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5話「あなたは誰なのですか? 疑惑と敵襲」




なんとなく授業に出る気にはなれなかった。


フラフラと校内を歩き、庭にあるベンチに腰掛けた。


私は、フィンセス先輩はタイムリープしてる私の未来の知り合いだと思ってた。


私にかなり親切にしてくれるから、ただの知り合いではなく、未来の恋人なのかもと……淡い期待をしていた。


だけど彼はフィンセス・ルシディアではなかった。


だけど、彼がただの嘘つきだとは思えない。


彼が見せた公爵家の家紋入りのペンダント、あれは本物だった。


モスク侯爵令息がじっくりと見て、本物だと確信していたのが証拠だ。


彼が誰でなんの為に私に近づいたのか、目的がわからず、頭の中に様々な仮説が浮かんでは消えていく。



◇◇◇◇◇



どれくらい時間が経過したのか……。


気がつくと庭に数人の生徒の姿が見えた。


お弁当を食べている生徒を見て、今がお昼休みなのだと気付いた。


バトミントンをしたり、本を読んでいる生徒もいる。


テストが終わった開放感からか、彼らの表情は明るい。


金曜日のお昼休みの食堂で待ってると、フィンセス先輩の名を語った彼は言っていた。


今から迎えば特上ステーキを奢って貰えるかもしれない。


だけど……会ってどうするの?


彼が私に近づいた目的がわからない。


会って真実を知るのが怖い。


真実を知ったら、彼が私に向けた屈託のない笑顔も嘘だったと認めることになりそうで……。


彼を信じたいのに、それが出来なくてモヤモヤしている。


「リア、ここにいたんだ!

 食堂にいないから探したよ!」


頭上から聞き慣れた男性の声がした。


今一番会いたかった人物、でも会うのが怖かった人物。


フィンセス・ルシディアを語る人物がそこにいた。


走ってきたのか、彼の息は荒い。


それに、なぜか今日に限って帯剣している。


「リア、中庭には近づかないように言ったよね?

 今すぐここから離れよう!」


彼はいつもの穏やかな表情ではなく、眉間に皺を寄せていた。


彼に握られた手を私は振り払う。


「リア……?」


「ごめんなさい。

 あなたとは行けない」


彼はショックを受けたようで目を大きく見開き、口が少し開いていた。 


彼は気持ちをリセットするかのように息を吐き、顔を伏せた。


「大丈夫だ。まだ焦る時間じゃない。上手くここから誘導できれば未来は変えられる。強引なやり方では駄目だ。もっと別のやり方を……」彼は小声で何か囁いていた。


「ごめんね、リア。

 いきなり手を握ったから怖かったよね?」


顔を上げた彼は、屈託のない笑顔を浮かべていた。


「ここは寒いよ〜〜。

 テストは終わったけど風邪には気をつけないと。

 食堂に行こうよ〜〜。

 テストが終わったら特上ステーキを奢る約束だったよね?」


明るく振る舞う彼は無理をしているように見えた。


彼は中庭いる生徒たちを見回し、

「ここにいるみ〜〜んなに特上ステーキをご馳走するよ!

 好きなデザートもつけちゃう!

 一番に食堂に着いた生徒には金貨三枚の賞金付き!

 二番目から五番目の生徒には銀貨一枚ずつ上げちゃうよ〜〜!

 食堂まで競争だ!」

そう呼びかけた。


「特上ステーキにスイーツ!?」

「一番の生徒には金貨三枚だと!」

「銀貨なら俺にもチャンスがあるかも!」


彼の呼びかけに中庭にいた生徒達の目の色が変わる。


彼らは我先にと食堂むかって駆け出した。


中にはバトミントンのラケットや、読んでいた本を放置していく生徒もいた。


「これでいい。

 中庭から人を遠ざけることができた」


彼は遠ざかっていく生徒の後ろ姿を見送り、そう漏らした。


彼の表情は険しく、どこか焦っているようにも見えた。


「さあ、リアも立って。

 食堂に行こう。

 特上ステーキが売り切れてしまうよ」


彼は明るい声で、おどけたようにそう言った。


私は彼に言われた通りに立ち上げる。そして彼を真っ直ぐに見つめた。


栗色のストレートショートヘア、翡翠色の髪。フィンセス先輩の色に似ているけれどどこか違う。


「その前に聞かせてください」


「何を?」


「あなたは誰なんですか?」


私とフィンセス先輩の間をヒューーと冷たい風が吹き抜けていった。


彼は驚いた表情を見せたが、直ぐにいつもの笑顔に戻った。


「君も知っているだろう?

 俺の名前はフィンセス・ルシディア。

 公爵家の次男で学園の三年Sクラスに所属している……」


「嘘はやめてください!」


「嘘じゃないよ。

 俺は……」


彼は取り繕うように笑顔を浮かべる。


「今日、本物のフィンセス・ルシディア公爵令息に会いました」


私がそう告げた瞬間彼はハッとしたように息を呑んだ。


「本物のルシディア公爵令息は、ボサボサのロングヘアで前髪で顔の半分を隠している猫背で痩せ型で小柄な方でした。

 あなたのような長身の細マッチョではありません」


観念したのか彼は悲しげに目を伏せた。


「教えてください。

 あなたはいったい誰なんですか?

 なぜフィンセス・ルシディア公爵令息の名前と身分を語ったのですか?

