9話「穏やかな楽しみもあるものです」
「民から愛される王女でありたいですから……できるだけ」
「ああそういうことでしたか」
それが国の平穏を守ることでもあると思う。
「はい。王女であることは変えられずとも皆の心に寄り添うことはできるはず、そう思っているのです。……と言っても、若干世間知らずな要素があるところなんかは変えようがないですけど……そこは、まぁ、置いておくとして、ですね……」
完璧な人間にはなれない。
誰しも欠けはある。
ただ、それでも、それ以上の良いところを持った愛される人間になれたら――そう考えてはいるのだ。
「セレスさんは素晴らしい方ですよ」
「……口説いてます?」
「いえ、そうではなく。純粋にそう思うのです。王女でありながら威張っていないしいきってもいない、金だけを見ているわけでもなく、贅沢することだけを生きがいとしているわけでもない。素朴で可愛らしい女性です」
「え、っと……それって口説いてます?」
違うと分かっていても敢えて言ってしまうという、呆れるような性。
「何回も仰いますね」
「ちょっとそう聞こえます……」
「それは失礼しました」
「い、いえ……」
少し、沈黙があって。
「それに、セレスさんの衣服のセンスが好きです」
「えっ……」
「前から思っていたことなのですが、セレスさんはいつも落ち着いた服装をされていますよね。ドレスにしても過剰な装飾のないものですし。……そういうところも素敵だな、と」
べた褒めされると顔が溶けてしまいそうになる。
「あ、ありがとうございます……でも、ええとその……ヴォルフさん、さっきからどうしてそんなに色々褒めてくださるのですか」
問えば。
「貴女は貴女の良いところにもっと気づくべき、そう感じたからです」
思っていたよりすんなりと答えが返ってきた。
彼はこんな場面ですら冷静だ。
「他者に言われて初めて気づけることもあるのではないかと思いまして」
そうか、だから真剣に教えてくれていたのか――何だかとても腑に落ちた。
「嬉しいです、ありがとうございます」
「参考になればと」
「はい! 元気になってきました!」
「いやいや……元から元気でしたよね……」
「あ、言われてしまいましたね」