蜜の壺
ーーある女の書き置きより
ねえ、あなた。
どうしても言わなければならないことがあるの。
私の身体の中には、虫がいるの。
あなたが植えた虫がね。
あの日、私たちが初めて唇を重ねた時、稲妻が走るように甘ったるい感触が私の舌を這いずったの。
私はそれを「恋」だと思っていた。でも、全然違った。
あれは、あなたの魂の蛆だったの。
夜になると、瞼の裏にあなたが溢れてくるの。
何度も、何度も、夢の中のあなたが、私の中に巣食っているあなたが、じわじわと膨らんでいく。
あなたは、私を壺にしたのね。蜜を注ぎ込むみたいに、優しい言葉で、湿った嘘で、じゅくじゅくと私を満たした。
それこそ、私が求めていた”幸福”だったのよ。
この幸福をこのままに、永遠に保存したいの。
だから、これでおしまい。
私は今日、壺の蓋を閉じることにしたの。
そうすれば、あなたの愛は、永遠にここにとどまる。
私の喉元で、あの日の甘さのまま、発酵し続ける。
ありがとう、あなた。
さようなら、私。
そんな書き置きと一緒に置かれていた大きな壺には、ドロッとした赤黒い液体で満たされていた。
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