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世界の攻略をきめたときの話

 朝日は美しかった。これだけは自信をもっていえるよ。

 嵐と地震で世界が作り変わった次の日は、なにもかもが美しくなっていた。


 青白い光に満たされた、半分以上が崩壊した世界だ。

 遠くに細長いビルが生えてたよ。すぐ目の前に植物の茎を屋根にしたあばら家があった。アスファルトの舗装が剥がれて土と石の道になっていた。


 パパとママの寝室に移ると、窓から遠く、森ができているのが見えた。一番ちかくにあった家は鉄筋のアパートになっていたよ。


 昨日も歩いたはずの道は、ぐねぐね曲がりくねって見たこともない形になっていた。


 ボクは外にでるために命綱が欲しくなった。

 正面にあるアパートを見に行くのが恐ろしくてね。

 扉を開けて、外に出たところで、足が止まっちゃった。


 匂いがするんだ。

 昨日までは一度も嗅いだことのない匂い。人や――なにか生き物が死んで腐ったような匂いだったら、たぶん、ボクは安心できたと思う。


 でもちがった。

 扉をあけてボクが嗅いだ匂いは、知らない世界の空気だった。

 人がそこに暮らしていたという形跡のない、まったくの無臭だよ。強いていうなら土と草の匂いなんだろうけど、虫すらいない世界に匂いはないんだ。


 ボクは家の玄関先まででたところで引き返した。

 抜けるような青空が恨めしかったな。臆病なボクを笑っているような気がしたから。


 ボクは戦略を立て直さなくちゃいけなくなった。

 まずは家中の水栓と電気を確認した。ぜんぶ無事だった。そのときボクがついた安堵の息をキミにも聞かせてあげたいくらいだ。


 涙が出てきそうだった。

 もうすでにどれだけ泣いたかわからなくなっていたのに、恐怖で足が竦んでいたのに、ぜんぶを忘れるくらいに力が抜けた。


 ボクは世界を攻略しようと情報の整理をはじめた。きっと、そのほうが落ち着いたんだと思うよ。いま思うとね。あのときは必死なだけだったけど。


 まずは外にでる理由が必要だった。基本は食料と飲み水だ。いまのところ水はいくらでも手に入るけど、いつ失われるのかわからない。最低限の清潔も保たなくちゃいけないから、躰を洗ったり拭いたりできるものも集めたほうがよさそう。


 それから大事なのは、家の外でなにが起きているのか知ることだった。

 ゲームばっかりやってたボクの目から見ても世界は異常なことになっている。なんでこんなことになっているのか、知らなくちゃならない。


 ネットもテレビもつかえないから、世界の断片を追えるなにかが必要だった。

 ボクは新聞や雑誌なんかは嘘ばっかり書いていると思っていたけど、ほかの情報源がないならそれらを活用するしかない。


 ここで、問題が起きた。

 ボクはいまいる、つまり当時はわからなかった、日本という国でつかわれている日本語が読めないし、書けないし、聞き取ることができなかったんだ。


 だからボクは、最初の家で見つけたような、小学生がつかっていそうな教科書なんかを拾い集めて、言語を学んでいかなくちゃいけなかった。


 家をでる理由はできた。ぜんぶ必要なことだ。


 つぎは、どうやって安全に家をでるかだ。

 まず注意しなくちゃいけないのは嵐と地震だ。あのころはまだ名前をつけてなかった。嵐は空を見ればわかるけど、地震はいつくるのか予想ができない。


 地形が――つまり街の形だけど――どう変化するのかわかれば対応する方法も思いついたかもしれない。でもボクにはなんの知識もなかった。


 どうやったら安全に家の外にでられる?

 家のどこかに縄を結んで、もう片方を自分に結んで、命綱を伸ばす? 

 笑っちゃうだろうけど、ボクは真剣だった。


 家はボクの食料貯蔵庫で、唯一の安心できる場所で、電気も水もつかえる場所だ。料金を払う方法がないから、いつつかえなくなるのかわからないんだけどね。


 逆にいえば一ヶ月か二ヶ月か、それくらいはつかえるのかな?

 大真面目にそんなことを考えてたよ。だったらカレンダーに印をつけておかないとって。


 ボクが――というか、ボクの家が何月何日にあるのか教えてくれそうなのは、ボクの携帯電話だけだから、ボクはそれに気づいて慌ててカレンダーに印をつけたよ。


 最初の日がいつだったのか、まだ思いだせない。

 その時点で何日経っていたのか、わからないんだよ。

 ボクは記憶を辿ろうと、家中を探し回った。でも、そんなことをする必要はなかったんだよね。携帯電話で最後に連絡した日を調べれば最初の日はすぐにわかるはずだったんだ。


 ボクが学校に行った日だったから、パパに車で送ってもらって、わかれてすぐに心配しないでって連絡をしたんだ。だから、そこに日付が残ってた。


 気づくのは、一週間くらい経ってからだったけどね。


 ボクは必死だった。

 早く世界の仕組みに気づかないと死んでしまう。死にたくなかった。パパやママに会いたかったし、行きたくなかった学校が恋しくなっていた。


 いまでも信じがたいことだけどね。

 小学校のころだったかな。風邪を引いたみたいだと嘘をついて休んだ気分にちかいかも。なんだか不安なんだ。大好きなパパとママに嘘をついてるわけだから。


 きっとパパとママもわかっているんだけど、ふたりともそういうときだけ演技力が抜群によくなって。


 ボクは部屋で過ごすんだけど、ゲームをしようにも集中できないんだよ。いつ部屋のドアがノックされるんだろうって気になるし、すごく優しくしてくれるからね。


 何度も病院に行くか聞かれて、とりあえず寝てるよって何度も嘘をつくんだ。その意味ではボクもいい子だったと思う。気が重くなったから。


 でも中学校にあがって、高校までいくと、ボクもふてぶてしくなったものさ。

 平気で休んでいられたからね。

 でもそれは、きっとだけど、嘘をついてなかったからだと思う。急に不安になったのは本当のことだし、友だちもできなかったから。


 ごめん、話が逸れちゃったね。

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