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2話「謎の少年の正体は公爵令息!?」




彼が特上ステーキを二皿持って戻る頃には、食堂の席はだいぶ埋まっていた。


近くのテーブルにクラスメイトが座っている。


クラスメイトといっても、彼らはカースト上位の高位貴族のキラキラ集団。


私はカースト底辺の貧乏子爵家の地味令嬢。同じクラスといっても接点がないのだ。


「リアお待ちどうさま。

 特上ステーキだよ。

 いっぱい食べて少し太ってね。

 胸はぺったんこだし、足もひょろひょろだし、リアはガリガリの子鹿みたいなんだもん」


「ちょっと、言い方」


私が気にしていることをずけずけと……!


だが、特上ステーキに罪はないのでありがたくいただく。


「うまっ……!」


思わずはしたない声が漏れる。


お肉が口の中でほろほろと解けていく……!


ソースがお肉に程よく絡まって、お肉の味を引き立てていく……!


上位の貴族はいつもこんな美味しいもの食べてるの……?!


「良かったら俺の分も食べる?」


「そこまで卑しくはないわよ」


本当は一口ぐらいなら分けて貰えないかと、頭の隅でちらっと考えていた。


「いとこの結婚式で出たお肉より美味しかったぁぁ〜〜!」


ステーキをぺろりと平らげた私は、フォークとナイフを皿においた。


満足、満足。


「リアが喜んでくれてよかった」


少年が私の顔を見てにこにこと笑う。


「ごちそうになりました。

 それはそれとして、あなたの正体をいいが加減教えてくださるかしら?」


彼はこの学校の制服を着ているからうちの生徒に間違いはない。


特上ステーキを人に奢れるぐらいだからお金持ちだろう。


彼はノリは軽いが、食べ方や仕草は上品だった。おそらく上位貴族だろう。


良く見ると彼の服は既製品のものとは違い、生地や仕立てがとてもよかった。


多分、オートクチュールだろう。


だが、生地が少しいたんでいるように見える。


サイズも少し合っていないようだ。


制服は誰かのお下がり?


特上ステーキを初対面(だと思う)の私に簡単に奢るようなお金持ちが、お下がりの制服を着る理由とは……?


少年のことを知れば知るほど謎が深まっていく。


「せめて名前とクラスぐらいは教えてくれない?」


私が尋ねると、彼は少し悲しそうな顔をした。


何か悪いこと聞いてしまったかしら?


「俺の名前はね……」


「明日の土曜日、図書館で試験勉強するんだけど参加する人〜〜?」


「Aクラスなら誰でも参加していいよ!」


隣の席でヒエラルキー上位の陽キャ達がそんな話をしていた。


声が大きいので私のいる席にまで聞こえてきた。


勉強会には参加してみたい。ずっとそう思っていた。


彼らの輪の中に入れたら、あと一年と少しある学園生活が華やかになるのかなって。


でもきっと彼らの言う「誰でも」に、貧乏な子爵令嬢の私は入っていない。


私は上げかけた手をそっと下ろした。


「エイプリルとカレンとジーナとテオとハンスとレオナルド、参加者はこれで全員か?」


ヒエラルキー上位グループのリーダーセルジア・モスク侯爵令息がそう問いかける。


私は手を上げることを諦め、彼から視線を逸らした。


「はーい! リア・アズラエルが参加しまーーす!!」


少年が私の手を掴み、声を上げていた。


「ちょっと……君……! 勝手に……!」


そっと隣のテーブルに目を向けると、キラキラ集団の目が私に注がれていた。


「え〜〜と、アズナエル子爵令嬢だったよね? 君も参加するの?」


モクス侯爵令息が私に尋ねる。上位貴族に名前を覚えられていただけでも奇跡だ。


「い、いえ……私は」


委縮してしまい、私は上手く声が出せなかった。


「はい、絶対に参加します。

 リアはこう見えて魔術師の歴史や、数学が得意なんですよ。

 あと小説を書くのも上手なんです!」


少年は何でそんなことまで知ってるの?


私が小説を書いてるのは家族しか知らないのに……!