 どうして公爵家の家紋入りのネックレスを所持しているのですか?」


公爵家の家紋を盗み、公爵令息の身分を騙ったとしたら重罪だ。


何か理由があるのだとしても、彼が捕まる前に止めさせないと大変なことになる。


「参ったな。

 このタイミングでバレるなんて想定外だ……」


彼は頭をかきながら顔を上げた。


「引きこもりでテスト以外は登校しないあの人が……今日に限って登校するなんてね。

 計算外だ」


彼は開き直ったような表情で語り始めた。


「公爵令息の身分を語るなんて重罪ですよ。

 あなたはわかってやっているんですか?」


「そんなに怒らないで。

 詳しい話は食堂でしよう。

 ここは寒いからさ」


彼はおどけたように笑う。


「こんなときになぜへらへらと笑っていられるんですか? それに、こんな話食堂じゃ……」


誰に聞かれるかわからないのに、こんな危険な話を食堂のような人の多い場所でできるわけがない。


「言い方を変えるね。

 ここにいると危険だから食堂に避難して!」


彼は私の言葉を遮り、私の腕を掴んだ。


私を見つめる彼の表情は真剣そのものだった。


「その前に事情の説明を……」


その時、ミシミシと何かを避けるような音がした。


音のした方向に目を向けると、黒に緑の斑点模様の巨大な蛇がいた。


太さは丸太ほどあり、長さは大人の背丈の三倍はある。


先ほどしたミシミシという音は奴が木を裂く音だったようだ。


「な、なんで、こんなところにモンスターが……!?」


「ヴェノムスパイトだ! 奴は強力な毒を所持している! 逃げろ!!」


彼は厳しい表情でそう叫ぶと、私の体をモンスターとは反対の方向に突き飛ばした。


彼はヴェノムスパイトを睨みつけ、勇ましく剣をかまえた。


彼は今日に限って帯剣していた。騎士科の生徒でもないのに。


彼はまるで今日、モンスターの襲撃があることを知っていたかのようだ。


彼が中庭にいた生徒達に特上ステーキを奢ると言ったのも、中庭から生徒を逃がす為だろう。


そう考えると全ての説明がつく。


やはり彼は悪い人ではないようだ。


そして、これから起こることを知っている。


彼はフィンセス・ルシディア公爵令息ではないけど、家紋を持っていたから公爵家の関係者。


そして未来予知能力を持っているか、未来人かのどちらかである。


「ぐずぐずするな! リア、食堂まで走れ!!」


彼は一瞬振り返ると、険しい表情でそう言い放った。


彼は私の為に戦っている!


逃げなくてはいけない!


それはわかっている。……わかってるけど恐怖で体が動かない。


彼と交戦していたヴィノムスパイトの淀んだ目が私の姿を捉えた。


奴は。標的を目の前の青年から私に切り替えたようだ。


ヴィノムスパイトが体をうねらせ私に突進してくる。体が大きいくせに動きが素早い。


逃げなくちゃ! でも、足が地面に張り付いたみたいでその場から一歩も動けない。


その間にもモンスターが迫ってくる!


避けられない……! 噛まれる……!


私は瞳をとじ、腕を顔の前で交差させ身を守る体制をすることしかできなかった。、


ジャリジャリ……という鈍い音がして、ボトボトと地面に血が滴り落ちる音が聞こえた。


だが不思議なことに痛みはなかった。恐る恐る目を開ける。


私とモンスターの間に彼がいて、彼がモンスターの攻撃を腕で受け止めていた。


モンスターの牙がフィンセス先輩の腕を突き刺していた。


その光景を目にし、一気に血の気が引いた……!


「フィンセス先輩……!!」


私は無意識に彼の名前を叫んでいた。偽りの名前かもしれない。だが今はそんなことはどうでもよかった!


「逃げろって言っただろ!」


彼は顔をしかめそう漏らすと、蛇の腹を蹴り飛ばした。


蛇が彼から離れ地面に転がる。


「お前の弱点は目だってわかってるんだよ! くたばれ!!」


間髪入れず彼は蛇の左目に剣を突き立てた。


「ぎゃああああああ……!!」


という断末魔を上げバタバタと体をくねらせ蛇は息絶えた。


当たりに蛇の黒っぽいどす黒い血が広がる。


「フィンセス先輩!」


私が駆け寄ろうとするのを彼が手で制止した。


「来るな! 奴の唾液や血には毒がある!」


「そんな! 早く治療しないと!」


毒もそうだけど、彼は腕からかなり出血している。


早く治療しないと命に関わる!


「……問題ない!」


彼はそう言い放つと、ポケットから小瓶を取り出し飲み干した。


すると、彼の傷口がみるみる塞がっていく。


「ふ〜〜、念の為に回復役を用意しといてよかった」


剣だけではなく回復役も用意していたなんて、間違いない。彼は今日この場所にモンスターが出現することを知っていたのだ。


「あとは、消毒用の聖水」


彼はポケットから別の小瓶を取り出すと、モンスターに噛まれた腕に液体をかけていた。


「これで俺に触れても平気だよ」


ようやく彼の表情に、穏やかさが戻り、私はホッと息をつく。


「お〜〜い大丈夫か〜〜!」

「凄い音が聞こえたぞ!」

「何があったんだ!?」


騒ぎを聞きつけたのか、先生と生徒が校舎から走って来るのが見えた。


「ヴェノムスパイトだ!

 すでに息絶えているが唾液や血液には毒があるから安易に触れるな!

 騎士団に連絡し、彼らの到着を待ってから死体の処理をするように!」


彼は駆けつけた先生にそう告げると、私の肩に手をおいた。


「俺は戦闘で負傷したので保健室にいく!

 君、案内と手当を頼む!」


怪我の治療は先ほど済んでいる。


彼はこの場から離れる口実がほしいのだと気付き、彼の話に乗ることにした。


「承知しました!

 保健室はこちらです!」


私は彼の手を引きその場から離れた。




読んで下さりありがとうございます。

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