のエル君と私は、今日が初対面なんだから。


泣きながらサインする大人なんて怖すぎる。幼い彼にトラウマを与えてしまう。


サインをしようとすると手が震えた。


落ち着こう自分。


この世界のエル君が私の本を読んで、ファンになってくれただけでもう十分じゃないか。


こうして、この世界の彼に会えただけでも私はもう十分に幸せだ。


私は震える手を抑え、本にサインを綴った。


「はいどうぞ。いつも応援ありがとう」


ニコリと微笑み、彼に本を手渡す。


この本を渡したら彼は帰ってしまう……。


魔術師団員と年の離れた公爵令息の接点なんてそうない。


彼がここを離れたら……もう会えない。


胸がズキリと音を立てた。


「ありがとう、リア先生!」


本を受け取ったエル君が満面の笑顔を見せる。あどけなさの残る可愛らしい表情だった。


これでお別れね……そう、思ったとき不意に手を掴まれた。


びっくりして少年エル君の顔を見る。


「リア先生あのね! 

 僕、先生に一目惚れしたみたい!

 僕のお嫁さんになって!」


エル君は頬を紅潮させ、瞳をうるうるさせ、そう言った。


急な告白に動揺が隠せない。まさか、プロポーズされるとは思わなかった。


「こらエルフォード、リア先生に失礼だそ」


公爵が止めに入る。


「すみません、父様。

 そうですね、いきなり結婚するのは早すぎますよね。

 まずは婚約者になるところから始めないといけませんよね」


「すみませんね、リア先生。

 息子は先生の大ファンで。

 憧れが直接会ったことで恋に変わったようです」


公爵が困ったように眉根をさげる。


「結婚や婚約の話は一旦脇に置いて、息子の家庭教師になるのはいかがでしょう?

 私も息子も欲しいものは何が何でも手に入れる性分でしてね。

 お給料は魔術師団の五倍いや十倍出しますよ!」


ルシディア公爵は微笑みながらそう言った。顔は笑ってるのに目が真剣で、冗談には聞こえなかった。


この親子、押しが強いな……。


「リア先生お願い!

 僕の家庭教師になって!

 そしてゆくゆくは僕のお嫁さんになって!」


エル君がうるうるとした瞳で見つめてくる。


美少年のうるうるお目々の攻撃力やばい。



◇◇◇◇◇



ルシディア親子の押しの強さに、私が折れるのに時間はかからなかった。


三カ月後、私は魔術師団を退職し、私は公爵家の家庭教師になった。


「今日は数学の授業よ。予習はしてきた?」


「もちろんです! リア先生!」


「あら、偉わいわね」


「当然です、リア先生!

 僕次のテストで百点取るので、そうしたら結婚しましょう!」


エル君からは毎日のようにプロポーズを受けている。


「エル君が大人になったとき、まだ私のことを好きでいてくれたらね」


「先生のことを嫌いになるなんてありえません!

 だから今すぐ婚約しましょう!」


この世界のエル君はとにかく押しが強い。


もしかしたら私を助けてくれた別の世界のエル君も、少年時代はこんなだったのかもしれない。

  

何年も何年もプロポーズされ……ついに折れた。


エル君が十六歳のとき婚約し、彼が十八歳の誕生日に結婚した。





読んで下さりありがとうございます。

少しでも、面白い、続きが気になる、思っていただけたら、広告の下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると嬉しいです。執筆の励みになります。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