「それ本当? 私、数学苦手だから教えてほしいわ」


「私は魔術師の歴史が苦手なので教えてほしいわ。アズナエル子爵令嬢、ぜひ参加して」


「ひゃいっ!!」


キラキラ陽キャの彼らにそう言われたら、底辺の陰キャには断れるはずがない。


「良かったねリア、念願の勉強会に参加できるよ」


少年がふわりと微笑む。


私が勉強会に参加したかったことをどうして彼は知っているのだろう?


「ねぇ、その勉強会俺も参加していい?」


「構わないけど……君は誰なんだい?」


モクス侯爵令息が訝しげな表情で少年に問う。


「俺はエ……フィンセス。フィンセンス・ルシディア。三年Sクラスだよ」


少年が名前とクラスを明かした。私がいくら訪ねても教えてくれなかったのに、モスク侯爵令息に尋ねられたらあっさり答えるのは少し癪に障る。


だがそんなことは些細なことだ! まさか彼が三年生! しかもSクラスだったとは!


謎の少年ことルシディア先輩はお金持ちな上にエリートだった!


砕けた口調と軽いノリから、彼のことを勝手に同学年か下級生だと決めつけていた……。


「Sクラスの方、しかもルシディア公爵家の方だったとは。とんだご無礼をいたしました」


モクス侯爵令息がフィンセス先輩に向かって頭を下げた。


その上、公爵家の御子息だったのなんて……!!


私はモクス侯爵令息の何倍も、ルシディア先輩に無礼を働いてしまった!


学校に圧力をかけられて停学にされてしまうのでは……!


停学で済めばいいけど、下手すれば退学……!?


実家にも圧力をかけられて破滅……!


心臓が嫌な音を立てる。額から汗が吹き出してきた。


「公爵家の令息と言っても次男だし、兄貴はとっくに結婚していて息子もいる。

 俺に家督が回ってくることはないから、そんなに畏まらないでいいよ」


フィンセス先輩は気にする様子もなくヘラヘラと笑った。


「もちろんリアもね」


ルシディア先輩が私の顔を見て、いたずらっぽくウィンクをした。


ホッ……。心が広い方でよかった。


「まぁ人嫌いで社交界どころか学校にさえテストの時にしか来ないから、君たちが顔知らなくても仕方ないよね。

 一応これが証拠の家紋ね」


フィンセス先輩は胸元からネックレスを取り出すと、皆に見せた。


これが「公爵家の家紋です」と言われても、下級貴族の私には判断がつかない。


「確かに、これはルシディア公爵家の家紋ですね」


モクス侯爵令息が眼鏡を押し上げ、じっと家紋入りのペンダントを見つめ、確信したように頷いた。


上位貴族の彼が言うのだから本物なのだろう。


「というわけで信じてくれた?」


フィンセス先輩は私の顔をじっと見た。


私は無言でコクリと頷いた。


「君たちのクラスじゃないけど、Sクラスだから成績はいいし、魔術師の歴史と数学と魔法科学と……それから精霊学に詳しいから勉強会に参加させて損はないと思うよ。みんなの仲間に入れてよ」


「もちろんです。ぜひいらしてください!ルシディア公爵令息!」


モクス侯爵令息がそう返事をした。


「堅苦しい挨拶はやめてよ。フィンでいいよ」


「そういう訳には」


「じゃあ間をとってルシディア先輩でどう?」


「では、そう呼ばていただきます」


ルシディア先輩はあっという間に人の輪に溶け込んでいた。


とても人嫌いでテスト以外では家に引きこもっているようには見えない。


それとも上位貴族だけあって、ある程度の社交の技術は身に付けているのだろうか?


「リアは俺のことフィンって呼んでいいんだよ」


彼は私に向かってウィンクを飛ばした。


「遠慮しときます。ルシディア先輩」


「フィンがいい。リアはそう呼んでよ」


彼は私の隣の席に移動してくると、私の手を握り私の目を見つめながら囁いた。


困ったわ……彼の要求に答えるまで手を離して貰えそうにない。


「では、フィンセス先輩と呼ばせてください」


「……まぁ、いっか。今はそれで」


「納得したなら、手を離してください」


「は〜〜い」


フィンセス先輩が私からパッと手を離す。


今日だけで何度彼に手を握られた事だろう?


昨日まで男性の手なんか握ったこともなかったのに。


「明日の勉強会楽しみだね」


フィンセス先輩は花が綻ぶように笑った。



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